窮屈な狼

佐々木 煤

三題噺 「満月」「転ぶ」「地図」

 学校の帰り道、母におつかいを頼まれていたのを思い出した。余ったお金は好きに使っていいとのことで、一番安いスーパーへ向かう。10月の初めなのに、お菓子売り場はもうハロウィン仕様だ。私はこういうお店でしか感じられない季節の変わり目が好きだ。じっくり眺めていると、和菓子コーナーに白くて丸いものがあった。

 「げ…中秋の名月…」

 私は中秋の名月、ひいては満月が嫌いだ。それは私が狼人間だから。満月の夜になると、毛が全身を覆い尽くし牙が生え、狼になる。まあ、家族全員なるし朝になると戻るから日常に支障はない。私が嫌な理由はしっぽが生えるとバランスが取れなくなって転ぶからだ。三番目の足が生えたような感じになって重心がぐらつくのだ。狼だからといってみんなが運動神経が良いわけではない。

 団子の近くには『XX町のベストお月見スポットはここ!』と地図のポップアップが張ってあった。なるほど、近づかないでおこう。

 家に帰ると母が台所で夕飯の支度をしていた。牛乳をテーブルの上に置く。

 「お母さん、もうすぐ中秋の名月だって」

 「あら、言ってなかったけ。お父さんもお兄ちゃんもその日はお休みとって、叔父さんのところ行くって。加奈子はどうする?」

 狼人間は満月の日に集まって互いの成長を確認しあう。とは昔ながらの言い訳でどんちゃん騒ぎをする。お正月に親戚が集まるようなものだ。

 「私いいや。着る物とか面倒だし。」

 「そうね、お母さんも家にいようかしら。牛乳ありがとね。」

 制服を着替えに自分の部屋に行く。部屋に入って、机の上のアルバムを手に取る。中は狼だらけ。私の一族の写真だ。みんな勇ましくこちらに向かってポーズを取っている。ちゃんと立てたら、私も集まりにいけるんだけどな。

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窮屈な狼 佐々木 煤 @sususasa15

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