第86話 ここまでとは

「それで、どうするの。行く?行かない?」

 クエスト室を出るや否や、ミオは俺たちに向けて質問する。


「私は行くべきだと思うな。だってさ、せっかく普段活動しているダンジョンに“隠されし世界”につながる鍵があるんだよ。どうして私たちが遠慮する必要があるわけ?」

 セレスティーヌにしては珍しく強気な意見だ。


「わたしは・・・・・・行かないに一票で」

 アリスはおずおずと意見を述べる。


「理由は・・・・・・そもそもノーンチップのメッセージが本当かなー、てこと。それに、沢山の人がいるダンジョンにわざわざ出向いても、トラブルとか起こりそうだし・・・・・・」

 アリスは弱気な意見だ。


 そんなやりとりを見ながら、ミオは

「ねえ、一旦ダンジョンを覗いておかない?そもそもダンジョンが混雑しているって情報も、現実にはどのくらいなのかピンとこないしさ。百聞は一見に如かず、話はそれからよ」


 ミオの意見に、一同頷く。そういうわけでダンジョンに向かう俺たち。

 


 結論から言えば、ダンジョン内は真夏の海水浴場のごとき人混みだった。


「うわあ・・・・・・」

 呆れというのが、俺たちの偽らざる感情だった。


 普段は人がまばらなダンジョンの石造りの廊下にも、その先の部屋にも山のように人がひしめきあっている。


 また、それにかこつけて商売をしようとしている連中もちらほら。怪しげな店を出しているのも多数いる。


「こうなったら最早、冒険にならないんじゃないの?」

 ミオは言う。


「そうだよなあ・・・・・・」

 まさか、ここまでとはな。


「わたしのダンジョン旅行記が・・・・・・」

 アリスは落胆する。そりゃ、ここまで人に押し寄せられては、アリスが本を書く意義が揺らぐよな。


 わいわい、がやがや。喧噪がダンジョン内を包んでいた。


「・・・・・・引き上げましょう」

 ミオは、思案の末に口を開く。


「ここまで混雑していては、クエストもなにもあったもんじゃないわよ。今後の方針は、アルカディア荘に戻って、ソフィアも交えて協議しましょう。」


 ミオの言葉に賛同する俺たち。


「それに、ひょっとしたらレイの【天界との通信】で、今晩ラ・ノーンとの交信が出来るかもしれないしね」


 そうだった。今夜の予定にはそれがあったのだ。


「それじゃ、帰りますか」

「「「はーい」」」


 俺の呼びかけに同時に応じるグレートパーティ一同。俺は【瞬間移動】を発動させ、皆をアルカディア荘まで連れていく。

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