第85話 アリエスさんとの会話


 今日もダンジョンクエストだ。


 あまり適当なクエストがなかったので、今日はフリー探索だ。


「たまにはいいんじゃない、ダンジョンを適当に散策するのも」

 ミオは言う。


「さ、それじゃ出発進行!」

 ミオのかけ声と共に、ダンジョンへと出発する俺たち。なんだか、ダンジョンクエストはすっかりミオが率いる形になっているな。


 と、そのときアリエスさんが俺たちの前に立ちはだかった。険しい顔で、こちらを見てくる。


「グレートパーティのみなさん、これからダンジョンクエストに行かれるのですよね」

「・・・・・・はい、そうですが?」

 どうしたんだろ、アリエスさん。いつになく複雑な顔だな。


「こんなことを申し上げるのは心苦しいのですが・・・・・・今日はダンジョンクエストをやめにしません?」

「え?」

 意外な言葉に、思わず聞き返す俺たち一同。


「アリエスさん、どういうことですか?」


 セレスティーヌが怪訝な顔で尋ねる。


 そりゃそうだ。いったいどうしてまた、ギルド側の人間であるアリエスさんが、クエストを止めるようなことを言うのだ?


 アリエスさんは、決まり悪そうに言葉を紡ぐ。


「そのですね・・・・・・今、わたしたちのダンジョン――つまりリーティア王国地下のダンジョンですね――が、大変混雑していまして」

「どういうことですか?」


 ミオが、若干口調を強めてアリエスさんに迫る。


 ミオのそこはかとない威圧感に、アリエスさんは断念したように肩を落とす。


「はい、全部ご説明しますね・・・・・・これをご覧下さい」

 アリエスさんは【幻映術】で映像を展開する。


 【幻映術】で映し出されたのは、ノーンチップだった。


 画面の中のノーンチップは、例の如く文字を浮き上がらせている。


「ここです、よく見て下さい」

 アリエスさんは、その文字列を指さす。


 そこには次のような文があった。


「隠されし世界――その扉の鍵は、リーティア王国地下のダンジョンにこそある」

 


「これ、どういうことですか?」

 俺の問いに、アリエスさんはさっぱりといった感じで首を振る。


「正直、私にも分かりません。何しろ、本日の明け方、唐突にノーンチップの文章が一斉にこう変化したとのことです」


 アリエスさんは続ける。


「そういうわけで、今朝からリーティア王国地下ダンジョンには“隠されし世界”につながる鍵を見つけようと、各国から勇者やら冒険者やらが殺到しているという有様です。どうです、これでも本日はダンジョンクエストを受ける気にはなりますか?」


 うーん・・・・・・ダンジョンそんなに多くの人がいるのか。


「ちょっと待って下さい。ノーンチップって、ラ・ノーンがいた時代に作られたものですよね?」


 セレスティーヌが口を開く。


「ということは、チップはラ・ノーンが生きていた時代、すなわち一千年前頃の物ですよね」

「はい、まあそうなりますね」


 アリエスさんは首肯する。


「それっておかしくないですか?だって、このリーティア王国って、できてからまだ五百年くらいでしょ。一千年前に出来たノーンチップに、どうしてリーティア王国の名前があるのでしょうか?」


 セレスティーヌの問いに、アリエスさんは困った顔をする。


「正直、私にも理解不能な現象ですね。ただの仮説ですが、ノーンチップは単なる記録媒体ではなくて、生成変化をする高度な情報媒体――つまり、周囲の状況に応じて反応が変わっていくものなのではないかとのことです」


 これ以上アリエスさんを問い詰めても、益はなかろう。俺はセレスティーヌに、そろそろ行こうとを促す。


 アリエスさんは、最後にこう言って、俺たちの所から去る。


「別に、どうしても行きたければ、ダンジョンに行くことを止めはしません。当方としても、ギルドメンバーの皆さんの意思を最大限に尊重する方針ですので。ただ、こちらとしては警告だけはしておかないといけませんからね」

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