第83話 ちょっとした思い付き

「隠されし世界、ねえ・・・・・・」

 ギルドの廊下を歩きながら、ミオは誰に向けるともなく呟く。


「ねえ、レイ。【千里眼】で何か分からないのかな?」

 セレスティーヌが俺に訊いてくる。


「どうかな。流石に、そこまでの能力があるかねえ」

 疑問だよな。そもそも、【千里眼】って遠くでも見渡せる能力だしな。


「ったくもう・・・・・・そもそも、どうしてラ・ノーンはこんな回りくどいことをしたのかしらね。なんでも包み隠さずに、残しておいて欲しかったわね」

 ミオのため息交じりの言葉に、俺は返す。


「さあな。こればっかりはラ・ノーン自身に聞いてみないことにはな」

「ラ・ノーン自身って・・・・・・一千年前にとっくに天国、あるいは地獄に旅立っているでしょ」

 アリスが苦笑する。


「そうだよな・・・・・・まったく、天国でも地獄でも何でもいいから、ラ・ノーン自身と連絡を取れればいいんだがな」

「そうよねえ・・・・・・ん?」


 セレスティーヌが、何かに気付いたような表情になる。


「ねえ、レイ。できるんじゃないの?」

「できるってなにが?」

「だからさ、ラ・ノーンとの交信」

「馬鹿いうな、そんなこと出来るわけが・・・・・・あ」


 セレスティーヌが何を言いたいのか感づく俺。少し遅れて、ミオ、そしてアリスも同様に悟ったらしい。


 ミオ、アリス、俺の三人を見回し、セレスティーヌは頷く。


「そうよ。レイの能力【天界との通信及び召喚】、あれで天界にいるラ・ノーンの魂と交信できるかもしれないわ」


 その手があったか。流石セレスティーヌ、俺の思いつかないことを考えるな。


 ん、だがちょっと待てよ。


「セレスティーヌ、確か天界との交信は、該当するその魂が転生等を果たしていない場合に限る――つまり、ラ・ノーンがまだ天界にいるときにだけ可能なはずだぞ」

「あ、そっか・・・・・・」

 セレスティーヌは肩を落とす。さすがに、一千年前に天に召されたラ・ノーンの魂が、未だに天界に居残っているとは考えがたいよな。


 そんなセレスティーヌに、ミオは声をかける。 


「まあまあ、セレスティーヌ。まだラ・ノーンが天界にいないとは決まったわけじゃないしさ。レイ、とりあえず、アルカディア荘に帰ったら試してみれば?それから考えればいいわよ」

「そうね」


 少しだけ気を取り直すセレスティーヌ。


「じゃ、今日は帰るか。そろそろ腹も減ったし、今日はソフィアがアルカディア荘にいてくれたから、何か作ってくれてるだろうし」


 そうなのだ。今日は、ソフィアはクエストに参加していないのだ。


 ということで、俺たちはアルカディア荘へ帰途につく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る