第68話 デスドール討伐
薄暗い廊下を歩き進む俺たち。
【千里眼】で探るが、やはり魔神水らしきものは見当たらない。
「つーか、魔神水ってホントに存在するんだろうな?」
俺は疑問を呟く。
「うーん、ないことはないんじゃないかな?そういう噂があるわけだし。火のないところに煙は立たないっていうし」
ソフィアはそう言うが、俺の心の内には、未だ疑問がくすぶる。
「おい、みんな待て」
俺の呼びかけに、皆は歩みを止める。
「ん?どうしたの」
とセレスティーヌ。
「こっから先に、またモンスターの大群が闊歩している」
「またスカルズかしら?だったら、私が倒してあげるわよ」
ミオが背中の太刀に触れながら、意気込む。
「いや、どうも違うみたいだ。なんつーか、もっとずっと巨大で邪悪そうな見た目をしているな」
このままだと、俺たちと鉢合わせだな。
「どんな奴らなの?」
「こいつらだ」
俺は【幻映術】でそいつらの様子を見せる。
その大群は、一見すると黒くヌメヌメとした洪水のようだった。だがよくよく観察してみると、手足が幾重にも分かれている、形容しがたい、どす黒いモンスターの集合体だった。
「これ、デスドールじゃないかな?」
セレスティーヌが不愉快そうに顔をしかめる。
「デスドール?」
「うん、そう。以前、魔法史の本で読んだのだけれど・・・・・・兵器として、禁断の魔法で人工的に生み出された、強力なモンスターよ。動く者があれば、敵味方関係なく、容赦なく殺戮するの」
「そんなの、兵器として機能するのか?」
セレスティーヌは首を振る。
「もちろん、兵器としては使いものにならなかった。だから、扱いに困ってダンジョンに投棄されたんじゃないかな」
「そしてそれが、こうして独自に増殖してダンジョン内を闊歩しているというわけね」
俺はデスドールたちの姿を見る。地面、壁、天井とを覆い尽くすグロテスクな異形の者ども。
「うええ・・・・・・レイ、今日はクエスト終わりにして【瞬間移動】で地上に戻らない?」
こういう外見のものが苦手なのか、ソフィアは露骨に嫌そうな顔をする。
「そうだな・・・・・・」
俺は【瞬間移動】を発動させようとする。
だが、少しだけ考えて一端発動を停止する。
よくよく考えたら、どうしてそんなに怖じ気づく必要があるんだ?どんな魔法だって、無限の魔力で使えるのが俺じゃないか。デスドールがどのくらい強力なのかは知らないが、ここまで及び腰になる必要はあるのだろうか?いや、きっとないだろう。
そもそも、ダンジョンでクエストをするようになってから、俺はロクに活躍していないじゃないか。スカルズの軍団は、ミオが華麗に打ち倒した。ごろつきどもは、ソフィアの容赦ない地属性魔法で叩きのめされた。迷宮型モンスター・ストーンウォールはセレスティーヌの機転で倒すことが出来た。
じゃあ、俺は?なにひとつ、パッとした戦果を上げられちゃいない。
このままでいいのか?いいわけないだろう。 俺はパーティメンバーに声をかける。
「なあ、みんな。せっかくだからさ、ここは逃げるのではなく、迎え撃ちたいんだが・・・・・・なあに、俺の魔法の力があれば大丈夫さ」
ということで、間もなくデスドールの大群がやってくる地点に、仁王立ちで待ち構える俺。
セレスティーヌ、ソフィア、ミオの三人は背後に待機している。
「レイ、危険だと思ったらすぐ【瞬間移動】を使うのよ」
心配性の母親の如く、セレスティーヌが言う。
「はいはい、もちろん分かっているよ」
来た。デスドールたちは、身体から伸びている無数の手足を器用に使いながら、恐るべき速度でこちらに向かってきた。黒い光沢のある身体が、ダンジョンの壁に掲げられているたいまつを受けて、鈍く輝く。
ドドドドド、ドドドドド。雪崩を打つような音が、不穏に響く。
だが、俺は慌てずに大剣ディアボロスを構える。
「超上級魔法【聖斬光の驟雨】――」
大剣ディアボロスの刀身が、俺の魔力の影響で神々しく輝き出す。そこを中心にして、強力なエネルギーを内包したレーザーが、同心円状に広がる。
空中に規則正しく配列されたレーザーは、一斉にデスドールたちの方を向く。
「それ、発射」
次の瞬間、無数のレーザー弾が、雨あられとデスドールたちへと降り注がれる。
レーザー弾は、デスドールたちのどす黒い身体を一つ一つ、破壊していく。真っ黒な身体は、レーザー弾によって切り裂かれ、青白く発光したのちに爆散する。
シュバパパパパッ、というデスドールの身体が弾けて四散する音が、激しい雨音のように途切れなく続く。
デスドールは無数の黒い肉片へと形を変えるが、大剣から次々と放たれるレーザー弾は、それすらも見逃さずに悉く粉砕していく。
五分ほどの攻撃で、あれだけいたデスドールたちは跡形もなく雲散霧消していた。
パーティメンバーたちに格好付ける俺。
「どうだい?ま、ざっとこんなもんよ」
メンバー一同、目を丸くしている。
「すっごーい」
パラパラとまばらに拍手をしてくれる。
「よせよ、そこまでされるとちょっと気恥ずかしいぜ」
俺は照れ隠しのように、視線をそらす。
「さ、探索を続けるぞ」
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