第56話 グランスタッド家の事情 その2

 数日前、ダンジョンクエストにグレートパーティが参加することを決めた日の夜。ミオに一通の手紙が届いた。


 それは、実家から届いた、またしてもお見合いの案内だったという。


「ここ最近、意気消沈したり急に怒ったり、注意散漫になっていた原因なの?」

「うん、そう。どうしてもつい考えちゃってね」

「でもさあ、前回みたくまたミオの力でどうにかすればいいんじゃねえの?」


 俺の返しに、ミオはゆっくりと首を振る。


「違うのよ、レイ。私、ちょっと考えたの。仮に前回と同様、私の武術を示すことによって、お見合いをうやむやにしてもさ、またしばらく経てば、うちの実家は見合い相手を探してくるよ。つまり、いくら私がそうしても、根本的な解決にはならないんだよ」


 なるほどな・・・・・・。


 ミオは続ける。


「今回紹介されたお見合い相手なんだけれどさ、ちょっと調べてみたけれど、かなりの猛者だよ。家柄もうちなんかよりずっと上の、騎士一族でさ。武術、弓術、馬術、恐らくすべてにおいて私を遙かに上回っている」


 ミオの表情が沈む。


「うーん、ミオちゃん。あんまこういうこと言うのは何だけれどさ、実家と縁切っちゃえば?嫌な相手と無理に結婚させようとさせるような家なら、もういっそ捨てちゃえば?実際、ミオちゃんはこうしてギルドで自立して稼いでいるんだからさ、そういう選択肢だってあるんじゃない?」

 セレスティーヌの提案を、ミオはやんわりと否定する。


「うん、それも確かに考えはしたよ。でもさ、そうやって実家と縁を切っても、グランスタッド家の後継者問題はなにひとつ解決しないよ。妹たちが、同じようにして誰かと結婚させられるだけだよ」

「そうね・・・・・・」

「うーん・・・・・・」

 俺たち四人は、考え込む。何か良い解決策はないものか。


 しばらくの沈黙の後、ミオが俺を見て、ふと気付いたように言う。


「ねえ、レイって確か、【武器全種の達人】とかいうスキルを持っているのよね」

「え?ああ、そうだが」


 女神様から与えられたスキル。実際には、魔聖大剣ディアボロスぐらいしか使っていないがな、今のところ。


「つまりさ、どんな武器でも使いこなせるってことだよね」

 ミオは念押しのように聞いてくる。


「そういうことかな」


 ミオは何かを閃いたような顔をする。


「思ったんだけれどさ、今回の見合い相手以上の相手がいれば、問題ないわけだよね」

「ん?まあ、そうなるのかな?」


 ミオが何を言わんとしているのか、見えてこない。


 彼女はためらいがちに口を開く。


「えーと、さ・・・・・・つまりね、レイ。私の彼氏になってくれないかな?」

「え?」

 今、何て言った?


「ミオちゃん、どういうことかな?」

 冷静だが怒気を感じさせる声で、セレスティーヌはミオを問い詰める。


 セレスティーヌのその様子を見て、ミオは慌てた様子で手を振りながら言い足す。


「あ、ごめんねセレスティーヌちゃん。ちょっと言葉足らずだったね・・・・・・つまりさ、レイを私の彼氏として、うちの実家に連れて行くって作戦」

「なるほどね・・・・・・」

 ソフィアが、すべてを理解したように頷く。


「つまり、【武器全種の達人】でどんな武器も使いこなせるレイを、彼氏としてグランスタッド家に紹介すれば、もう見合いなんてしないだろう、てことね」

「そういうことよ」

 ミオは首肯する。


「ちょっと待って、それはいくら何でも乱暴過ぎる案じゃないの?」

 セレスティーヌが疑問を呈する。


「だってさ、それじゃ結局グランスタッド家の家督問題も何も解決していないじゃない。ミオちゃんの案って、つまりはその・・・・・・レイを嘘の彼氏として紹介するんでしょ?そんな嘘、すぐにバレるに決まっているじゃない。結局また同じことになるだけよ」

「うん、そうかもね・・・・・・でもさ、セレスティーヌちゃん。私は“いま”結婚したくないだけなんだよね。やっぱり年齢的に早いっていうかさ・・・・・・だから、当面の間だけでもうちの実家をごまかせればいいんだよ。つまり、時間稼ぎってこと」


 その言葉を受けて、セレスティーヌは反論をやめた。しばし思案したのち、彼女はこどもみたいなふくれっ面をして、面白くなさそうに言う。


「むー・・・・・・分かったわよ。それでいいんじゃないの。レイとミオちゃんがカップル役・・・・・・」

 ぷいとそっぽを向くセレスティーヌ。そんなに機嫌損ねるなよ・・・・・・。


 そんな俺たちの様子を見て、ソフィアが口を開く。


「まあまあ、セレスティーヌもミオちゃんもさ。とりあえず、それでいいんじゃない?レイも、それで大丈夫よね?」

「ん?ああ、別に」

 正直、断りようがないだろう。


 そういうことで、俺は彼氏役としてミオと共に実家へと赴くことになった。てか、これで本当に大丈夫なんだろうか。不安しかないのだが。

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