放課後ワールド

大石 陽太

図書室の神隠し (1)

 その日は時計を見間違って、一時間早く登校した。

 いつもより静かな通学路をいつもより慌ただしく登校したわけだが、次第に大きくなる違和感に足を止め、スマホの画面を見ればいつもより数字が一つ小さかった。

 驚きのあまり、少しの間立ち尽くしていた。信じられなかった。まさか、この俺が時計を見間違うなんてフィクションのようなミスをするなんて。

 これも最近よくある超常的な何かによる作用だと信じたい。そうでなければ、今まで泥臭く積み上げてきた自分というものが大きく揺らいでしまう。そんな気がする。

 ……そんなものは夏休みで無くなってしまっているか。

 気温が上がっておらず、乱れたマフラーの僅かな隙間を冷気が貫通してくる。かいた汗もすぐに乾いてしまい、急速に体が冷え上がる。

 もうすっかり冬だ。

 人生最悪の夏休みを経て、迎えた冬はいつもより懐かしく感じた。

 寒さに気を取られているうちに気づけばいつもの校舎に辿り着いていた。

 いつもは人の気配で溢れている校舎も今だけは物音ひとつしない。その姿は人が来たときに備えて、力を蓄えているように見えた。

 少し落ち込み気味の俺が吸い込まれるようにして校舎に入ろうとしたその時のことだ。

 俺にとって全てが終わった高校一年生の冬。

 もはや余生と言わんばかりの精神状態にある俺の頭の上に何かが乗っかった。

 ふわっ、と。

 あまりに軽いそれは俺の頭をギリギリはみ出す程度の面積でよくもまあ、俺の頭にピンポイントで乗っかったもんだと運命さえ感じた。

 しかし、誰もいないであろう、この場所で何が降ってくる? 疑問はモノを掴むより、視線を上へ向かわせた。

 二階から誰かが手を振っている。女子だ。きっと、あの女子の落とし物だ。

 俺は頭の上のモノをそっと持って確認した。















 女性モノの下着だった。
















「は?」























 パンティーだった。


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