8/22 Mon. 十二の挑戦――中級編
女子どもをどうにか宥めてサルと共に金牛宮へと向かった。
「現在、水谷様は白羊宮。糸魚川様は金牛宮。上条様は
扉の開錠中にサルから与えられた情報は俺らに小さくない動揺を与えた。リフィスに追い越されてる。その上、上条先輩との差が縮まってない。
とにかく中へ。さっきに続いてこれまた現代臭の強い部屋だな。ショッピングモールでやってた北海道フェアを思い出す。所狭しと並べられた屋台とのぼり。今回は出題用と報酬用のテーブルも屋台だ。他の屋台にも食品サンプルなどの小道具が数多く見当たる。今回はこの辺がキーになりそうだ。
騎士くんはただのオペレーターでそのストーリーに沿ってる訳じゃないのかもな。双魚宮の鮪は騎士って言葉を使ってたけど、白羊宮の羊人形は使ってなかったし。
紀紗ちゃんが宝箱を開け、中身のタブレットを引っぱってると、
「はるなつふゆなか?」
川辺さんがのぼりの文字を見ながら小首を傾げた。春夏冬中。
「商い中ね」
読み方を教えてあげたら顔がさらに傾いた。
「あきないちゅー?」
「春夏秋冬の中で秋だけがないでしょ? 秋がないからアキナイ。お店の看板としてはそこそこ有名だね。商うって意味と味に飽きないって意味を込めてるみたい」
「おー! なぞなぞっぽい!」
川辺さんの疑問を解消したくらいでタブレットに画像が表示された。目の前の屋台と同じものの内側に前掛けとハチマキをしたウシが立ってる。おうし座だからか。
『土産ならアレを買っていきな。ワインとの相性もいいし、何より子宝に恵まれる』
さっきと比べて随分と簡単だな。と思ったら女子陣は分かってないようだ。そりゃそうか。知ってりゃ易問。知らなきゃ難問。謎解きの常識だな。
軽く見回したらそれはあった。報酬用宝箱の右隣の屋台に並んでる。俺はそっちまで早足で移動して、目的の物を手に入れた。そう、イチジクだ。
ローマ神話に出てくる酒の神バッカスがワインの次に好きなもの。一株から多数の実がなることから多産、子宝に恵まれる、実りある恋、などの花言葉を持つ。
5問目にしてやっと初正解か。これは先が思いやられるね。
けどこれで上条先輩の背中が見える。意気揚々と戻る俺に対して、しかし仲間の目は冷たかった。なんでじゃろ。
『答えは?』
マス目は1つ。入力方法は漢数字のテンキーだった。あっれー?
思わずサルを見た。この憎たらしいサルは口を両手で押さえてるが、言わざるじゃなくて笑いを堪えてるように見えるのがさすがの上条スタイル。血圧が上がるわ。
「どうしてイチジクを持ってきたの?」
内炭さんに問われたから答えてみる。彼女は感心しながらもスマホで調べ、事実であることにさらなる感心を示した。
「碓氷くんって神話系は本当に強いわよね。私も履修しようかしら」
「羊人形の時みたいにイチジクの中にヒントがあるとか?」
優姫が手を出してきたからイチジクを渡した。食品サンプルだから塩ビか蝋で作られてると思うし、それはなさそうだけど。
「あっ! イチジクってイチって文字が入ってるよね!」
川辺さんがそれっぽいことを言ったが、
「それならジは二かもしれないし、クは九かもしれなくない?」
「そっか。129になっちゃうね」
そこで紀紗ちゃんが手を動かした。押したキーは九。
「いい?」
美少女に上目遣いで聞かれるとダメでも良いって言いそうになるね。
「いいけど、理由は?」
「あれと同じ」
紀紗ちゃんが指さしたのはのぼりだ。春夏冬中。
「九の一文字。一字の九。いちじく」
まじか。めっちゃそれっぽい。
一応はスマホで調べてみたら難読苗字の1つで
四月一日でワタヌキとか、五月七日でツユリと読む系のやつか。てか春夏冬もそうだわ。アキナシって苗字があるらしい。
「回答していいよ」
初勝利ならず。溜息を吐きそうになり、どうにか飲み込んだ。紀紗ちゃんの成果にケチを付けるのはよくないな。
「やった。わたしもデートできる」
嬉しそうで何より。そのデートが楽しいかは知らんけど。
今回も回答の前に注意事項が出た。間違ってたらタブレットがしばらく使えないよってやつだ。今回は20分になってたから後になるほどペナルティが大きくなってくシステムっぽいね。全クリが少なすぎるのはこれも原因なのかもな。
ふと周囲を見回したら少し離れたとこで亜麻音さんが静かに着替えてた。着ぐるみの中はキャミソールにショートパンツらしい。サルの着ぐるみを屋台の内側に放り投げたから、戻ってみたら水瓶やクジラやオーブンの中にそれぞれの着ぐるみが入ってるのかもしれないね。まあ、これ以上は見るのをやめとこう。後がこわい。
今回の鍵はナンバーロックだったが、6桁もあったから総当たりは現実的じゃないね。紀紗ちゃんが報酬用宝箱の開錠をしてる間にヒツジがやってきて、
「現在、水谷様は白羊宮。糸魚川様は金牛宮。上条様は巨蟹宮にいます」
アナウンスの内容がさっきと同じだ。これは上条先輩に追い付くチャンスか。
「なお、本日までの12組の中で1組がこの試練を乗り越えられませんでした」
つまりは白羊宮までの難易度が初級。金牛宮から中級ってくらいになる訳だな。
残り時間に余裕はあるが、とにかく急いで
部屋の中は前回から一変して物が少ない。今回の宝箱はどっちも床に直置きで、報酬用の方の左右に子供のマネキンが2個置いてある。ふたご座の暗示かね。
特筆すべきは側壁や床面に描かれた絵だ。正しくは壁紙だが、幼児がクレヨンで描いたような感じの、どっちかって言うと抽象画のように思えるやつ。人間や建物っぽいものが見当たるから風景画なんだとは思うけど。
優姫が宝箱からタブレットを出し、
「ながっ!」
優姫の反応がオーバーになるのも分かる。俺も思ったもん。
『ぼくらは旅が好きだ。
まずは海を眺めるために2つある岬の片割れに向かい、そこから北の沖を見渡せば5つの島が見つかった。
海に満足したら次は山だ。ここにはなんと6つも山があるらしい。
楽しみに思いながら道を歩き、やがて豊かな森に入った。
木々の上では鳥が愛を語って葉を揺らし、長閑な時間に幸福を感じていたら、ぼくらの姿に驚いた鹿のつがいが勢いよく逃げていった。
悲しむのも束の間、熊の姿が目に入ってぼくらも逃げだすことになる。
森を抜けたら良い感じの丘が3つあり、人より大きな岩石のある丘を選んだ。その岩石によじ登って前方を見てみれば野原が広がっていて、そこでは無数の兵士が左右に大きく分かれて訓練をしていた。
悲しいね。人殺しの練習なんかより愛の歌を奏でようよ。
その方が絶対に幸福になれる。そういえばこの先にある大きな都市に新しい城を作るって知らされたっけ。戦争は嫌いだけど、そのお城は見知っておきたいな。
完成したら祝賀の手紙も2つ出さなきゃね。訓練の邪魔をしたら大目玉を食らうから遠回りしていこう。野原を超えたら田園地帯だ。
川の水を馬が飲んでる。こういう風景にちょっとした幸福を感じるよ。例の都市まではもうすぐだ。三つの川が重なったその東にある。あれ? なんて名前だっけ?』
読むのに1分近く要した。問題文が長いということはそれだけヒントも多いということ。だからもう答えに当たりは付いてるが、回答の形式を調べようとダブルタップしてしまったら他の子が問題を読めなくなってしまう。いやらしいな、これ。
って思ったら読み終えたらしい内炭さんが問題画面をスマホでパシャっと撮った。これだから板書に慣れたやつは困る。そんなの思い付かなかったわ。今さら全員に写真を撮れって言うのもなんだし、すぐに読み終わると思うから待ってよう。
間もなく紀紗ちゃん、川辺さんと続いて優姫が最後。結局は2分以上も使ったな。急いでダブルタップしたらチュートリアルの時と同じ形式だった。キーボードによるローマ字入力で、マス目は2個のカタカナ指定。
『都市の名前は?』
「分かった人は?」
一応は聞いてみた。内炭さんは難しい顔。他の3人は素直に首を振った。
「なら俺が答えるわ」
「え? 分かったの?」
内炭さんがびっくりしてる。他の子も驚いてはいるけど。
「ただの消去法だしな」
「消去法?」
「まあ間違ってる可能性もあるから入力してペナルティの時間を調べよう」
タッチすることを4回。俺が2文字のカタカナをマス目に入れたら内炭さんと紀紗ちゃんが目を見開いた。内炭さんがスマホで問題を再確認し、紀紗ちゃんもそれを覗き込む。やがて2人とも頷いたから納得したみたいだね。
『回答する』のボタンを押したらペナルティはたったの1分だった。選択式じゃないから総当たりで解けないし、その辺を考慮しての数字なのかね。
こっちとしては有難い話だ。躊躇なく押せる。
『正解! 右にいる双子の左腕を外してみよう!』
ホッとした。早速マネキンに向かって脱臼の準備に入る。そこに川辺さんが来て、
「どうしてギフなの?」
優姫も分からないって顔をしてる。
「あの問題文は都道府県を示してたんだよ。5つの島は福島、島根、広島、徳島、鹿児島。6つの山は山形、山梨、富山、和歌山、岡山、山口。わざわざ3回も出してきた幸福ってのは福島、福井、福岡のことだと思う」
「え! あの短い時間で都道府県を全部見つけちゃったってこと?」
おっ、肩が外れた。軽く振ってみたら中でカツカツ音がする。鍵かね。
「そうじゃなくて。三つの川が重なるってとこだけ数字が漢数字だったでしょ?」
「3つの川……」
川辺さんなのに川に弱いのか。
「神奈川、石川、香川」
「それ!」
「まあ重要なのは川じゃないんだけど」
「……あぁ! 三重!」
「そう。岐阜は三重の東ってか北東だけどさ。真東の愛知は愛も知も文章内にあったし、逆に岐阜は岐も阜もなかったからね。それで消去法。静岡、岡山、福岡のオカとか長崎、宮崎のミサキが違う漢字になってたから少しだけ心配だったけど」
「でもすごいよ!」
ありがとうございます。やっと自分だけの力で鍵を手に入れたわ。感無量です。
「11組の中で1組がこの試練を乗り越えられませんでした」
まだ次の鍵を手に入れてないのにヒツジがウマになってる。
「なお、現在の水谷様は金牛宮。糸魚川様は双児宮。上条様は巨蟹宮にいます」
まじか。上条先輩が足踏みしてる。休憩してるだけって可能性もあるけど。
もう結構な時間が経つし、難しい内容だったら休憩を兼ねたシンキングタイムとしようかね。という訳で巨蟹宮、かに座の部屋へGO。
内装は金牛宮と同じような感じだ。違うのはのぼりがなく、それぞれの屋台に提灯が置いてある。その提灯にはカテゴリを示す文字が入っていて『果物』『雑貨』『料理』『書物』『玩具』『お宝』『人形』『カニ』の8つが見当たり、実際にそこの屋台には対応した物が置かれてた。お宝に関しては手作り感が強すぎるからよく言っても玩具だな。ぶっちゃけゴミにしか見えない。
川辺さんが出題用宝箱を開け、
「えー、またー?」
川辺さんだけタブレットを触れない件。中に入ってたのはやたらと角ばった形をしてるカニだ。どっちかって言うと箱に後からカニの要素を足した感じがする。
口の部分に取っ手が付いてるから川辺さんが引っ張り、問題用紙が出てきた。
『本は本に非ず。筆は本にも茎にもなる。人は見方次第で人となり。皿は皿でないがゆえに皿となることを望む。我の力で皿にしてやることも可能ではあるが、皆が納得するかは分からぬ。どうか皿の願いを叶えてやって欲しい』
ふむ。普通に分からん。てかさ。
「サラちゃん、どうして欲しいの?」
内炭さんが肩に手を置いてきた。それな。俺も思ったんだよ。とりあえず手をどかせや。それがサラの願いだよ。
「なお、10組の中で4組がこの試練を乗り越えられませんでした」
ウマがプレッシャーを掛けてきた。よし、予定通りにいこうか。
「ちょっと休憩しよう。後半戦に備えてお手洗いと水分補給を済ませとく感じで」
「はーい」
全員がウマにスマホを預け、けど全員揃って最初の小部屋に向かう。冷蔵庫に水が入ってるとのことだったが、チョコも入ってた。ありがたい。脳が糖分を求めてたんだよ。無料とのことだからウマも一緒にチョコを食べた。
「あのカスはまだ巨蟹宮で立ち往生のようです。糸魚川様も巨蟹宮に到着。水谷様は双児宮ですね」
ふむ。だったらもう完全に右脳タイプ用の問題ってことだな。右3程度じゃ話にならんのかもしれん。そのくらい奇抜な回答を求められてるってことか。
女子は4人揃ってお手洗いに行き、ぼっちの俺も済ました。さすがにウマも男子トイレまでは付いてこないらしい。通路に出たら目の前にいてびびったけど。
そのまま巨蟹宮に向かい、それぞれの屋台を見てみる。問題文にあった物から探してみるか。
まず本は普通に『書物』のとこにいっぱいある。筆は『雑貨』に3本あるな。シャーペンとかも筆として扱うなら30本近くはありそうだ。人は人形でいいならそのまま『人形』のとこにめっちゃある。
皿に至っては『果物』『雑貨』『料理』『玩具』『お宝』『カニ』で数枚ずつくらい使われてる。上に何も乗せられてない皿は『雑貨』と『玩具』と『お宝』のに限られるけど。
あっちに行ったり、こっちに行ったり。そのたびにウマが付いてくる。馬車を手に入れた勇者の気分になるぜ。
「飛白とは上手くやれているかい?」
唐突にウマが話し掛けてきた。
「どうですかね。基本的に振り回されてるとは思いますけど」
「あの子は昔から興味のないものには見向きもしないで、興味のあるものは壊れるまで使い潰すところがあるからね」
なんでそんなこわいことを言うの。
「どんまい」
一方的に恐怖させて、一方的に慰めてきた。なんて自分勝手なんだ。
しかもこれで話は終わりらしい。ただメンタルを削るだけとかゲームの妨害行為じゃないんですか。今のがこの謎解きのヒントとも思えんし。
ここは1つ。何かの萌え画像でも見てメンタルケアに勤しみましょうかね。ってズボンのポケットに手を突っ込んだらスマホがなかった。
そういや返して貰ってなかったな。ついでに言えばこのポケットの中に入ってた鍵って返さなくていいのかね。
「この鍵ってどのタイミングで返せばいいんですか?」
俺が持ってるのは5本だ。宝瓶、金牛、巨蟹の入口用と、白羊、双児の報酬用。入口用と報酬用でサイズが違うから混ざってても後で分かるのは簡単だが。
「いつでも構いません」
「じゃあ失くしたら困るので渡しておきます。あとスマホください」
鍵5本とスマホのトレードに成功した。失敗したらキレるけどね。
そこでふと思った。入口はすべて鍵が要るが、報酬の方は鍵を必要としない場合がある。いま5本を返したけど全部で何本あるんだっけか。現在が7問目。磨羯宮は施錠されてなかったから入口の鍵は6本だけど。報酬用の鍵は?
「今の5本を除いて俺らって鍵をあと何本持ってるんでしたっけ?」
ウマは視線を上方に彷徨わせ、やがて右手をパーにした。5本か。忘れないうちに回収しとこうか。
4人とも小部屋のパイプ椅子に座って水を飲んでた。俺は手を差し出して、
「鍵を返すから渡しておくれ」
「私は持ってないわね」
内炭さんが即答した。今日のあなたは完全にアシストモードですもんね。
「川辺さんはいくつ?」
16って言ったらデートは白紙の方向で。
「2つかな」
チッ。
「優姫は?」
「2本」
「じゃあ紀紗ちゃんは1本?」
「そう。1本」
まとめてウマに返す。ついでに彼女らもスマホも返して貰う。
残り時間が60分になるまで休憩してもペース的には悪くないけど、さて。
「ちょっと恥ずかしい」
川辺さんがてれてれとしながらこっちに来た。
「16って答えそうになっちゃった」
言えばよかったものを。
「紀紗ちゃんのときみたいに何本? って言ってくれたらよかったのに」
ん? なんか引っ掛かった。
「いくつって聞かれると最後をつにしたいんだけど。16の場合はじゅうむっつ?」
「俺なら16個って言うね」
あっ。それかもだわ。
速攻でグーグル先生を叩き起こした。『筆 助数詞』で検索。画面をスクロールして一通り見る。が、目的のものが見つからない。
いっそのこと『筆 本 茎』にしちまうか。ダメだ。これも出てこない。
違うのか? って思いながら『筆 本 茎 助数詞』にしてみたら、
「あった」
筆の数え方。一本、一
筆(の数え方)は本にも茎にもなる。ってことか?
これをベースに考えると、本(の数え方)は本に非ず。冊だもんな。
人(の数え方)は見方次第で人となる。これは発声するとヒトがヒトリ、ヒトがフタリ、ヒトが3ニンって感じで対象と助数詞の言葉が一致してないが、文字に起こすと人が一人、人が二人、人が三人と言った感じで一致するって意味かもしれん。
そして皿だ。皿(の数え方)は皿でないがゆえに皿となることを望む。皿の助数詞は枚だ。なのに皿となることを望む。皿。皿。皿。んー? お前、皿になれんの?
特に何がって訳じゃない。さっき食べたチョコの糖分が脳にお届けされたのかもしれない。ただ、気付いた。
回転ずしのCMって一皿100円って言ってね?
つまり、皿は皿となれる。その条件は料理を乗せることだ。
だって一皿って料理の助数詞だもんな。一品って言い方もするけどさ。
そうなるとカニの言い分も分かる。皿に茹でたカニを乗せれば一皿と言えなくもないからだ。けど「それって一杯じゃね?」って言うやつは絶対にいる。だから皆が納得するか分からないんだ。これ、論理的じゃね?
という訳で説明してみた。
「悔しいけど合ってると思う」と内炭さん。
「完璧じゃない?」と優姫。
「絶対にそうだよ!」と川辺さん。
「おお」と紀紗ちゃん。
急いで巨蟹宮に戻ってみる。そんですべての空いた皿に食品サンプルを置いた!
「…………」
何も起きない。そりゃあそうだよね。これがタブレットの中の出来事ならイベントが発生してもおかしくないけど、現実ってそんなふうにできてないもんね。
「ロジックは合ってると思うんだけどな」
そう言い訳したとこで気付いた。ダメだわ。ロジックが合ってるだけで許されるなら上条先輩が足踏みするはずがないだろ。まだ発想が足りないんだ。
けど何も出てこない。いや、下手に正解っぽい道を見つけてしまったせいでどうしてもそこをベースに考えてしまう。論理的思考の欠点の1つだな。間違ってないから正しいと思っちゃうんだ。思考のリセットが上手くできない。
5分。10分と無慈悲に時間が流れていく。
さすがに焦る。10組中4組を落とすだけはあるわ。まじで分からん。
「もう手当たり次第でタブレットを探した方がよくない?」
内炭さんの意見も正しい。というか否定する理由がない。そう小さいものでもないから手当たり次第って言っても探せる場所は限られてるしな。
ただ、双魚宮のように鍵が直で隠されてる場合は困ったことになる。人ってのは1回調べた場所は問題なしって認識になっちゃって2回目の捜索が甘くなるからな。探すなら最初から鍵込みで探さないといけない。なのにそうすると捜索範囲が広すぎて時間内に終わる保証もない。けど他に打つ手もない。
「仕方ない。しらみつぶしでいくか」
これはある意味で敗北宣言だ。頭で解けなかったから力で解く。正直、だせえな。
「じゃあ担当を決めるか。内炭さんは」
「あっ!」
優姫の大声が俺のセリフをかき消した。なんだ? 料理の屋台にいるけど。
「鍵。あった」
全員が全速力で優姫の元に駆け寄った。本当だ。鍵がある。
「さっき一皿って料理の助数詞だって言ってたでしょ?」
真顔でしゃべる優姫。全員が真顔で頷く。
「だからみんなでお皿に料理の食品サンプルを置いたでしょ?」
やはり全員が真顔で頷く。
「けどコレって乗せてないなって思って」
優姫が見せたコレ。それは食べ物じゃなかった。
『料理』と書いてある提灯だった。
その提灯の下に鍵が隠れてた。そういうことだ。
「うおおおおおお!」
「きゃあああああ!」
「わああああああ!」
みんなで大声を出しながら優姫に抱きついた。
「お前! 皿に提灯を乗せようとするとかほんとヴァカだな!」
「本当にそうよ! そんな料理を出したらお店が潰れるわよ!」
「食べる! わたしが食べるよ! ゆうっきー!」
「お姉ちゃん! 絶対に頭おかしい! 信じられない!」
「……褒めるならちゃんと褒めてよ!」
本当はこんなことをしてる場合じゃない。そのくらいに時間が惜しい。
けど、この時間を終わらせてしまうのはもっと惜しいと思った。
きっとみんなそうだ。内炭さんと川辺さんなんか感動して泣いちゃってるし。
俺だって半泣きだ。優姫も今にも泣きそうで、紀紗ちゃんだって瞳が潤んでる。
絶望した状態から起死回生の一撃。
アニメとかでも絶体絶命のピンチに予想外のヘルプが入って、おお! ってなることはあるけど、そんなの比じゃないね。
やべえわ。リアル、やべえわ。
アドレナリンドバドバで訳わかんなくなってたからよく聞こえなかったが、
「おめでとうございます。他のお三方は巨蟹宮にいます。単独首位になりました」
早くもヘビに姿を変えた案内人は淡々とそう告げた。
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