7/10 Sun. ロバを売りに行こう――後編

 雑貨屋を出て自転車の鍵を手にしたとこで気付いた。紀紗ちゃんのらしき自転車が見当たらない。近いから徒歩で来たのかな。


「自転車。乗っていい?」


 紀紗ちゃんの唐突な山賊モードに動揺を隠せないよ。俺に走れってか。


「歩いていこうか」


 俺も紀紗ちゃんに走れと言う気はない。暑くてだるいが、転がしていこう。


「乗りたい」


 なら家から乗ってきたら良かったじゃないの。


「2人乗り」


 代替案を出すのは結構なことだが、道路交通法違反だし、そもそも俺の自転車には荷台がない。2人乗りをするには保育園児のママさんよろしく紀紗ちゃんを前かごに入れるしかないんだよね。


「だめだよ。乗りたいなら油野家まで取りに行こうか」


「送り狼?」


「どこでそんな言葉を覚えたの」


 お兄さん、ショックだよ。これも時の流れによるものかねえ。こうして知らない間に少しずつ大人になってくんだね。


「歩くなら手を繋いで欲しい」


 いや、子供かよ。こんな寂れた商店街で迷子になんかならんだろ。


「自転車を引きずるから両手が塞がるし」


 やんわりお断りしてみる。


「じゃあ。おかみさんちに自転車を置きにいって、手を繋いでワールドに行こう」


 はい、そうですね。ってなる訳がないよね。じゃあ、の意味が分からん。


 もしかして兄妹喧嘩とかしてんのかな。それでお兄ちゃんに甘えたくなってんのかな。そういう理由があるのなら周囲のヘイトを集めるタンク役になるのも吝かじゃないんだが、ぶっちゃけ代償行為なんかやめて油野に頼めばよくないかね。


 紀紗ちゃんの目を見てみる。宿理先輩と違って感情の薄い瞳だ。ここは不幸ながら兄に似てしまったな。無口キャラとは言わないまでも無感情キャラとは言えそう。


 そのまま1分くらい見つめ合ってみた。お互いが異性と意識してないせいか、顔が赤くなることもない。何を考えてんのかさっぱりだわ。


 しゃあないか。知り合いに見られないことを祈りましょうかね。このクソ暑い中でああでもないこうでもないと言い合うのは建設的じゃないし、なんか頼りにされてるような感じもするし、お兄ちゃんのロールプレイでもしましょうかね。


「じゃあそうしよっか」


「やった」


「お兄ちゃんって呼んでも良いのだぜ?」


「その単語。使ったことない」


 そうだったわ。紀紗ちゃんって油野のことも宿理先輩のことも呼び捨てだわ。あのイケメンクソ野郎が佳乃さんと宿理先輩を呼び捨てにしてるせいだね。


 とにかく一旦は俺の家に移動した。紀紗ちゃんは手を繋ぐ代わりに俺のシャツの裾をずっと摘まんでた。本当に、どうしたんだろね。油野はともかく宿理先輩に連絡した方がいいんじゃないかと思えてきた。


 それにしても、女子と手を繋いで歩くとか小学生ぶりではなかろうか。優姫は感極まるとすぐに抱き付いてくるし、それと比べたらどきどきすることもないんだが、この場面を地元民の優姫に見られたらどうしようって意味でどきどきはする。


 20分くらいかな。紀紗ちゃんの歩幅に合わせて移動したらそんなもん掛かった。


 まずはどこに行くのかなって思ったらブティックだった。紀紗ちゃんは感情の薄い瞳をおしゃれな衣服や小物に向けてる。こんな場末の小売店でウィンドウショッピングをするくらいなら宿理先輩にお下がりを貰えばいいと思うんだけどな。


「おかみさんは宿理をどう思う?」


 抽象的だな。可愛いとも思うし、友達思いだとも思うし、アホだとも思うよ。


「ざっくり言えば素敵な女子だと思うね」


 蹴られた。なんでやねん。


「女の前で他の女を褒めちゃだめ」


 これさ。まじで理不尽だよね。ならなんで聞くんだよ。


「宿理は可愛い」


 しかも自分は許されるんだぜ? 言論の弾圧はよくないよ。


「わたしは可愛い?」


 は? って言いそうになった。


「可愛いに決まってるよね」


 紀紗ちゃんは俺の目を一瞬だけ見て、また商品に目を向けた。


「宿理に似てるから?」


「ん?」


 質問の意味が分からん。


「みんな言う。油野さんはやどりんに似て可愛いねって」


 あぁ。なるほどね。宿理先輩は可愛い。紀紗ちゃんも可愛い。けど宿理先輩の可愛いは純粋な評価なのに対して、紀紗ちゃんの可愛いは宿理先輩の影が付きまとう。これは厄介な問題だなぁ。


 例えば、自分に優秀な兄がいたとして、その人の存在とは関係なく、内炭さんのように努力して、努力して、努力して。やっとの思いで学年トップの成績を収めたとしよう。来る日も来る日も勉強して、したいことも我慢してやっと得た成果だ。自分はよくやったと、誇らしくすら思うくらいの結果に教師は言うんだよ。


「お前は兄に似て優秀だな」


 努力の半分を兄に持っていかれた気分になるよな。努力したのは自分なのに、兄は関係ないのに、その成果に兄は何の貢献もしてないのにね。


 それ、わざわざ兄のことを引き合いに出す必要ある? そう思うよね。


「せっかくやどりんみたいに可愛いんだからもっとおしゃれしたほうがいいよ。やどりんみたいにもっと笑顔を見せたほうが可愛いと思うよ。こんな服を着ればもっとやどりんみたいに可愛くなるよ。もっとやどりんみたいに明るくしようよ」


 紀紗ちゃんは視線を足元に落として、声色に影を塗り込んで呟いた。


「やどりん、やどりん、やどりん。ばっかみたい」


 これも出る杭の一種だな。好きで目立ってる訳じゃない点と、有名税に近い点から高木のパターンに最も近いと言える。てこの原理で心がポキっと折れそうな感じ。


「バカなんだよ」


 繋いだ右手を少しだけ強く握る。


「少なくとも俺は紀紗ちゃんを宿理先輩に似て可愛いって思ったことはないな。どっちかっていうと似てないって思ってるし」


 紀紗ちゃんが強く握り返してきた。任せろ。膏薬を塗るのは得意だ。


「そりゃあ見た目は似てるよ。けどそれは血のせいだ。だって姉妹なんだからな。そのみんなとやらが言うやどりんも俺から言わせれば佳乃さんに似てるし、もっと言えば油野ママに似てる。幸運にもあのハゲにはこれっぽっちも似てないが」


 紀紗ちゃんが視線を上げた。上目遣いの瞳に俺も吸い込まれるように瞳を向ける。


「俺らって割と久しぶりに会っただろ? その時に俺がなんて思ったか分かるか?」


 ぶんぶん首を左右に振った。


「やっぱ超可愛いわ。あの存在そのものが喧しい姉と違って清楚な感じがいい。だ」


 紀紗ちゃんが目を見開いた。そしてみるみるうちに顔を真っ赤に染めていく。


「やどりんは可愛い。それは俺も否定しない。明るいし、よく笑うし、一緒にいると楽しい気分になれるのも確かだ。けどな。その陽キャのスタンスが絶対的に正しいかっていうとそうじゃない。俺からすれば宿理先輩は夏の太陽だ。もっと熱気を抑えて欲しいって思うこともそこそこある。まじで存在そのものが喧しいんだよ」


 良い意味で、だけどな。当然。


「だから紀紗ちゃんはそのままでいて欲しいね。秋の月みたいにって言うと少しかっこつけすぎかもしれんが、ただ静かにそこに存在して、ふと見たら、ああ、綺麗だなって思えるような。ってなんかめっちゃポエマーみたいなこと言ってるな」


 紀紗ちゃんがまた首を振った。そして少しだけ体重をこっちに預けてくる。


「うれしい」


 二重の意味で恥ずかしい。恥ずかしいついでに続きを言おう。


「元気を出せって無責任なことは言わんけど。つらそうにされるとね。なんかね」


「なんか?」


「月見ればって感じになる」


「……? なにそれ」


「月見れば。ちぢにものこそ、悲しけれ。わが身一つの、秋にはあらねど」


「短歌?」


「小倉百人一首ね。月を見ると、あれこれときりもなく物事が悲しく思えてくる。自分一人だけに訪れた秋じゃないんだけど。って感じの意味」


「秋の月。わたしのこと?」


「そういうこと。つまりはまあ、悲しくなっちゃうね」


「そっか」


 紀紗ちゃんはまた俺の目を見てきた。目を合わせて話すの苦手なんだけどね。


「おかみさんにだけ訪れた秋だって。思ってもいいよ?」


 わけわかめ。どう反応しようか迷ってたらバケットハットが目に入った。


「紀紗ちゃんって帽子は被らないの?」


 唐突な問いに、紀紗ちゃんは小首を傾げ、俺の視線を追った。


「持ってない」


 今週の土曜は車と電車のはしごだったせいか1人もかぶってなかったが、先週の土曜は優姫も内炭さんもかぶってた。日射病対策か、ただのおしゃれかはともかくとして、まだ7月の上旬なのにクソ暑いし、1つくらいはあった方がいいよな。


 紀紗ちゃんは肩甲骨くらいまで黒髪を伸ばしてるし、大きめのものがいいのかね。けどパーカーに麦わらみたいなのは似合わんよな。


「実は昨日、人生で初めてのアルバイトをしたんだけど。その場で給料を貰えたから余裕があるんだよね。夏の太陽対策でお兄ちゃんが帽子を買ってあげようか」


「夏の太陽。宿理対策?」


「それは忘れてください。あとそれ宿理先輩には絶対に言っちゃダメだからね。あの人、高校で俺をいじめてくるんだよ」


「わかった。口止め料ね」


「そう。口止め料」


 税抜き1800円で闇討ちをされずに済むなら安いもんだ。紀紗ちゃんはダークブルーのバケットハットを選び、


「似合ってる?」


「似合ってる」


「可愛い?」


「可愛い」


 蹴られた。なんでやねん。


「わたし、りぴーとあふたみーって言ってない」


「それずるくね。どう? って聞いてよ」


 判定を求められたから肯定してるだけなのになんで蹴られにゃならんのよ。


「女の子は難しいんだよ」


「そいつは真理だね。けど俺は論理が好きなんだよ」


 と言ったところで紀紗ちゃんのスマホが鳴った。アラームだったらしく、すぐにそれを止めて、


「そうだ。おかみさん、LINE教えて」


「ほい」


 一瞬だけ、私LINEやってないんですよーって言ってみたい衝動に駆られたが、もう蹴られたくないからね。


「ところで何のアラームだったの?」


 今は12時15分だ。俺は朝メシが遅かったからまだいいけど、紀紗ちゃんはそろそろランチが恋しくないのかね。


「映画館に行く時間」


「映画を見るの? もしかして俺も?」


 今やってる映画に興味ねえんだけど。


「映画は見ない」


「ん? なんか買いたいグッズとかあるってこと?」


 だとしたらアラームは別にセットする必要ないよな。


「いこう」


 紀紗ちゃんが勝手に進み始める。手を繋いでるから俺も付いて行くしかない。


 そして映画館に着いた結果、


「油野! 誰だよそいつ!」


 俺より10センチは身長の高いイケメンが待ってた。察するにデートの約束で映画館に来たらしいな。お兄ちゃんに品定めをして欲しいってことかね。任せろ。


 だが俺が何かを言う前に紀紗ちゃんがしかめっ面を見せた。こんな顔もするのか。


「こちら。碓氷先輩。付き合ってる」


「ハァ!?」


 バカ野郎。ハァ!? って言いたいのはこっちの方だ。なんだこの状況。


「なんでこんなっ。嘘だろ!?」


 お? こんなやつって言おうとした? 嘘なのは間違いないけど、失礼だね。


 しかし紀紗ちゃんは感情の薄い顔でハッキリと言う。俺の目を見てハッキリと。


「嘘じゃない。わたしが言った。付き合って欲しいって」


 まじかよ。本当に嘘じゃないじゃん。


 えぇ。これってラブコメとかでよくある「付き合うってそういう意味じゃないんだからね! 買い物に付き合ってって意味なんだからね! 勘違いしないでよね!」ってツンデレがやるやつの逆のパターンだよな。あんのかよ。逆が。「付き合うってそういう意味なんだからね! 勘違いしないでよね!」ってさぁ。萌えるっちゃ萌えるけど、その前に混乱するわ。言葉遊びの域を出ないわ。


「いつから付き合ってんだよ!」


 イケメンくん、必死の抗議。けどそれの回答は俺でも分かる。


「ちょっと前から」


 具体的に言うと1時間くらい前から。けどそう言われると何日か前って思うよね。


「先輩はわたしに言ってくれた。超可愛い。清楚な感じがいいって」


 おい、やめろ。


「秋の月みたいだって。月が綺麗ですねって」


 やめてよお。てか何気に盛ってんじゃないよ。そんな夏目漱石みたいなこと言ってないよ。それっぽいことを中二っぽく言いはしたけどさぁ。


「この帽子だって先輩がアルバイトの初お給料で買ってくれた」


 イケメンくんが顔を歪めた。心が折れかけてんなこれ。


「今日はここまで手を繋いできた。とっても仲良し」


 あぁ、それで2人乗りとかも所望してたのか。ただただ真実を語るために。


「……そいつのどこが良いんだ?」


 苦し紛れのセリフ。俺は共感できるから特に何も思わなかった。が、紀紗ちゃんの顔を見たら心臓がキュッとなった。真顔だ。感情が抜け落ちちゃってる。


「初対面の人に『そいつ』って言わないところ」


 事実上の絶縁状だ。お前を良いとは思わんってハッキリと言っちゃった。


「それじゃあ。今から先輩のおうちに行くから。また学校でね」


 これはたぶんただ帰るって意味で言ったんだと思うが、受け取り手は呆然自失としてしまった。すまんね。けどほぼほぼ事実だから訂正する気にもならんわ。


 手を繋ぎながらの帰り道。紀紗ちゃんはボソッと言った。


「あいつもやどりんやどりんうるさいやつ」


 今日のデートは一方的に日時と場所を指定されたもので、本当はすっぽかそうと思ってたらしい。けど俺を見つけて、この計画を思いついたそうだ。


「まあ、俺を利用するのは構わんけど、できれば前情報が欲しかったね」


「不愉快だった?」


「いや、俺ならもっと痛め付けることができたってだけ」


 真実を並べることで堂々とした態度を取れるのは説得力の強化に役立つが、虚実を並べることもしないとツッコミ1つで破綻する場合もある。例えば「ちょっと前っていつ?」と聞かれたら真実をねじ曲げるしかなくなるからな。


「やりすぎると後が恐い」


「もう手遅れだと思うけどな。あいつ、モテそうだし、今日のことを広められたら紀紗ちゃんが女子からいじめられそうで心配だわ」


 1年差だから俺を知ってるやつもいると思うし、彼氏ってのはすぐに別れたことにすればいいけど、家に行くってのがな。下世話な連中に面白おかしく憶測されるからやめた方が良かった。


 俺の不安が表情に出てたのかもしれない。紀紗ちゃんは俯きがちで呟く。


「わたしも少しくらいは。宿理みたいに愛想をよくした方がいいのかな」


 肯定するのも否定するのも難しい。だから理屈をこねてやる。


「ロバを売りに行く親子って話は知ってる?」


「ロバ?」


「ある日、ロバを飼ってた父親と息子がそのロバを売りに行こうと市場に出かけました。2人でロバを引いて歩いてると、通りすがった人が言います。せっかくロバを連れてるのに乗らないなんてもったいない」


「たしかに」


「その通りだと思った父親は息子をロバに乗せました。しばらく進むとまた別の人が言います。元気な若者が楽をして親を歩かせるなんてひどいじゃないか」


「あ、たしかに」


「その通りだと思い、今度は父親がロバに乗って、しばらく進むとさらに別の人が言います。自分だけ楽をして子供を歩かせるとは悪い親だ。一緒に乗ればいいだろ」


「あぁ、たしかに」


「それもそうだと思って2人でロバに乗って進むとまた別の人が言います。2人も乗るなんてロバが可哀想だ。もっとロバを労わってやったらどうだ」


「……たしかに?」


「それもそうだと思って2人はロバを担ぎ上げて進み、橋の上を通ったところでロバが暴れだして川に落ち、ロバは流されてしまいましたとさ」


「……コント?」


「人の意見なんざ十人十色だ。いちいち鵜呑みにするのはよくないって教訓だな。大事なのは自分の気持ちだってこと。参考にするのは別に悪くないけどな」


 しかし暑いな。俺も帽子を買えばよかった。


「せっかくやどりんみたいに可愛いんだからもっとおしゃれしたほうがいいよ」


 紀紗ちゃんはキョトンとして、急にふふっと微笑んだ。


「たしかに」


「やどりんみたいにもっと笑顔を見せたほうが可愛いと思うよ」


「たしかにー」


「こんな服を着ればもっとやどりんみたいに可愛くなるよ」


「たしかにたしかにー」


「もっとやどりんみたいに明るくしようよ」


 繋いだ手を小学生かってくらい紀紗ちゃんが前後にぶん回し始めた。


「でも余計なお世話だよ」


「そんなんいちいち相手にしてたらロバが橋から落ちるもんな」


「そうだね。ロバが可哀想だから。わたしはこのままでいいや」


「だな。俺もそれでいいと思う」


 ぶん回されてる手を見てたら思った。


「ちなみに俺らっていつ別れんの?」


 紀紗ちゃんが一瞬だけ俺を見てきた。すぐに視線を前方に戻して、


「わたしは。このままでもいいよ」


 それがどういう意味かは分からない。けど論理的に考えればこう返すよな。


「ちょっと付き合って欲しい。そういう話だったはずだぞ」


「おかみさん、記憶力いいよね」


 紀紗ちゃんは溜息を吐いた。ぶん回してた手の動きも緩やかになる。


「もうちょっとだけ。付き合って欲しい」


「分かった。家に着くまでが遠足ってやつだな。てか俺。女子と付き合うのって人生で初めてなんだけど」


「そうなの? 意外」


「意外か? わかるーって言うとこじゃね?」


「お話が上手。なのに聞き上手。慰め上手。褒め上手。一緒にいて楽しい。安心もする。女子の扱い方を熟知してる感じがした」


「ないない。俺よか油野が最近まで交際歴0だったことの方が意外じゃね?」


「だって圭介ってつまんない男だし」


 やっぱ女子って恐いわ。圭介さん、泣いちゃいますよ。


「ちなみにわたしも初めて。おかみさんが初めての人」


 小悪魔の才能がありそうだな。不覚にもどきっとしたわ。


「また付き合って欲しい」


「それはちょっと」


「そっか。男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる。だね。わたしの最初にもうなったから、おかみさんはもうわたしに興味ないんだ」


 色々な意味でいやらしいことを言ってくれる。しゃあないなぁ。


「今日みたいなことなら協力するよ」


「やった」


 紀紗ちゃんは微笑み、ふと小首を傾げた。


「そういえば。おかみさんは雑貨屋さんに何をしにきてたの?」


 忘れてた。


 確か流れとしては、ネットや友人の意見が参考にならんかったから雑貨屋に行こうとして、弥生さんの意見が的を射てたからやめようとして、けど弥生さんがふざけたからやっぱ行くことにして、愛宕先輩の意見で気持ちが大事だと思い、上条先輩の意見で気持ちだけじゃダメかもって思ったとこだったな。ってあれ? これって。


「……ちょっくらロバを売りにね」


 恥ずかしい。どや顔で自分の気持ちが大事とか言いながら思いっきりブーメランが後頭部に刺さってたわ。はてさて、どうしますかね?


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