通りたいだけ

ひるなかの

通りたい

私はため息をついた。なぜなら・・・


「昨日のドラマめっちゃ面白かったよね~」

「ああ、あれね」


そう話す二人に気づいて欲しかったから。

まあ、ため息だけじゃ話に没頭している二人は気づけるわけないか。


とはいえ、どうにかして私はこの二人の間を通らないと帰れない。

どうして一方通行の扉の前を占領してんのよ!

頑張れば窓から飛び降りるってことも出来なくはないけど、何しろここ3階で教室から脱出するだけのためにそんなことするってもはや意味が分からない。



「特にあの場面がよかったよね~」

「ああ、分かる」



一人で突っ立っている私をよそに、彼女らは昨日テレビで放送された今話題の恋愛ドラマの話をしている。


・・・いや気配で気が付かないものなのだろうか。


彼女らは見事に私の方を全く見ず、話に集中している。

まあ、話しかければすぐ済むんだとは思うけど、話してる中無理やり声かけた時の微妙に気まずい空気が嫌なのだ。そんな度胸もないし。



「頭からを受けるところでしょ?」

「そうそう」


先ほどまで相槌を打つだけだった女子が言った。





・・・・ん?



いくらコメディ要素のある恋愛ドラマだとしても私はそんな場面見たことがないんだけど。

私がよく知らないだけ?あれ?


思わず彼女らの会話に神経をとがらせる。



「たらいくんの台詞かっこよかったなあ」

「確かに。妙にネタバレの時のコメントかっこよかった」



あれ?


なんか相槌打ってる子の返答おかしくない?

それに彼女が言ってたのは桶の『たらい』のことであって別に苗字のたらいの方ではないんじゃ・・・。あれ?



「やっぱりプロの人って普通の人と違う心意気で叩いてたんだなって感動した」

「そうだよね。やっぱりプロの俳優さんの演技ってすごいよね~」


』って言ってない?あのドラマ王道ラブコメだったはずなんだけど。


違う話してるはずなのになんで会話成立してるんだろうか?

恋愛ドラマの話してる方はおかしいって気づいてないんだろうか・・?



「でも流石にどんなに物が落ちてきても異変に気付かないの面白すぎ。笑いすぎてスキップするのも忘れちゃったよ」

「ほんと。内容濃すぎてCMの時ですら目離せなかったもん」


え?ん?

リアルタイムでドラマ見ててスキップする瞬間なんてないし、登場人物の頭に物が落ちてくる場面なんて見たことがない。


いや、それともあれか・・私がおかしいだけ、なのか?

最近のドラマは私の知っている物とは違うんだろうか??


だとしても彼女らの会話は嚙み合っていない気がするし・・。


彼女らはまだすれ違いまくっている会話を続けている・・・。













「ああっ!あの!」

とうとうしびれを切らして彼女らに私は声をかけた。

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