ハース・メモリア

第0話 始まりの火

　ただ、ただ。

　ただ無心で打ち込む。

　ガン、ガン、ガン、と鉄をうつ音がこだまする。

　炉（ろ）には聖なる炎

　手には手鎚（てづち）

　私の思いを、圧縮した魔力を吹き込んでいく。

　幾重（いくえ）にも。

　幾重にも積み上がるこの作業。

　何度も失敗した。

　何度も自（みずか）らで作った物を壊した。

　でも、１年前から始めて今（いま）漸（ようや）く。

　私の最高傑作と言えるものが現れようとしていた。

　…２年前のこと。

　ある青年を拾った。

　最初は成り行きで、ただ見ていた。

　でも、見ていたら手を伸ばしたくなった。

　その青年が最期を迎えそうになるのを見ていたら、なんだか放って置けなくて。

　いまだ目を覚さないその少年の魂は大怪我のせいでボロボロだ。

　時間をかけないと、"コレ"に力を込めすぎた私が治すのは無理だった。

　それからの毎日は、楽しかったのかもしれない。

　誰かのために何かを準備するとか、誰かのために生きなきゃいけないとか。

　そんな風に誰かのための事を考えた。

　その次に、誰かのことではない。

　自分自身に目を向けた。

　ガン、ガン、ガンとただ打ち込む。

　…仕上げまで大分近づいたそれは、次第に形を変え、剣（けん）のような形は、逆に球体に近づいていく。

　でも、これは成功なのだ。

　あとは、仕上げるだけ。

　あの人に、お願いをしておこう。

　それで、あの青年が目を覚ましたら手伝ってもらって。

　私は、私の目的を果たす。

　復讐を果たすために、神の剣（つるぎ）を折りに行く

　〜ハース・メモリア〜

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