逃げた俺たちにできることは、遺品を届けることだ。
だいふく丸
第1話
魔物が住む地下都市、ダンジョンにはまだ見ぬ宝石が眠っているらしい。
幼少期の頃、目を輝かせた記憶がある。
魔法学校時代、俺は努力した。強くなって金銀財宝を持ち帰り、悠々自適に暮らす夢を見た。が、現実は甘くないようだ。
俺はパーティーを組み、ダンジョンへと潜入した。ベテランガイドのゴブリンさんに案内され、凶悪な魔物が住む魔界の森林へと足を踏み入れる。
「新米勇者さんたち、モンスターに出会って勝てないと思ったら逃げてくださいね。命は一つしかないんですから」
大剣を背負うリーダーが胸を張る。
「なーに、大丈夫だって! 俺たち、これでも魔法学校でベスト10に入った精鋭なんだから」
アイドル的存在の彼女がいう。リーダーのガールフレンドだ。
「そーそー、心配ご無用だから。ゴブリンさんにもお土産持ち帰ってくるね」
「油断しちゃダメですよ。忠告しましたからね。勇者さん、ご健闘を!」
ゴブリンさんが心配そうに見送る。俺たち5人はランプを手に進む。途中、取るに足りないアリの魔物を蹴散らして、身長をゆうに超える草木をかけ分けていく。
「あったぞ! スネーグオンの卵だ!」
そして、俺たちはお宝である大蛇型の魔物の卵を見つけた。この卵は万病に効くとされ、地上ではかなりの高値で売買される。
俺たちは全て拾った。
帰ろうと後ろを振り返っとき、母親の三つ首の大蛇がそこにいた。リーダーがいう、
「お前ら、練習通りに行くぞ!」
「おっす!」
だが、しょせん練習だ。本番とは訳が違う。
「嘘だ! 俺のサンダースラッシュが通じねぇだと!」
「待って、クリス! 蛇の尻尾が」
「うわあああああ!!!」
蛇の尾がリーダーを殴り飛ばし、その彼女は蛇の口に丸呑みにされた。まったくもって俺たちの魔法は通用しなかった。
その光景を見た俺たち三人は卵を置いて逃げた。逃げて、逃げて、逃げまくった。途中、コウモリ型の魔物に一人食われたが。
ぐちゃぐちゃな感情と、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな表情でダンジョンの入り口まで戻った。
「なんだあいつら、ダセーな」
「やめなよ、ゴードン。聞こえるよ」
「遊びじゃねーんだよ、ここは戦場だ! 二度と来るな、負け犬ども!」
後ろ指を指され、罵倒され、笑われた。惨めだ。鼻水が無限に出てくる。
俺たちは負けたのだ。たった一度の戦闘で俺たちは心を折れた。そして、潜入前にリーダーがくれたお守りを、両親に渡しに行った。母親が泣きながら感謝してくれた。
「ごめんね、あんなバカ息子に唆されてダンジョンに行かされて」
「いえ、俺たちはその、息子さんを見捨てたんです。怒って下さい!」
父親が頭を下げる。
「見捨ててなんかいねーよ。こうして、遺品を届けてくれた。ありがとうよ」
俺たちは心が痛かった。
家を後にする俺たち、曇り空を見上げる俺にフランクが言った。その日から俺たちの仕事が始まった。
「ルーカス、他の死んだ奴らの遺品を届けてやらねーか。逃げた俺たちでも、できる気がするんだよ」
フランクの言葉に、俺は救われた。
「ああ、そうしよう」
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