破っ

西川 旭

=3

 俺こと佐藤一郎は某中堅企業の総務主任である。

 わが社が募集をかけていたアルバイトの採用面接のため、応接室で一人の青年と話しているところだ。

 俺はその青年と志望動機や学歴、採用された場合の条件や待遇などを一通り話し合った。

 その後、どうしても突っ込まずにはいられなかった、一つの質問を投げかけた。

「ええと、田中くんだったかな。趣味に書いてある『破っ』って、これはいったいどういうものなんだろう」

 俺の質問に、彼はあわてる様子もなく答え始めた。


「それは、僕が考えたスポーツ、あるいは武道のようなものです。手のひらに力を溜めて飛ばすことが最大の目標です」


 彼の声と言語はこれ以上もなく明瞭だったが、言っている意味が俺にはさっぱりわからなかった。

「わかりやすく言うと、かめはめ波や波動拳のようなものを出すための練習です」

 それなら知ってる。ドラゴンボールと格闘ゲームは世代を超えて有名だ。そもそも俺はまだ三十歳で、ジャンプとファミコンの申し子でもあった。

「な、なるほど。今まで、出すのに成功したことがあるのかな」

「努力不足か、一度も出したことはありません」

 そんなものを出す能力があったら、俺ならテレビ局に手紙を出すだろう。

 少なくとも地元でバイトなんぞ探さない。

 混乱したままの俺に不安を抱いたのか、田中くんは観察するような目で俺の対応を待っている。

「ああ、すまんね。とりあえず面接は以上だ。合否は一週間以内に連絡するから、待っててくれ」

 やっとの思いでそう言った俺を残し、綺麗なお辞儀と別れの挨拶をして田中くんは去って行った。

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