第36話 姿勢

 お正月に何気なくツイッターを眺めたら、作家の島本理生さんの新年のあいさつが流れてきたのね。私自身は馴染みのない作家さんだから、フォローしてる作家さんつながりでタイムラインに流れてきたのかなって思いながら、一応覗いてみたんだ。


 その一瞬で、この人の本はいつか読まなくちゃって思わされたよ。

 なんと新年早々「長編連載と書き下ろしの執筆を始めるので、書評、文庫解説、推薦文などのご依頼は受けるのが難しいです。また来年にでも」みたいな感じで、新しい仕事のお断りが、丁寧な感じで書かれてた。

 原稿用紙数枚のはずの書評や文庫解説なんかの仕事すら断る事で「それ以上の事なんて受けるはずないってわかってね、バカヤロー」って言ってるように、私には思えたよ。それは裏を返せば「この一年は長編連載と書き下ろし」に全エネルギーを注ぐって表明にも受け取れて、拍手を送りたくなった。売れっ子作家さんだから仕事の依頼がわんさか来るんだろうけど、新年早々に自らそれを断つという潔さ。それだけでこの人の作品の質の高さが窺えた気がした。売れっ子だからこそ、たくさんの人に読まれる作品を書く人だからこそ、いくつもの作品を同時に手掛ける事がいかに難しい事かって事を深く理解されてるんだね。

 

 その姿勢は、このエッセイでおなじみの「カクヨム依存の多重鍋パンチドランカー」みたいなのと、何もかもが全く真逆。

 アレも書きたいコレも書きたいって何本もの長編連載を自ら始めて、中身はといえば「アマチュアは好きに書くんじゃああ、好きを詰め込むんじゃああ」って代物だから、たくさんの読者がつくはずもない。その反応の無さに「短編書きたくなったんじゃああ」と脇道に逃げ、挙げ句には「拙作の〜君はですね、実はこんなところがありまして」みたいな自作の解説すら始める。赤いインジケーターを求めて発狂しながら宣伝行為に明け暮れる。読者の数がさらに壊滅状態になっていく。だから魔法の言葉「趣味で書いておりますのでPVや評価は気にしておりません」が必要になる。何もかもが矛盾だらけで、読者を減らしているのは自分自身だって事に気づかない。


 島本理生さんが、作者としての作品に対する姿勢を、ツイッターのほんの数文字で意図的に知らしめたのだとしたら、これまたすごい事だね。新年早々に、いいものを見せてもらったなって思ったよ。

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