第34話 エセ論破王

 いま、ちまたで「論破王」とか呼ばれてるヘンな男の本が、高校生あたりに売れてるらしい。あれの何が「論破王」なんだろうと首をかしげるけど、買う層が大人じゃないのが救いなのか……。

 個人的には安物の芸にしか見えないけどね。相手の話をたびたび遮って、質問攻めで揚げ足をとり、自分に有利な方へまくし立てる。窮地には論点をズラして逃げる。とにかく早口でしゃべり続けて、画面上マウントを取っているように見せるってだけの芸。文章のやり取りだと、ひどい事になるだろね。ニタニタ顔で得意気に話してるのを見ると、あのでかい鼻の穴に釣り針つっこんで釣り上げてやりたくなるわ。


 そもそも議論なんてもんは、双方が合意形成を目的としてない場合、ほとんどが無駄になる。どうしても避けられない議論、着地点が必須とされる議論、そんなものはそうはない。

 たとえば、会社で大きなプロジェクトを実行するか否か、子供の進学先は公立か私立か、そんな議論なら、どうしたって決断が迫られるし、双方がとことん意見を出し尽くせばいい。何より双方の根底に、会社のために子供のために良い結論を、という共通の目的が存在する。でも日々尽きることない世間の議論の多くは「主義主張の押し付け」や「単に好みの問題」で共通の目的も合意もあろうはずもなく、マウント合戦だからメチャクチャになる。


 世の中にはとにかく反対意見をぶつけて、自分の方に屈服させたいって人間が結構いる。極端だけどネットなんかだと「味噌ラーメンが好きだ!」って人に「塩ラーメンの方がうまいだろ!」みたいな突撃があって、バトルが始まったりする。

 「味噌ラーメン派」を公言してるところに「塩ラーメン派」が突撃してきたら、「塩ラーメンがお好きなんですね、全身の毛穴から塩が出るほど食べてくださいね」って言ってやればいい。反論を期待して「さあ議論でねじ伏せてやるぞ」って手ぐすね引いて待ってる相手に、1ミリも反論せず相手のその主張を更に推進してやればいい。よほど頭が回らない暇人以外は、それで去ってくよ。塩でも醤油でも豚骨でも、好きなだけ勝手に食ってろよって話だからね。


 無駄な議論はしないようにしたいね。

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