第2話

 レンガのような物が敷き詰められている道を、馬に揺られながら2人と2頭は並んで進んでいる。もちろん俺は馬に乗ったことが無いので、案内人が俺の馬を操縦してくれている。整備された道の両脇は延々と畑になっている。


「ほら!見えてきたぞ!あれがこのソルドニア帝国帝都で恐らく大陸一の大都市ソルドニアンだぞ!……って言っても分からんのか…」


 なんか隣で興奮しながら不快な言葉でわめいている案内人が、指を示している方向を見てみると、べらぼうに大きな街が見えてきている。なんせ奥の方は端が見えないくらいだ。恐らくあれが帝都なんだろうな。丘の上からだからよく見える。


 なんせでかい!街の真ん中、一番高いところに一際大きい宮殿が建っているのが見える。あそこが皇宮なのだろう。豪華な庭園があり、その周りを立派な城壁が囲んでいる。その城壁の外側にも立派な建物が並んでいるようにみえる。きっと貴族が住んでいるのだろう。


 そしてまた城壁。そこから一般的な家々が立ち並びかなりの距離が有ってまた城壁。そしてさらに小さい家々が並び最後の城壁になるのかな?高さは一番外の城壁が最も高く見える。端から端まで歩いたら何時間掛かるのだろうか


 それぞれの城壁の上には櫓と歩ける道があり、兵士らしき人達が配置されているのが薄っすらと見える。


 一番外の城壁のさらに外には堀があり水が溜まっている。その外側にはもすごい数のあばら家が建っているのは不法占拠してる人たちなのかな。スラムなのだろうか?


 城壁には門が設けられていて外堀の所は橋になっている。そこから整備の行き届いた立派な道が延々と伸びていて、脇は広大な畑になっている。きっと水源がなくても魔法でなんとかなるんだろうな。刈り取りも魔法、水やりも魔法。俺も魔法使えるんだろうか?


 そんなことより早くあそこに行って会話が出来るようになって、日本に帰る方法を探さないと家族や友達が心配しちゃうだろうな。母さんには家を出るとき一週間と言ってあるので後3〜4日で帰らないと大騒ぎになってしまう。


 そんな事を考えながらも更に小一時間は馬に乗ったと思う頃にやっと入門審査の列に並ぶことができた。


 近くで城壁を見上げるととてつもなく高い!30M位はあるのではないだろうか?門だけでも人一人では開けることが出来ない程高く、重そうだ。


 審査の方は、案内人が衛兵と何か話してから、特に馬から降りるでもなく普通に素通りするだけだった。ただ、門を通る時に薄っすらと緑色の膜みたいなのが見えたからあれが何かセンサー的なものだったのかもしれない。


 最初の門を通った俺は、そのまま馬を引かれるままに更に暫く進んだ所で馬を降りるように指示された。そして馬を引いて脇道に入っていき、ここら辺では一際大きな二階建ての一軒の家の前に馬を停めて中に入っていく。


 俺も案内人の後を付いていくと、カウンターで何やら話してから奥の部屋へと通される。部屋の中には誰もいない部屋だが机と、3人が座れそうなソファーが向かい合って並べらるているので、応接室なのだろう。


 案内人に座れと指示されたのでその通り座ると、恰幅の良い40才位のオジサンが木箱を小脇に抱えて入ってきた。


 オジサンは俺の方をジッと見ながら案内人と何か話しているのだが言葉の響きが不快な為、俺は早くイヤリングが欲しくてしょうがない。


 村長の時より長く案内人と話し合っているようだが木箱から革袋を取り出して中身を確認すると、それを案内人に渡してから俺にイヤリングを差し出してきた。


「聞こえますか?貴方はここで保護しますのでこの紙に名前と出身地を書いてもらえますか?」


 オジサンの喋り方は案外丁寧だったのかな?それとも口の動きと聞こえてくる言葉が合っていないので翻訳機能が丁寧に訳しているのかもな。村長の持っていたのとも形が違うから性能も違うのかな?そして出された綺麗な模様の書かれた紙に、筆で俺の名前と出身地「日本」と書く。


 紙を確認したオジサンは俺の名前と「日本」と書かれた場所を指さして「これはなんと読みますか?」と尋ねて来るので、「あんどうゆうた」「にほん」と伝えると、木箱からチョーカーを取り出して、右手に持ち、紙の上に左手を置き何やらブツブツ言い始めた。


 暫くすると紙が薄っすらと輝き出してスッと消えた。そしてチョーカーを俺の方に差し出して着けろというので言われた通りに着ける。


「これで貴方の言葉もこちらの言葉に変換されるので喋ってみてください」


「有難うございます!やっと話が出来るのですね!いや~メッチャ困っていたんですよ!わけも分からずこの国に転移しちゃっていてどうやって帰ったら良いのかわからないんですよ」


 と思いの丈を打ち明けた。


「ん〜転移?とか、良く分からない事だけれども、まずはこちらの事を説明しますね。まず貴方は先程奴隷契約を行い、ウチの商会で保護されることになりました。貴方の奴隷の価値は帝国金貨15枚となります。返済額は帝国法で定められていて、価値の10倍なので帝国白金貨1枚と金貨50枚で満了となります。返済満了するか奴隷として10年間奉仕すると開放されます。この金額はジョブ未習得のため、あくまで暫定となります。返済が満了するまではそのチョーカーは外れません。無理に外そうとすると電気が流れるので注意してくださいね」


「………」


「返済額はそのチョーカーでカウントしているので不正は出来ないようになっていますので安心してくれて良いですよ。今後は返済のため戦争の傭兵、闘技場、鉱山、魔石集め、そしてこの娼館で、誰か新たなご主人に1時間から買われればそちらでのご奉仕など色々と選べますが…貴方はレベル1でジョブとスキルが無いと来ているのでまずはレベルを5に上げてから色々と考えましょうか」


「………は?」


「ん?何処か分からない所がありましたか?」


「………全部?」


「ん〜困りましたね…それでは最初からもう一度説明しましょうかね…」

 

「いや……そういう事じゃないんだよな…なんと言うか…困ったな…」


「ゆっくりで良いですから分からない事は聞いてくださいね」


「…有難うございます。それではまず最初に聞き間違いでなければ俺は奴隷になったって言いました?」


「ええ。価値15枚の奴隷ですね」


「…俺はコイツに売られたんですか?」


「はい。その方に保護されたんです」


 なんか翻訳機能のせいなのか俺は保護された事になってるの?奴隷にされたのに?よくわからないんだけど…


「いや私が保護したわけではありませんよ。最初に会ったヤムが保護したんですよ。私は村長に言われて連れてきただけですよ」


 なんか翻訳のニアンスが違うんだろうな。  


「ちょっと良いか?まずこのイヤリングはイヤダ!村長が持ってたタイプのイヤリングは無いのか?」


「困りましたね…それはタイプ幾つのヤツだったのですか?」


 と案内人に奴隷商が聞く。


「ウチの村のはタイプ3のパターン2だったと思います」


「ああ、それならウチにも有りますから取って来ますね」


 と言って部屋を出ていった。


「アンタ、名前は?」


「イアンです」


「そうか…イアンか…テメェ!良くも奴隷商に売りやがったな!!」


 俺は一気に立ち上がり、イアンの胸ぐらを掴んで殴りかかる。


 しかしアッと言う間に組み伏せられてしまう…


「え…。強くね?」


「いや。貴方が弱すぎるのではないかな?」


「………なるほど。ゴメンナサイ、許して下さい…」


 そんなこんなでじゃれ合っていると奴隷商が木箱を持って入ってきた。


「何かありましたか?取り敢えず希望のイヤリングを持ってきたので付け替えてくださいね」


 そう言って俺に若干形の違うイヤリングを差し出してきたので受け取って付け替える。


「どうだい?ご希望通りかい?」


 お、なんだか急にゲスっぽくなったかも…?


「もう一度聞いていいか?俺は売られたのか?」


「何回も聞くんじゃね~よ!テメェは金貨10枚でウチの娼館に売られたんだよ!そんでテメェの価値は金貨15枚に設定したからな!最低でも奴隷税以上はしっかり働けよ!雑魚が!」


 えーー………前のイヤリングに替えて貰おうかしら…精神的に来るはコレ……。

 

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