いつの間にか異世界に転移していて、初日から奴隷に落とされましたが案外奴隷生活は快適でした。

ガルキング

一章  異世界奴隷生活

第1話

サバイバルとは、困難な状況や危険な状況にもかかわらず生き続けること。典型的には、事故・試練・困難な環境などのもとで、生き続けたり存在しつづけること wikipedia







「おーーい!そこの人〜!ちょっとよろしいですか〜〜?」


 俺は山を降りてから森を3時間位は歩いた所でやっと最初の人間に出会うことが出来た。これで多少は現状を確認することが出来るだろう。

 

 俺は3日前から高2の夏休みを利用して祖父の持ち山でサバイバル生活をしていたのだが、昨日から降り続いた雷鳴轟く大雨のために、テントに籠もりっきりで朝を迎えた。朝起きてテントを出ると、目の前に有るはずの小川が無くなっていた。小川どころか地形まで全く変わってしまっていた。


 嫌な予感がしたので急いで山を降りてきたのだが、俺の中の最悪が的中してしまったようだ。


 太陽の位置と時計の時間とコンパスが全く一致しない。携帯電話を見ても圏外になっている。俺に残されたものは大きめのバックパックに登山用の杖と枝切り用のナタ、後は動画投稿用に買ったばかりの小型カメラと簡易ソーラーバッテリー、そして一人用のテント。


 買ったばかりのバイクは停めた場所も分からず、徒歩で3時間、そして今である。


 第一村人はとても人が良さそうな多分40才位のオジサンだったので一安心して大声で大きく手を振りながら声を掛けていたのだ。


「%@'!^#$£¢§№@'"#?」


「………はい?」


「%@'!^#$£¢§№@'"#?」


「……一言も聞き取れない…」


 中学、高校と一応英語の授業は受けているのだが、其処らへんの言語ではなく、なんかまったく聞き取れない…。すげー気持ち悪い発音で、すげー耳障りである。


 きっと今の俺の顔は、友好的とは言えない不快な顔をしてしまっていると思われるが、オジサンはニコニコしながらアーアーと納得しながら頷き、ジェスチャーで多分「こちらへ」と手で誘導して歩き始める。


 俺も困惑しながらもウンウンと頷き、ここに居ても始まらないと思い、付いて行くことにする。


 両脇は多分麦っぽい穂の植物の畑になっていて、きっとこのオジサンの畑なんだろう。


 ただこのオジサンは手ぶらだけど何をしていたのだろうか。道具などを保管する小屋などもなかったので普通に考えて散歩位しか考えられないのだけど…と思っていたらオジサンが立ち止まり、畑の方をチラッとみて何かブツブツ言い始めた。


 本当に全く聞き取れないのだが、なんだかオジサンの手のひらに薄っすらと風の渦が巻いているのが見えて来た。


 そしてその渦を畑の真ん中に投げ込んだ途端にそれが弾けて、辺り一面の麦っぽい物が、根本から全て切り落とされている。


 そしてまたブツブツ呟き始めると、今度は畑の真ん中辺りに渦が現れて、周りの麦ごと巻き上げて渦のある場所に集まっていく。


「……何これ…魔法?すげーんだけど…」


 俺は急いで最新の小型カメラを起動させてオジサンを録画し始める。


 オジサンは撮られていることには気付かずに次の畑でもさらに次の畑でも同じ事を繰り返していく。


「こりゃ完全に魔法だわ。やっぱりここは完全に異世界だわ…そして魔法めっちゃ便利だわ」


 そう考えるとやはりこのオジサンに付いて行った方が安全だと思われる。だってひょっとしたらモンスターが出てくるかもしれないしな。それに俺も魔法使える様になるかもしれないし、日本への帰り方も分かるかもしれない。


 そんな事を考えながらオジサンの後を小一時間程付いていくと、木の柵で覆われた20軒位の小さな集落にたどり着いた。家の造りは農村らしく漆喰っぽい壁で、屋根は板を打ち付けただけっぽい。


 村の入口と思われる門をくぐり、近くにいた子供にオジサンが何か話しかけると、少年は走って村の中でパッと見一番大きな家の中に入って行った。


 オジサンもジェスチャーでまた「こっちへ」と手で示しながら、子供が入っていった家の方へ歩き始める。


「村長さんの家なのかな〜?異世界人の歓迎会でもしてくれるのかな?なんてな」


 と、一人でブツブツ言いながら家の前で止まるオジサンに合わせて俺も止まる。なんか入口の上に文字が書いてあるのだが当然読めない。


「そろそろ魔法で言語が理解出来るようにしてくれるのが異世界転移の定番じゃないのかな?」


 と、日本でのラノベのファンタジー物では最初から理解出来る仕様になっているのを思い出し、ブツブツとグチる。


 そんな事を考えていると、先程の少年がヒョコっと顔を出してオジサンと俺に手招きをしているので、オジサンと一緒に建物の中に入っていく。


 建物に入ってすぐにカウンターがあり、奥に机が並べられて、男女2人が机に向かって何か書類をみたり、書き物をしたりしている。


 なんか役所というのが一番しっくりくる場所で、少年はそのさらに奥にある扉を開けてまた手招きをしている。


 その扉をくぐると、一人の老人が座っていて、俺とオジサンに向かいの椅子を勧めてくれている。


 オジサンに奥に座るように誘導されたのでその通りにする。すると老人は俺をじーっと見つめながら何かオジサンと話している。


 5分位そんな感じが続いた後に、老人が机から何枚かのコインを取り出してオジサンに渡してオジサンはそれを受け取って出て行ってしまった。


 老人は立ち上がり、机から木箱を出して俺の方に近づいてきて、木箱からイヤリングを取り出すと俺に渡して来た。


 ジェスチャーで耳を指さして着けろと言っているようだ。やっと翻訳機が貰えたんだと理解して急いで耳に着けた。


「ワシの言葉が理解できますかな?」


「!!おぉ!理解出来ます!有難うございます!いやーめちゃくちゃ不安だったんですよ!言葉が全く通じない場所にいきなり放り出されたもんで…どうやって帰れば良いんですかね?」


「あーまだソチラからの言葉は何を言っているのか分からないんじゃがな。そのイヤリングも1セットしかないもんでな。取り敢えずこちらからの言葉を聞き取れる様にはなったようだな」


 あーそういう事か…嬉しくてついテンション上がっちゃったもんで…と思いながら頷いておく。


「取り敢えずこれからお主を帝都へと連れて行くからの。帝都に行けば色々と契約が出来るからお主もその方が良かろうて」


 帝都!ここは何処かの帝国領なのか?すげー帝国って言ったら大抵一番悪くて一番戦争に明け暮れているものなんじゃないんかね?

言葉が話せるようになったらトットと日本への帰り方を探そう。


「今から出れば帝都の門が閉まる前につけるからな。すぐに出ようと思うんじゃがお主はそれで良いかな?」


 良いも悪いも俺には行く以外に選択肢は無いような…なのでコクリっと頷く。


「なら今、馬と案内を用意するから少し待っておれ。それとイヤリングは返してもらうからの。この村にはそれ1つしか無いもんでな。それに帝都に行けば聞くだけではなく話せる様になるアイテムがあるからの」


 そうなるのね…まあ聞こえるけど話せないし、今日中に帝都まで行ければ話せるようになるのなら別に良いか。そう思いイヤリングを外して老人に返す。


「おーい!イアン!おるか」


 いきなり老人が大声を上げるもんだからびっくりしてしまうが、何言ってるかわからないというのはかなり神経を削るのな…


「村長、お呼びですか?」


「うむ。此奴を保護したから帝都の奴隷商に連れて行ってれるかの?恐らく何処かの国からさらってきた奴隷が逃げ出したのじゃろうて。名字持ちの16才でレベル1のジョブなしスキル無しなど初めて出会ったわい。ただのボンボンかもしれんが体格は良いし、顔も悪くないから恐らく金貨10枚にはなると思うんじゃ。それにしてもこの年でレベル1とはどんな生き方をして来たんだかのう…」


「こいつ16才なんですか?成人してる割には幼く見えますね…レベル5になったときに何のジョブとスキルがもらえるのか気になりますが…それにしても鑑定スキルは本当に便利ですね!」


「そうかの?まあ鑑定スキルは若い頃はかなり役に立ったがの。隠居して村長をしてると大した約にもたたんて。それにこんな16にもなってレベル1なやつがまともなジョブとスキルが付くはずもあるまいて」


「それともイアン、お主が此奴の可能性に掛けてレベル上げにでも付き合って見るか?ワシは金貨10枚貰えれば後は知らんから、金貨10枚なら価値は15枚にはなるじゃろうて。凄いジョブとスキルが揃えば大儲けも可能じゃぞ?」


 とイアンに言いながら青年に微笑みかけると、その青年もニッコリ微笑みながらウンウン頷いている。


「でも底辺のジョブとスキルだとしてもこの顔と体格と若さなら金貨15枚位にはなりませんかね?」


「なるかもしれんがな…良いのが付いたら価値も上がるから更に稼げるかもしれんがな。どちらにしてもお主に任せるけどな。いかんせん言葉が通じないのがネックじゃて」


 どうやらイアンは諦めた様で部屋を出ていった。


 村長は青年にイアンの方を指さして一緒に行けとジェスチャーして見せると青年は立ち上がって深々とお辞儀をしてイアンを追って部屋を出ていった。 



 


 

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