第二章 女王の肖像画を描くため、宮廷画家(仮)になる
2-1
ローガンは赤くなった左の
「ったく、乱暴なやつだな。キスしなきゃ水を飲ませられなかっただけだってのに」
「そっ……それはそうかもしれないけど!」
「俺にたてつくとどうなるか、あとでたっぷり教えてやる。今日も帰らせないから
結局ローガンの
ローガンとしては、
「初めてのキスは、王子様みたいな人としたかったのにっ! よりによってなんでローガンなんかと──……しかも全然覚えてないし……」
最後は聞こえないように小さく
「……あっそ。よかったな、俺で」
「なんでっ! あのね、私の理想の男性はローガンと
「あーはいはい。ところで、カヴァネルに正体を見破られないよう気をつけろよ。あいつ
小声で言い争っているうちに、執務室に
カヴァネルは急に
「ええと、中へどうぞ……まあ、またローガンがよからぬことを言ったみたいですが」
「うるさいカヴァネル。それより……」
「いやあ、ご協力は願ってもないことです。ちょうど、ジェラルド
(……だから昨日、ローガンが追いかけてきたんだ!)
「ではさっそく。時間が惜しいので現状について説明しましょう……」
カヴァネルは
「四年前に先王が
この国の法律では、王位
先王と現女王である正室のシャリゼ
側室ウェアム妃の
その三年後に生まれた正室シャリゼ王妃の息子、ジェフリー王子が王位継承権第二位だ。
順当に考えれば、ラトレルが玉座を
──しかし側室妃は、正室よりも身分の低い貴族の出である。
そういった理由で、先王の
法律で決まっていたとしても、身分の上下に厳しい貴族が多いのが王国の現実だ。
どこの国にでもあるような
「──反発し合う両派閥を押さえるために、二人の王子が十五歳の成人を
過去にも王子が未成年の場合、正室が玉座に就いた例がある。問題を先送りにしただけにすぎないが、そうしていったん派閥争いは収まったという。
「……問題が起こったのは、今から約二年ほど前ですかね。ラトレル
「えっ!? 亡くなった……?」
「はい。女王陛下から
(うっ……これは聞いたからには協力しろよっていう
「さらに、ラトレル殿下が
「現状、犯人として一番
さらりと言われて、ジゼルは顔をしかめた。
女王に即位してから、シャリゼ妃は厳しい物言いが増えて
話を聞けば聞くほど、たしかに女王が怪しいようにジゼルにも思えてならない。
いったん情報を頭の中で整理しようとして、ふと思い出す。
「……そういえば。この国には、たしかもう一人王子様がいると聞いたことがあるのですが……?」
ジゼルが生まれる前のことだが、ラトレルとジェフリーの前に一人、男の子が誕生していたはずだ。本来ならその王子が継承権第一位を得るのでは、とジゼルは疑問に思う。
一体どこに? と首をかしげていると、「彼の継承権はすでに
「第一王子──エスター様は、先王が
またも王宮の秘密であろうとんでもないことを耳にしてしまった、とジゼルは頭が
痛くなった。聞けば聞くほど
「王位継承順など、結局は身分がものを言う
「……そういうことでしたか」
「王子の誕生として国民にも
「その元王子様が、追放した人々を
「あり得ません。とうにご本人も玉座を
「チビ
射るような視線がローガンから向けられて、ジゼルは
「……わかった。王族の話はしないようにする」
びびったジゼルの
「ラトレル殿下がこのまま見つからなければ、ジェフリー殿下が玉座に就きます。しかし病弱な彼では、王としてのご公務がこなせないのは目に見えています」
ジェフリーは、
「それなのに、王宮内で
カヴァネルはかなり深刻そうな顔をしている。
「そこでジェラルド殿にお願いです。今後あなたは、女王陛下の要望の絵が完成するまで、仮の宮廷画家として王宮に
それを聞いてジゼルはようやく
宰相であるカヴァネルが不用意に女王の動向を
つまり犯人と
「このままでは、この国の未来が危なくなってしまうでしょう」
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