2-11
(私には森での暮らしが合ってるわ。この家も好きだし、寂しくても動物たちがいるし)
「もちろん、きみは森での暮らしが好きだろうけれど、俺たちはその森の
気を
「そんなのいらないわ。言ったじゃないの。私がしたくてしたことよ」
「それなら、俺がしたいことだってさせてほしいな」
ジェラルドは、明るく笑ってみせる。
「これからの旅の先々で、きみに美味しい料理を、お腹いっぱいご馳走させてほしいんだ」
「えっ!」
(お腹いっぱいのご馳走……!)
キャナリーの
ほかほかの焼き立てパン、分厚いハム、コクのあるチーズに濃いミルク、ほっくりした白身の焼き魚に、じゅわわと
「もちろん、甘いお
とろとろ
ジェラルドは
ラミアがいないこの家で寂しさを耐えるより、ジェラルドと旅をして、ご馳走を一緒に食べられるなら、それはどんなに
「……わ、わかったわ。私、ジェラルドの旅についていきたい。本当に、いいのね?」
キャナリーの言葉に、一気にジェラルドの表情は晴れやかになり、白い歯が零れる。
「もちろんだ! よかった、
ちょうど戻ってきて、ドアを開いたアルヴィンに、ジェラルドが言う。
「はい? なんのお話ですか」
「キャナリーを、一緒に連れて行くという話だ。手形のための書類と、彼女のための馬車が必要になるが」
「ジェラルド様が、そうされたいというのであれば。キャナリーさんは、ジェラルド様の命の恩人ですから、私にとっても大切な方です。けれど、そのためにはまず、はぐれた者たちと合流しなくては」
「うん。無事でいてくれるといいのだが」
「ジェラルド様も、明日には魔力も回復されるでしょう。私の魔法具も、力を取り戻し始めました。特に悪い予感もしないので、おそらく、皆無事と思われます。出かける途中、この場所を示した伝令魔法具を飛ばしておきました」
「では明日には合流できるかもしれないな」
魔法具? 伝令? とよくわからない話にキャナリーは首を傾げる。
(そういえば、ジェラルドはゴーレムと戦える、っていうことは、魔力があるのよね。さっき、魔力の回復とかどうとか言っていたし。もしかすると、どこかの王族?)
考えかけたキャナリーは、まさかね、と首を振った。
(だって私が剣の主、っていうのになったみたいだもの。王族が
さらに、旅に同行するよう
(それに、別にジェラルドが王様でも、怪物でも、なんでもいいわ)
ただ明日からもジェラルドと一緒に居られるのだ、と思うとキャナリーはそれだけで、心が弾んで仕方なかった。
***
翌朝、二人の傷も体力も、驚くほど完全に回復していた。
ジェラルドの縫うほどだった深い傷まで、ほとんど痕も残っていないくらいだ。
家を出て間もなく森を抜けた街道に、複数の馬車が止まっている。
「ジェラルド
転がるようにして駆けてきた大勢の従者たちが、二人を見て
ご馳走、ご馳走、と上機嫌だったキャナリーだが、さすがにこの
(この馬車……子爵家のものより、何倍も
そしてキャナリーには、気になったことが他にもあった。
(ジェラルド殿下、って言ったわよね? それに、馬車に打ち出された金の
立ち尽くしているキャナリーに、ジェラルドが駆け寄ってきて言う。
「キャナリー。きみには、女性用の馬車を用意した。快適に乗れるよう、上等のクッションを用意させたよ。軽食もある。
「え、ええ。ありがとう」
ところで、と聞きかけたキャナリーだったが、再びジェラルドは従者や護衛の者たちに囲まれてしまう。
「キャナリー様、どうぞ、あちらのお馬車へ」
「えっと、その前に。少しお尋ねしたいんだけれど」
親切そうな従者の一人に、キャナリーは疑問を口にする。
「あなたたちって、どこの国の人?」
「はい?」
「ジェラルドって、何者なの?」
「はっ、えっ、はああ?」
「わ、私どもは、グリフィン
「ああ、そう、グリフィン帝国……皇帝陛下の……」
じわじわと、従者の言葉の意味が頭の中に染みていくにつれ、キャナリーは目を真ん丸に見開く。
「ええええ!? ここっ、皇帝陛下の子息? ジェラルド、おっ、皇子殿下?」
はい、と当然のように従者はうなずいてから、馬車のほうを見た。
「さあ、お急ぎください、もう出立します」
「あっ、あのっ、もうひとつ」
従者たちに追い立てられるように馬車のほうへ向かいながら、キャナリーは言う。
「これからどこへ行くの?」
まさか本当に、ダグラス王国へ行くのだとしたらどうしよう。
「ダグラス王国の、王宮です」
サーッとキャナリーは、頭から血の気が引く音を聞いた。ダグラス王国というだけでもまずいのに、王宮とは……。
何しろつい先日、王太子に追放された身なのだ。
「待って、待って、ちょっとストーップ!」
「あっ、もうジェラルド様の馬車が動き出しましたよ! お早く!」
「
「違うの、聞いて、ちょっと待ってええ!」
こうしてキャナリーは問答無用の状態で、可愛らしい女性用の馬車に乗せられ、よりによって追放されたばかりの王国へ、向かうことになったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます