第13話

 キュウェラは九割以上が液体で覆われた惑星である。

 そんな環境でも不思議と文明は発展し、人々は足場を作って水上で生活し領土を広げた。『住めば都だが最大の難点はということだ』とキュウェラに住む人々は言う。

 そんな星に降り立った人々が最初に絶対発する言葉が、

「寒い」

 である。

 二人もご多分に漏れずその単語を口にした。

 吹きすさぶ冷風の中、シュラーが今にも凍りそうな顔をしていたのでソーライは慌てて自分のジャケットを掛けた。

「シュラーはとにかく温かくしろ! お前が凍ったら色々不具合が多い!」

「しかしソーライが」

「俺は何度でも大丈夫だから!」

「すまない」

 シュラーは素直に上着を着込んだ。寒さに震えながら動かなくなりそうな口をようやく開く。

「外気はいったい何度なんだ」

「あそこに表示があるけど、きっとショックを受けるから見ない方がいい」

「いや、後学のために教えてほしい」

「マイナス四十二度だ」

 シュラーはショックを受けたようで、動きを止めてしまった。

 ソーライは「生きろー!」と慌てながらシュラーを屋内へと引っ張り込む。外とさほど気温は変わらないが、風が当たらないだけましだ。

 ようやく頬に血の気を取り戻したシュラーは思わず毒づいた。

「どこがちょっと寒い、だ。謙遜にもほどがあるだろうが」

 毒づきながら窓の外に目を移す。外ではちょうど積荷が船から降ろされているところだ。見覚えのあるコンテナも見えた。

「ユーリヤの引き取り手続きが済んだら、まずは管理局の支部に行こう。そこに迎えが来ているはずだ」

 シュラーに言われてソーライも歩き出した。

 そのとき。

「やあシュラー。久しぶりじゃないか」

 背後から唐突に声がかかる。

 振り返ったシュラーは思いきり眉をひそめた。

「支部で待てと言わなかったか?」

 目的の男がそこに立っていた。穏やかに笑っているが、どこか得体の知れない胡散うさんくささがある。

「僕の実験材料に少しでも早く会いたかったんだ」

「実験? 依頼したのは解析だが」

「まあまあ。お土産持ってきたから許してよ」

「土産?」

「防寒具だよ」

 彼はそう言うと分厚いコートをひょいと掲げる。

 するとシュラーはこともあろうにそっぽを向いた。

「お前のほどこしは受けない」

 その台詞に慌てたのはソーライだった。

「わー、ありがとう! 俺は助手のソーライです、こちら喜んで頂戴しますね!」

 ソーライは慌てて防寒具を受け取ると、無愛想なシュラーに無理やり着せる。フードまで被せられてすっかり着ぶくれたシュラーを見ながら、迎えにきた彼はクツクツと笑った。

「どうも、研究員のロアルです。ごめんね、連れがいると思わなくてソーライ君の防寒具を用意してないんだけど」

「俺は問題ないです」

「へえ」

 ロアルは興味深そうに目を細めた。

 するとシュラーがその前に立ちはだかる。

「やめろ。ソーライはお前の研究対象ではない」

「おお、こわ

「ロアルに解析を依頼したいのはこっちだ。ついてこい」

 シュラーは先陣を切って歩き出した。

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