星間輸送管理局の業務日誌
四葉みつ
第1話
輸送船に潜り込むのは簡単だ。
まずは送迎客用の安価なチケットを購入し港に入る。それから何食わぬ顔をしてスタッフ用のドアを開ける。
オフィス内部で目的地を探して挙動不審な動きをして捕まるのでは、という心配なら無用だ。なぜなら事前に清掃員の臨時アルバイト員として籍をおいているからだ。
むしろ知っている顔がいくらか存在することで、
「あれ? ソーライじゃないか。今日シフト入ってたっけ?」
「いや、今日は忘れ物を取りに来ただけだよ」
という具合で、完全に関係者としてスルーされる。
あとは目的の船の貨物室に乗り込んで出発を待つだけだ。
わざわざ荷物のどれかに隠れる必要はない。積載が完了した貨物室は、目的地に到着するまで基本的に開けられることはないからだ。管理をAIに委ねた結果、ヒトは目視の重要性を忘れてしまった。
そのAIにとある信号を送ることで人の出入りを検知しなくなることは、意外にも知られていない。こんなガバガバな機能で大丈夫かと心配になるが、そもそも貨物室に生身のヒトがいるという考えに至らないのだ。
輸送中、この部屋はマイナス百度近くまで室温が下がる。
(俺じゃなきゃ死んじゃうね)
青年はそんなことを内心ひとりごちながら貨物室の中を物色していた。荷物を盗むつもりはない。探しているのはよい居場所だ。
(航行日程は一週間くらいだから、途中で食糧調達に行くとして……)
そのとき、胸ポケットに入れていた通信端末がピリリと小さく音を立てた。着信だ。
<ソーライ、上手く入れたか?>
電話口から堅物な声が聞こえてくる。ソーライと呼ばれた青年はニヤリと口角を上げた。
「これくらい朝飯前よ。今は寝床を探してる」
<しかしマイナス百度など正気の沙汰ではない。本当に大丈夫なのか?>
「俺を誰だと思ってんの、生粋のサトーラ星人よ。同じ方法で今まで何度も成功してるんだから心配ご無用」
<そうは言ってもな……>
「シュラー。お前が俺を見つけた場所はどこだったか覚えてる?」
<貨物室だったな>
「そういうこと」
二人の出会いを思い出して、シュラーは納得したようだった。とは言っても相棒関係になってからソーライがこの方法で外の世界に出るのはこれが初めてだ。シュラーが心配するのも無理はない。
「しゃべりすぎると体温が上がるから、そろそろ切るぞ」
ソーライはそう言うと通話を終えた。
それと同時に船体が小さく振動し始める。シャトルが暖機運転を始めたのだろう。室温も少しずつ下がってきているようだ。
ソーライはコンテナの間にほどよい隙間を見つけると、そこにするりと身体を滑り込ませた。あとは室温に併せて、己の体温を下げるだけだ。
<当船は惑星ヴィオラ行きです。まもなく出航です。お乗り間違えのないよう、今一度チケットの……>
遠くに聞こえる館内放送を子守唄がわりに、ソーライは目を閉じた。
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