俺のことを嫌っている美少女と、家庭の都合で同居する羽目になり、付き合うことになった話。
譲羽唯月
第1話 ある日、俺のことを嫌っている美少女と同居することになった
「あんたのこと、大っ嫌いだから。もう、嫌なんだけど……」
亜香里はショートヘアスタイルだが、その髪は肩よりも下で、ロングとも言えない感じの長さである。髪は茶髪風でありつつも、意外と真面目な性格であり、しっかりとはしているのだ。
そんな彼女とは同学年でクラスメイト。しかも、隣の席と来たものだ。
容姿はいいのだが、性格がとにかくきついのである。
実のところ、彼女から直接言われても、どうにかなるものでもない。
嫌だといわれたとしても、隣の席であることが変わるわけではないからだ。
亜香里の言う通りにするならば、碧音が自主退学することになるわけだが。やっと入学できた学校から立ち去るのは嫌だった。
一時限目の移動教室の授業が終わり、教室に戻る最中に亜香里から校舎裏に呼び出され、今に至る。碧音の目の前に佇み、腕を組んで不満そうな顔を浮かべる亜香里は美少女。
クラス内だけじゃなく、学校内でも認めるほどの美貌の持ち主なのだが、碧音にだけは当たりが強いのである。
何か悪いことしたかな……。
碧音は気まずげに悩むものの、正確な原因追及には至れなかったのだ。
「というか、あんたが退学すれば」
「な、なんで?」
思っていたことを直接言われると、嫌な意味でドキッとする。
彼女から言われると心に来るものがあり、碧音は彼女の方を見れなくなった。
「本当に嫌なんだけど。なんで、あんたと同じ学校になったのよ……最悪」
そう言われてもどうすることもできないのだ。
碧音は内心、大きな溜息を吐くのだった。
この高校に入学してから二か月経とうとしていた。
ある程度は学校に馴染めてきたつもりだが、まだ人間関係に悩むことがあったのだ。
すべての原因は、亜香里にある。
彼女とは高校生になってから初めて出会った子であり、入学当初から同じクラスで隣の席なのだ。
というか、本当に彼女には嫌なことなんてしていないのである。
それは神に誓えるほどだ。
なのに、なぜか、彼女は碧音に対して、何かあるごとに嫌みな発言をしてくる。
本当に意味不明で、高校に入学してからの最大級の悩みのタネでもあった。
現在は二時限目の授業が開始してから少し経過した静かな空間で、クラスメイトと共に授業を受けている。
人間関係がそこまで得意ではない碧音にとっては、唯一の安らぎの時間帯でもあった。
休みの時間とかは、クラスメイトの声とかを聴いているだけで、自分の悪口を言われているんじゃないかとか、不安になることもしばしばあったりする。
碧音が何となく黒板の方を見、先生の書き出した文章をノートに書き写そうとした時、何かが床に落ちた音が聞こえた。
チラッと横目を見ると、彼女が消しゴムを落としていたのである。
碧音が拾い上げてあげようと時、その彼女から睨まれたのだ。
死ねと言わんばかりの視線であり、碧音は何事もなかったかのように黒板の方を見、ノートに写し始めたのである。
そんな中、机の上に何かが飛んできた。
それは紙が丸まったもの。
横を見ると、亜香里と視線が合う。
彼女からこっち見るなという顔をされた。
じゃあ、紙を投げてくるなよと思いつつ、碧音はそれを広げたのだ。
その紙には何かが書いてあった。
死ね――
と、乱雑な字、一文である。
「はあぁ……」
何もかもが嫌だ。
学校終わりの放課後。通学路を一人で歩いている碧音は本当に学校を辞めたくなってきていた。
すべてが辛い。
元から人間関係が得意な方でないのだ。
だからこそ余計に、それが心の負担になる。
「早く、家に帰ろ」
碧音はそう呟き、通学路を軽く走って自宅へと急ぐのだった。
碧音には、いつもやっていることがある。
それはネット小説を書いていることだ。
普通であれば一人で作業することも多いのだが、碧音はパソコンを通じて、とある人物と共同で小説を書いていた。
人間関係が得意じゃない碧音であってもネット上では誰とでもやり取りができる。なぜなら、顔が見えないし、互いのすべてを知っているわけでもなく、気を使わなくてもいいからだ。
学校のように、ずっと一緒に関わるわけでもないので、人間関係で苦労することもなかった。
学校の授業もオンラインにしてほしい。そうすれば、亜香里と長時間関わる必要性もなく、彼女の望み通り、距離を置く頃ができるのだ。
互いにとっても利点しかないと思う。
「ん?」
自宅に到着した碧音は玄関に入った。
そこには父親の靴があったのだ。
あれ?
今日は早く会社が終わったのかな。
碧音はそんな疑問を抱きながら、靴を脱ぎ、自宅リビングへと向かうことにしたのだ。
「お帰り、碧音」
「うん、ただいま」
碧音はリビングで、簡単に父親に挨拶をする。
父親はどちらかというと真面目な人ではあるのだが、多少頑固なところがある。自分の意見を曲げない性格。
だからこそ、母親と離婚する羽目になり、今こうして、碧音と二人っきりで生活しているのだ。
「父さんは仕事が早く終わったの?」
「あ、ああ。まあな。色々あってだな」
父親の様子が何かおかしい。
何かを隠しているような、気まずいような立ち振る舞い方だった。
エリート気質な普段の父親と何かが違う。
「どうしたの?」
碧音はスーツ姿の父親に問う。
「それはだな。急で悪いんだが、今から、ある人が来るんだ」
「ある人? だから、早く帰ってきたの?」
「まあ、それもあるんだが……一応、碧音にも言っておくか」
「何を?」
碧音は首を傾げた。
「今日からな。まあ、その人が、この家で過ごすことになるんだが」
「ここで? 今日? いきなりだね。父さんの知り合いの人?」
「う、うん、まあ、そうだな」
「……?」
やっぱりおかしい。
普段と違い、声が大人しめであったこともあり、雰囲気的に違うような気がしたからだ。
「今日からこの家で生活する子はな。碧音と同い年でな。家庭の都合もあってだな」
「家庭の都合? そうなんだ……でも、俺と同じ子?」
誰なんだと思い、ふと、隣の席の子――亜香里の顔が思い浮かんだ。
いや、まさかなと思い、首を横に振った。
刹那、自宅のインターフォンが鳴る。
「お、丁度来たみたいだな。碧音、出迎えてくれないか?」
「え……あ、うん。わかった……」
碧音は面倒だなあと思いながらも、リビングから出、玄関へと向かう。
そして、扉を開けると、そこには碧音のことを嫌っている美少女――亜香里が佇んでいたのである。
「ん⁉ な、なんであんたが出てくるのよ」
「は? そ、それは俺の言い分じゃないか?」
亜香里の驚き声に反応するかのように、碧音も大声を出してしまった。
本当に最悪である。
まさかとは思ったのだが、なんでよりにもよって、こんな子と。
碧音は頭を抱え込んでしまった。
「私、もう、前のところに帰りたいんだけど」
――と、亜香里は碧音のことを睨みつけながら言った。
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