第十一話 戦況の変化

 どうしたものか……。


 ナナコは頭を抱えたくなった。静かになった今、見た目は守、そして中身は幻造に戻っているだろう。雰囲気ですぐわかったナナコはどう戦略を練るべきか考え始める。


(何が守を表に出させたのかしら)


 何事にも原因がある。その場の勢いで『愛』と言ってみたがそれも含め何かある筈だと、ナナコは考えている。


 今の幻造の姿は不安定に見える。挙動が不審なのだ。感情の上下も激しい。昔の自分自身を見ているようにナナコは感じていた。


 その原因はまだわからない。だが、戦う前に対峙した時には完全に守の身体は幻造に支配されていた。それは間違いなかった。その時には感情の揺らぎや、そうなるとこの戦闘中に何か変化が起きた事になる。


 このまま考え続けたかったが、幻造もこのまま大人しくしている訳はない。怒られたショックから立ち直ったのか、自分の身体の状態を確認しおえたのか、再び動き出した。


「ちょこざいな。いまだに抵抗するとは……」


 手をグーパーして力が入るか確認している。一見隙だらけに見えるが、先程削った力が戻ったかのように王者としての風格が戻っている。


「それ守の身体なんだからさっさと出てけばいいのに」


 皮肉交じりにナナコが言うと、バカにしたように鼻で笑い返す幻造。


「何を言っているのだ。この日の為に孫娘を育て上げ、本来であればその身体に入る予定だったのが、こやつのせいでその計画がズレてしまったのだ。結果を言えばこの身体の方がしっくりくるが、計画を狂わせた罪はこの身体で払うのが当然であろう」


 幻造の主張は身勝手だ。だが、それがさも正しいかのように、当然かのように言われ、ナナコは怒りのあまりに『紅鋏牙』で頭を食い尽くそうかと考えたが、守の戻る身体が無くなってしまっては困る。それにこれは直感ではあったが頭が無くなった程度で幻造が死ぬとは思えなかった。


 完璧な肉体と豪語しているのだ。当時の守の再生能力で、心臓すら身体の一部の器官にまで成り下がってしまった。もしそれを超えているのであれば、もはや頭部も同様な扱いであってもおかしくない。


「はっ、くそジジイが自分勝手な事ばかり言ってますねぇ。そんなんだから大事なところで失敗しちゃうんですよ。今回も同じです。さっさと守の身体から出てってくださいよっと!」


 鎖で幻造を持ち上げた瞬間に瑠璃の『朱羽』が全身に突き刺さる。苦悶の表情をしている幻造の姿を見て違和感が増していく。


 先程からこの違和感は無くなるどころか増してきている。


 直感に基づき、ナナコも『紅鋏牙』による攻撃を強化していく。身体から力が抜けていく感覚は嫌だが、この攻撃が現状では最も有効だった。


「邪魔だ! 出てくるな!!」


 守に気を取られ、二人の攻撃に対処が遅れる。順調に守が表に出てきているように感じ、いい方向に進んでいると思っていたが、そう都合よくはいかない。


 二人は気付いていなかった。あれだけうるさかった周囲がいつの間にか静かになっていた事を……。


「まだやってたのか。こっちは終わったぞ」


 ナナコの背後からナニかを引きずって歩いてきたのは遥だ。まるで肉の塊のようになっているのは未羽だ。呼吸は僅かにしており、まだ完全に死んでいる訳ではないが、とてもじゃないが戦える状態ではなかった。


 それに対し、遥はほぼ無傷。洋服が破れている程度だった。


「中々楽しめたぞ。私とここまで戦える奴は殆どいないからな」


 心の底から嬉しそうに話しているが、遥の言葉は二人には届かない。


 だが、ここで終わる訳にもいかない。まずは未羽を救出する為にナナコの『紅鋏牙』が遥の腕を狙う。


 それを指一本で粉砕するといつの間にかナナコの目の前まで遥はやってきていた。


「甘いな。まだこっちの小娘の方が手ごわかったぞ」


 そのまま腹部に掌底を食らうとナナコはそのまま吹き飛ばされてしまうのだった。


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