第十話 愛
最初は小さな変化だった。ナナコの『紅鋏牙』が脇腹に食らいついてそのまま食いちぎった時の事だ。これまでどんな攻撃を受けてもすぐに元に戻っていた幻造が、少しずつ戻るのに時間が掛かるようになっていた。
ただただ不快そうな表情が、気が付いた時には若干ながら苦悶の表情を混じらせていた。
(効いてるのかな?)
油断しないように『紅鋏牙』で幻造をぐるぐるに巻き付きにしながら追撃を加えているナナコ。
瑠璃はそれを邪魔しないようにしながら脚の腱や膝裏など、機動力を奪う事に注視していた。
まだ二人にはなぜ幻造がダメージを受けているのかわからない。それに幻造の身体は守の身体だ。消滅させてしまったら守まで消滅してしまう事もわかっている。
幻造は倒さなければならない。だが、守は元に戻さなければならないのだ。
このジレンマに二人は悩みながら、攻防を続けていた。
戦況は五分五分、もしくは若干二人が押してるが、それもそれなりに力を消耗しながらの為、いつ戦況がひっくり返るかわからない。
「まぁくん、起きるならさっさと起きてよぉ……」
力を多用してる事による疲労を感じ始め、弱音を吐き始める瑠璃。瑠璃は両親を失い、身内と呼べる二人が敵になってしまっている。ずっと気丈に振舞っていたが、精神的には限界も近い。
何より、小さくなっていた時の精神に若干引っ張られてもいるのも原因だ。すると頭に鎖が突如落ちてきた。下を見ていた瑠璃はそれを直撃で受けてしまう。
「ぎゃぴっ」
あまりの痛みに頭を抱えてしまう。頭を抱えたまま涙目を浮かばせながら見るのは恋敵であり、仲間であり、家族でもあるナナコだ。
「痛いから! いくら私だってそんなの食らったら死んじゃうかもよ!?」
そんな訴えなど知った事かと鼻で笑うナナコ。母は強しといったところだろうか。
「そんな軟弱な事を言うもんじゃありません。もうすぐパパが帰ってくるのに、そんな表情じゃ悲しむわよ?」
「むぅー」
目線で訴えかけても見向きもしてくれないナナコ。そんな姿を見ている幻造は面白くないのか、ナナコの鎖を引き千切り、そのままナナコに近づいて行った。
「そんな簡単にいかせない」
瑠璃の『朱羽』が幻造の膝を断ち切った。守と瑠璃の力が込められたこの技なら通常より再生が遅くなるようだった。
見事にそのまま転んだ幻造の頭上には特大の『紅鋏牙』の顎が迫っていた。
「くっ、このままこの身体ごと食らうならそうすればよかろう。だが、その時にはお前達の伴侶である守も死んでしまうぞ」
咄嗟に頭に向かっていた『紅鋏牙』の顎が肩をえぐり取るようにズレて当たる。咀嚼するように何度も噛み締めるその姿はまるで生きている獣のようだ。だが、それも身体を再生させた幻造が吹き飛ばす。
「なぜ、段々と力が抜けてくるのだ。この完璧な身体が、やっと手に入った筈なのに……」
どこか呆然とするように下を見ている幻造の前にナナコが立つ。
「愛よ」
すっぱりと言い切るその姿にはどこか説得力を感じさせる力があった。それを眩しそうに見る幻造。
瑠璃は上空からいつでも迎撃できるように様子を見ながらも待機している。
「ありがとう。え?」
突如幻造の口から出て来たお礼に驚く二人。だが、その表情を見た時、納得した、いや、納得してしまった。
「守」
「まぁくん」
「何でお前が!? ひっこんでいろ!」
まるで一人芝居を見させられているようだった。交互にお互いに対し、文句を言い、罵り合う。
最初はポカーンと口を開けて聞いていた二人だったが、いち早く立ち直ったナナコの表情がみるみる般若のようになっていく。
「うるさああああああああああああああい!!」
「ご、ごめんなさい!!」
果たして謝ったのは守だったのか、それとも幻造だったのか、それは誰も知る由もなかった。
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