第三話 大人はマジ汚い

 守達は順調に歩みを進めていく。ゾンビ達は人口が多い場所程、感染する速度がはやい為、都市部に近づけば近づくだけ数が増えていく。当初は流れていたテレビ放送も今では全く流れず、電気が使える様子もない。勿論、電車など公共の交通機関も動いていない為、自家用車か徒歩での移動を余儀なくされている。


 外の世界もすっかり守達の街のようになってしまったようだ。


 聴き慣れた人々の悲鳴を聞き流しつつ、四人は歩き続ける。時折、人を助けたりする事もあるが、基本的に理由がなければ無視をしている。


 なぜなら助けたとしてもその後まで面倒を見る事が出来ないからだ。先日も男を一人、結果として助けたが、おそらく今頃は、または近いうちに死んでいるだろう、と守は考えている。


 ナナコの『血操』で周囲のゾンビをたとえ一度殲滅させたとしても、いずれは食糧が無くなってしまったり、時間が経てばゾンビ達はどこからともなくやってくるだろう。


 助けるのが救いなのか、むしろ死なせてやる方が幸せなのか……。それは誰にもわからなかった。


(あぁ、余計な事を考えてしまったな……)


 瑠璃と手を繋ぎながらも思考の海に沈んでいた守だったが、他の三人が立ち止まったので、意識が外へと戻ってきた。


 これだけ守が油断出来るのも他の三人の戦闘能力が優れ、信用出来るからだ。


 まずはナナコの『血操』。はっきり言って強化ゾンビ程度ではもうナナコの養分にしかなれなくなってしまっている。今も周囲のゾンビ達のエネルギーを吸収し、己の糧としているようだった。しかもエネルギーを貯める事で肌が艶やかになり、人にはない色気が隠せなくなっている。見た目はさながらサキュバスかヴァンパイアといったところだろう。ただ幸い? にも狙われているのは守だけだ。


 次に未羽だ。『身体強化』は単純だからこそ、使いこなせれば強い。元々の身体能力に優れた未羽に相応しい特性だろう。縦横無尽に駆け巡るその姿はスピードスターだ。木刀なのにゾンビ達を一刀両断にするその技量は日々、鍛錬を怠っていない証だろう。それが黒刀に変化した時、その技量も相まって鋼鉄も断ち切る事が出来る。生来の気質からか、他の人との連携の合わせがうまく、それでいて一対一にも優れている。このメンバーの良心でもある。誰か未羽を助けてやってほしい。


 最後に瑠璃だが、身体が小さくなってしまった事で身体能力は落ちてしまったが、その分軽くなった為、飛ぶ速度が速くなった。無邪気なその心はゾンビも人間も躊躇なく攻撃してしまう。家族を失ったショックもあってか、今の認識している家族への依存が高く、幼い心ゆえに感情の上下が激しい。怒り出すと翼から巻き起こるかまいたちは周囲を全てを切り刻んでしまう。実はこのメンバーの中で一番要注意人物なのだ。


 勿論、守本人の戦力も三人に勝るとも劣らず。『全身硬化』は攻守で優れ、単純な殴打ですら貫けぬモノはない。防御に関しても銃弾は朝飯前で、ミサイルだろうと無傷だ。直感も鋭く、決断すれば動きもはやい。『双骨そうこつ』という自分の骨を使った新しい武器も手に入れた。ただ苦労人でもある。いつナナコに襲われるか、時々視線が怖いらしい。


 話を戻す。意識を外に向けた守は目の前の建物を見る。見た限りでは一般家庭の普通の建物のようだが、守の嗅覚がこの中にある嫌な匂いを敏感に伝えてくる。おそらくこの感じではけんじぃか眼鏡男のものではない。だが、それに近いレベルの匂いが発せられている。


「るぅ、ここに悪いやつがいるのか?」


「そうなの! わるものをやっつけるなの!!」


 拳を握ってやる気を見せる瑠璃を三人が温かい目で見守っている。


「そうか、そうか。じゃあ中に入ろう」


 何か作戦を立てる事も検討したが、気配的にも敵の数は多くない。最近街中でも増えて来た強化ゾンビと嫌な匂いの原因となるモノだけだ。罠の可能性もあるが、そこは考えても仕方がなかった。警戒するしかないだろう。


「それじゃあ入りましょう」


 先頭は意外にもナナコだ。次点で未羽、瑠璃、最後に守だ。これには理由があった。それは――――。


「『血操』」


 ドアを開け、中に入る事なく、建物の中がナナコの血で満たされていく。そして中から聴こえてくる呻き声。消えていく強化ゾンビ達の気配。嫌な匂いのするモノだけは辛うじて生きているようだが、おそらく虫の息だろう。


 気合いを入れていた瑠璃は涙目でナナコを睨みつける。


「大人はマジ汚いなの!!」


 その言葉に守が瑠璃の前に立つ。


「こらっ! そんな言葉遣いするんじゃありません!!」


 守はパパとして娘を叱っている。微笑ましいそんな景色だが、瑠璃と守のそんなやりとりを無視して先に入っていくナナコと未羽。その姿を見て、慌てて瑠璃と守も建物の中に入っていくのだった。


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