第十一話 許せない自分と幼馴染との再会

 幼馴染の家に近づくにつれ、守の胸にある不安が高まっていく。


(迷ってる場合じゃなかった……)


 近づくにつれ、目に見えてくる煙。自分自身への怒りが沸々とわきだしている。守が油断している間にあきらかな異常が起きていたのは間違いなかった。




 辿り着いたその先は惨状だった。立派だった正門は、今まで見えなかった幼馴染の家の中に侵入出来る程にひしゃげてしまっている。


 その原因は、守が取り逃がした装甲車がぶつかってしまったからだ。あれだけ頑丈な門をひしゃげさせたのだから相当の勢いだったのではないだろうか? 煙の原因は正門にぶつかった事で車が壊れてしまったからだろう。あの豪邸に住んでいたであろう男が、拡声器を使ってギャーギャー騒いでる。そのせいでゾンビ達がどんどん集まり、今すぐではないだろうが、このままではひしゃげた正門から侵入されてしまうだろう。


(俺はたかがゾンビに襲われない位で何で油断したんだ!)


 確かにさっきの作戦は、初めてにしてはうまくやれたかもしれない。だが、やれた程度で満足していた結果、このざまなのだ。


 あまりの怒りに目の前が真っ赤に染まっていく。それに合わせて、目は真紅に染まり、力を込める両腕が紫色に変化していく。


(ユルサナイ。ルゥ、オレガマモル!!)


 雄叫びを上げて、そのまま弾丸のように勢いよく走り出した守は、数百メートルあった道のりをあっという間に走り抜き、そしてそのまま装甲車まで辿り着いた。そのまま車を開けようとするが、特殊な構造になっているのかどの扉も力ずくでは開ける事が出来ない。


「ひぃ! 誰か!? バケモノをなんとかしてくれ!!」


 拡声器を使って周りに助けを求めるが、ここにいるのはゾンビばかりだ。


(ウルサイ、ダマレ!!)


「ウガアアアアアアアアア!!」


「ひいいいいいいい!?」


 近寄ってきたゾンビに当たろうがお構いなしにバールでフロントガラスを破ろうとするが、こちらも特殊なガラスなのかヒビ一つ入らない。


「ハ、ハ、ハハハ! バケモノめ、どうだ、壊せないだろ! これはわしが用意した特別車じゃからな! これに懲りてさっさとどっか行け!!」


(ドッカイケダト? フザケルナ!!)


「ウオオオオオオオオオオオオオ!!」


 バールを腰ベルトにかけ、装甲車の下の部分を持ち上げると、そのままひっくり返す。


「くそ、なんてやつだ! この車の重さは三トンもあるんだぞ!?」


 これで終わりではない。腹を見せた車に再度、バールを叩きつける。大きな物音と共に、バールを振り抜き続ける。流石に下部は柔らかいのか、徐々に歪みが見えてきた。守は歪みだした部分を重点的に殴り続ける。


「や、やめてくれ! このままじゃ壊れてしまうぞ!! 金か!? 女か!? そ、そうだ!! この屋敷にはいい女がいっぱいいるぞ!? それを好きにしたらいい! どうだ? いい話だろ!?」


「ウルサイ!!」


 両手でバールを握り、渾身の力で振り下ろす。ついに穴が開いた。その隙間にバールをねじ込むと一気に拡げる。そして見つけたのはぶよぶよに太った醜悪な男と、切れ目が特徴的な燕尾服を着た初老の男がこちらを見ていた。


 そのまま持っていたバールを振り上げる。これまでで一番力を込め、そのまま振り下ろそうとしたその時、守の耳に聴きなれた声が聴こえてきた。


「ねぇ、まぁくんだよね!? 何でこんな事してるの??」


 バールをおろし、慌てて前を向くと、正門の隙間から見えたのは幼馴染である、るぅの姿だった。

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