終末世界になって俺はゾンビになったが、それでも幼馴染だけは絶対守ってみせる!

ポンポン帝国

第一章 終末世界の始まり

第一話 日常の終わり

 君尾きみお まもるは普通の高校生だ。その日はいつも通りに部活を終え、辺りが暗くなりきるちょっと前に帰宅したところだった。今日の夕飯は何かな~? と他愛もない事を考えながらドアノブに手をかけると、家の鍵が閉まっていない事に気付いた。


「あれ? 閉め忘れたのかな? まぁいっか。ただいまー!」


 たいして気にせずに玄関を開けてみたが、そこに母の姿はなかった。いつもこの時間だと夕飯の準備をしているので当然といえば当然なのだが、それでもいつもなら返事位はある筈……。


 疑問に思ったが、夕食の準備が忙しいのだろう、と些細な事に区切りをつけ、リビングへと繋がる扉を開けてリビングへと入っていった。


 いつもより暗いな。頭上を確認すると日没まであとわずかにも関わらず、照明がついていなかった。LEDが普及した昨今において珍しい事ではあるが、まぁあり得ない話ではない。目の前に母がいるのだから原因なんて母に聞けばいいのだから。


「ただいまー、母さん。電気何で付けてないの? あぁ、腹へった」


 そこにいたのは、間違いなく守の母だ。だけどどこか様子がおかしい……?


「あれ? 母さん、どうしたの?」


 俯いたまま動かない母の事を心配し、近づいていく。母まであと一歩といったところまで迫ったその時、俯いていた母が顔を上げた。


「ガアアアアア!!」


 いきなり飛び掛かってくると守は押し倒されてしまった。


 何がどうなってんだ!?


 守は混乱しつつも必死に母を宥めようと試みているが一向におさまる様子はない。


「ちょ、母さん、いきなり何!? イタッ!!」


 取っ組み合いなっていたが、いきなりの展開に守が押されてしまっていた。そして、そのいきおいのまま守の肩を母に噛まれてしまった。今まで味わった事がない痛みに思わず母の腹を蹴飛ばし、吹き飛ばす。全力で蹴られた母は、転がるように壁までぶっ飛んでいってしまった。


「あぁ、もう!! 一体どうなってんだ……。あ、母さん、大丈夫!? ごめん! けど、いきなり噛みついてくるなんてどういう事だよ!?」


 肩をおさえつつ、慌てて立ち上がると母の元へと急ぐ守。すると母は立ち上がる事もせずにハイハイするように守へと迫ってきた。


 慌てて逃げるようにリビングから飛び出し、二階にある自室へと走っていった。幸いにも母はそのまま四つん這いのまま追いかけて来たので追いつかれる事なく、部屋へ逃げ込む事に成功した。


 部屋の鍵を閉め、そのまま寄りかかるように倒れこむ守。遅れて獣がぶつかってきたかのような衝撃が背中から伝わってきた。


 あの温厚な母が何でこんな事を……。


 その後、爪でドアをひっかき、何とかして中に入り込もうとしているようだ。中に入られないよう、ベッドをドアに寄せて開けられないようにすると漸く守は一息つく事が出来るようになった。


 ジンジンと痛む肩にタオルを巻きつけると、寄せたばかりのベッドに倒れこむように寝転んでしまった。


「くそ……。意味がわかんねぇ」


 噛まれた肩が熱くなるのに反して、身体中が急激に冷たくなってくる。冷や汗が止まらず、呼吸が荒くなってきた。次第に身体が重くなってきて、今では起き上がる事が出来なくなってしまった。


 いつの間にか母も諦めたのか、ドアをひっかく音がなくなった。静かになった部屋で一人、今の状況を考える。


「一体、何があったんだ……?」


 守の知ってる母は間違っても暴力を振るうような人ではなかった。むしろそれを見て涙を流すような人だった。それがいきなり守に襲い掛かってきたという事はあきらかに異常だった。


 そういえば、友達が言ってたな。隣の市で暴動がどうのって……。それと今の母の状態が関係してるのか?


 それにしても、さっきまで仲間と普通に笑って部活をしていた。それが今じゃこのざまだ。普通だったら、この後は家に帰ったら飯を食って、風呂に入って、スマホでゲームをして時間になったら寝る。


 たったそれだけの事が、どこか遠い夢物語のように今の守には思えて仕方ない。


 考えている間に意識が遠のいていく。身体は完全に冷たくなり、それに反して、傷口だけが今にも暴れ出しそうな程、熱くなっていた。


「このまま死ぬのか?」


 脳裏に思い浮かぶのは母、そして幼馴染だった。


「そいや、今朝は朝練に遅刻しそうだったから、母さんにいってきますって言えなかったな。あぁ、しっかり言っとけばよかった」


 父を早くに亡くし、女手一つで守を育ててくれた母。うっとおしいと思った事もあったけど、いつも俺の事を想ってくれていた。感謝してもしきれないそんな母だ。だからこそ、守は最後にしっかり挨拶出来なかったのが心残りだったのだ。


 そして……。


「るぅ……。俺が守るって約束したのにな。ごめん、もうダメみたいだ」


 幼馴染への約束を守れない後悔を口にし、守は意識を手放すのだった。


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