女装男子の幸福理論
青崎 悠詩
1 誰だってお姫様になれる
ー魔法少女ミラクルスター変身!女の子は誰だってお姫様になれる!
テレビで流れる日曜日の朝のアニメ。かわいいロリータ服を着た女の子が町に悪さをする怪獣と戦って勝つ話。僕は小さい頃からこのアニメを熱心に見ていた。内容からも分かるとおり、これは女の子向けのアニメで男の僕が熱心に見ることは少しだけ歪だ。それでも僕はたしかにミラクルスターに憧れてなりたいと思っていた。保育園のときの七夕の短冊には「ミラクルスターになれますように」とヨレヨレの字で自信満々に書いていた。
僕は今、大学生となり念願の東京に出てきてロリータファッションのショップでバイトする毎日を送っている。僕は普通をぶっ壊して生きている。そうやって生きていく日々はとても明るく楽しい。常識なんて全て無視すればいいんだ。自分のやりたいことを全力で楽しめばいいんだ。僕の膨らみのない胸にはその言葉が深く深く刻まれている。
「店長、おはようございます~。」
「おはよう廣樹。」
いつものようにバイト先の店長に挨拶をすると店長もまたいつものように挨拶を返してくれた。店長は厚底ブーツを履いてフリルがついたピンクのワンピースををひらりとさせて開店準備を着々と進めている。
僕はバックヤードのロッカーに自分の荷物を入れて今日の服を選んだ。水色の生地にアリスのお茶会がプリントされたワンピースをメインに白タイツや厚底シューズ、ヘアドレッサーなどの小物を組み合わせてお姫様になる。一人暮らしのアパートで仕上げたメイクとウィッグを被るとお姫様になれる。
鏡に向かって自分は今日もかわいいと言い聞かせて店頭に出る。店長はバッチリじゃん?と言わんばかりにグッと親指を立ててニヤリと笑った。
お店を開けてからは常連さんやネットで調べたのかエンスタで見たのか見慣れない顔の人たちが出入りを繰り返していた。常連さんには新しく入荷した商品を中心に紹介して、他のお客さんには要望をよく聞いて合いそうなものをピックアップしていった。
このお店に立っている間は自分はお姫様になれる。小さな仕立て屋に勤める可愛らしいお姫様になれるのだ。
その日のシフトをこなしてバックヤードに戻ると疲れが一気に押し寄せる。厚底で店内を歩き回ることで身体的な負担が、どんなお客さんに対しても笑顔で接客することで精神的な負担が多少なりともかかるのだ。ロッカーに入れてある荷物から私服を取り出し着替える。ウィッグを外すと男女どちらにも見える自分が立っていた。現在の自分は高校から憧れ続けた理想形だった。ウルフヘアに赤いアイシャドウを使った地雷系メイク。体格こそは男でも髪型やメイクは女性に近づけることでどちらにも見えるこの風貌は成り立っていた。
荷物をまとめて店の裏口から街に出るとお姫様から普通の人間に成り代わった。イヤホンをつけて好きな曲を流しながら帰りの電車に乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます