第26話
ラジオを終えて英治は車に乗り込んだ。
「英治さん、お疲れさまでした」西村くんは英治に会釈した。
「ありがと、どうだった?」
英治はシートに座るや否や西村くんにラジオの感想を求めた。
「面白かったです、けど……」
「けど?」
「英治さん、ホントに全部言っちゃうんだなと思って」
西村くんは苦笑しながら言った。
「え、だってNGなしでしょ?」
事前に西村くんを通じて事務所内では確認してもらっていた。
「そうですけど、もう少し濁したりするのかなと思っていたので」
「だって、変に濁して週刊誌にあることないこと書かれるの嫌なんだもん」
「……英治さんらしいですね。車出しますね」
「はーい、お願いします」
時計はもう23時を回っていた。
「お疲れでしたら寝ててくださいね」
西村くんは前を見据えたまま英治に声を掛けた。
「ん、いいよ、もう帰るだけだから。明日休みでしょ?」
英治は大きな欠伸をしながら答えた。
「はい、英治さん、明日明後日はお休みですね。来週は新CMの打ち合わせとか忙しくなるので、ゆっくり休んでくださいね」
西村くんは運転したまま答えた。
直近のスケジュールであれば頭の中に叩き込んでいる。頼もしい限りだ。
「うん、ありがとう」
「あんまり羽目外しちゃダメですよ」
「分かってるよー。……何か西村くん、最近かえでちゃんに似てきたよね」
「え、ホントですか!?嬉しいです!ありがとうございます!!」
口うるさくなった、という意味を込めた嫌味だったが、西村くんには全く通用しなかったようだ。
「明日明後日はどこか行かれるんですか?」
西村くんにそう聞かれ、英治は明日以降に思いを馳せた。
「……ナイショ」
英治はにっこり笑ってそう答えた。
「えぇー、英治さんらしくない。彼女とかだったら事前に教えてくださいね」
「えー、彼女がいるかいないかを西村くんに報告しないといけないの?俺もう30歳のおっさんなんですけど……」
「だってハニートラップとかに引っかかってたら困るので」
「いやいや、うちの事務所、俺に対する信用無さすぎない?色々迷惑掛けたのは認めるけど、今までスキャンダルなかったでしょ?」
そんな軽口を叩きながら、車はマンションに向かって行った。
英治の頭の中は既に翌日の予定に走っている。
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次回(10/22 12:00更新予定)、第一部最終回です。
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