【英文解剖生理学】英語長文アレルギーの処方箋~ツンデレ少女たちと学ぶ英字新聞抄読会~

逸真芙蘭

§1 SとVを探せ

~エピローグ~


 ある日、放送部の部室でコーヒーを啜りながら、参考書のページを繰っていたら、突然扉が開かれ、

「あら、花丸くん。こんなところにいたの。早くしないと始まるわよ」

 と橘に腕を掴まれ、外へと連れされてしまった。

「おいおい。いったい何が始まるんだってばよ」

 と当然の疑問を彼女に投げかけたら

「そんなの決まってるじゃない。抄読会よ」

 ショードクかい? ……show 毒会? 

 ……よく分らんが、ろくでもないものに違いない。字面から察するに、毒物か、薬物が絡んだ会合だろう。


「いやだ、俺はそんな怪しい会合にはいかんぞ。きっと絶対儲かるって言われて、よくわからないうちに、よくわからないモノを買わされるんだ」

「違うわよ。お馬鹿さん。それはねずみ講でしょう? そんなものじゃないわ。もっと有益なものよ。この会合に入れば、あなたの人生が輝きだすに違いないわ。本当は教えたくないくらいなのだけれど、あなたには特別に教えてあげるのよ」

「おもっくそ、マルチの勧誘の仕方じゃねえか」

「いいから黙ってついてきなさい」


「あ! まるもん、見つかったんだ!」

 そこに安曇さんが現れ、俺を挟んで橘の反対に立ち、橘と同様に俺の腕をがっしりとホールドした。


 抵抗虚しく、橘と安曇に引きずられて、入ったことのない部屋に連行された。


~~~


座長(綿貫萌菜)「こんにちは。英字新聞抄読会へようこそ」

橘さん「こんにちは」

安曇さん「こんにちは!!」

花丸くん「……!?」


み「……ちょっと花丸くん。挨拶ぐらいしたらどうかしら。学習者の姿勢以前に人としてどうかと思うわよ」

花「え、いや、急に連れてこられて、急になんか始まって動揺してるだけなんだけど。え、てかなんで萌菜先輩?」

み「何を言っているの、花丸くん? 彼女は座長さんよ」

花「誰だよ座長さん」


座「ははは。君も災難だな。だけどこの部屋に入った以上、抄読会が終わるまでは出すわけにはいかないなあ」ニチャァ


花「……(うわぁ)」


橘「時間がもったいないからさっそく始めましょう。座長さん。今日のテーマは?」

座「今日のテーマは先日行われた、ボクシングのエキシビションマッチについての記事です。さっそく読んでいきましょう」


Mikuru Asakura, 30, a popular Japanese MMA, or mixed martial artist, fighter, managed to land a few punches in his boxing debut. But Asakura crumpled to the floor in the second round when Mayweather became more aggressive. When Mayweather landed a right hook in his face toward the end of that round, Asakura went down again and was unable to get up.


《The Asahi Shimbun, BOXING/ Mayweather Jr. easily wins by knockout in Japan exhibition THE ASSOCIATED PRESS September 25, 2022 at 18:10 JSTより抜粋》


じゃあ、みんなで読んでいくけど、まず最初に、英文を読むときに探すものって何か分かる? 安曇さん

安:えっと、主語と動詞を見つけることです


そうだね。平叙文では主語と動詞の存在が必要だからね。じゃあ、Mikuruから始まる一文で名詞成分に当たるのはどこかな。花丸くん

花:manageの手前までです


その通り! manageは動詞だね。S=Mikuru Asakuraに続く句は全部主語(S)を説明しているものだね。二回目の名詞句は一般に同格と言われるものだね。じゃあ、途中で出てくるorはどういう意味かな?

安:えっと、接続詞『または』ですか?


うん。接続詞っていうのはいいんだけど、このorはすなわちっていう意味で使われてるんだ。記号で言うと=だね。類義語としてthat isや、id estなんかがあるね。今回はMMAが何の略か説明しているよ。そうすると主語の構造は以下の通りになる

 Mikuru Asakura(30, a popular MMA(=mixed martial artist ) fighter)


 30は数字だけだけど、形容詞的に主語にかかってる。その後の句でa popular MMAと来るけど、ここで切っちゃうとまずいんだ。なんでか分かる?

橘:MMAは競技名なので、不可算名詞になるからです


その通り! 例えばだけど競技名をさしてa tennis とは言わないし、a baseballとも言わないね。競技名じゃなくて、ballについて言いたいならこれもあり得るけどね。だからa tennisと来たら、その後に、playerか、matchといった単数形の名詞を探す必要があるんだ。今回もそう。MMAの後に来る単数形の名詞は……

花:fighterです


そう! だから名詞句を訳すと、『30歳の朝倉未来、日本で人気のMMA(総合格闘技)選手は』になる。説明の都合上、なるべく頭から訳していくけど、試験とかで和訳するときは、語句は入れ替えて自然な流れにしてね


 次に来るのが動詞から始まる、

managed to land a few punches in his boxing debut.

この分の骨格となる動詞の部分はmanaged to landに当たる。熟語帳でmanage to do という風に覚えている人もいるだろう。「なんとかdoする」という意味だね。だからlandは名詞としてではなく動詞で使われていることはすぐ分かると思うけど、landの意味は何かな?


安:えっと、着地する? ですか


 確かに飛行機とかが着地することをlandともいうね。その場合は自動詞になると思うけど、すぐにあれっと思うはず。


橘:後ろにa few punchesという名詞があるからですね

  

 そう。名詞は主語(S)になるか、目的語になるか、補語になるか(あと同格)だから、landが自動詞とするより、a few punchesを目的語に取る他動詞とした方が自然だ。a few punches をlandさせる。つまりパンチを相手の体に着地させるという風に考えると、landは「攻撃を与える」、という意味を持つことが分かる。

 その後に続くin his boxing debutという前置詞句(in+名詞)は、文を修飾する副詞としての役割がある。朝倉選手はMMAの選手だから、ボクシングは今回が初めての試合なんだね。V(動詞句)+O(+M)という構造になって

『なんとか数回パンチを加えた、(彼の初めてのボクシングの試合で)』という意味になる。


さあ次の文に行こう。

But Asakura crumpled to the floor in the second round when Mayweather became more aggressive.

Butから始まる文だけど、Butは接続詞なので、文頭に持ってきて単独の節にしてはいけないと習った人も多いと思う。確かに試験や論文を書くときは避けた方がいいみたいだけど、日常生活では気にしなくて良いみたいだね。実際本文もbutの節が単独で書かれている。

この文の骨格(SV)は何かな?

花:AsakuraがSで、crumpledがVです。


 そうだね。crumpleは自動詞で「くしゃくしゃになる」という意味があるけど、人が主語の時は「崩れる」という意味でつかわれる。その後に続く、to~、とin~は文を修飾する役割だね。それぞれ「床に」、「第二ラウンドの時」という意味だ。

 その後whenから始まる節がある。これはAsakura crumpledの主節に対してwhen svとなる従属節だね。だからこの文は二つの節(SV骨格)を持つ、複文というやつだよ。

 when節の中は主語がMayweather、動詞がbecame、補語がmore aggressiveのSVCの構造になってる。

『朝倉は第二ラウンドで床に崩れた。この時メイウェザーはより攻撃的になっていた』


じゃあ最後の文だ。


When Mayweather landed a right hook in his face toward the end of that round, Asakura went down again and was unable to get up.


これも複文で、(When SV), S+VandV

 When節のlandはさっきと同じ意味だね。でも今回は主語がMayweatherになっている。頭から見ていくと、『Mayweatherは右フックを与えた。→(どこに)彼(もちろん朝倉選手!)の右顔面に→(いつかというと)そのラウンド(第二ラウンド)の終盤にかけて』

 主節はどういう構造になっているかな?

安:えっと主語がAsakuraで、動詞がwentで、……えっと、and……あれまた動詞が


 主節に動詞が二つあるね。動詞が単独で存在するのは、平叙文ではおかしいから、まず動詞の親分を探す必要がある。つまり主語はどれかな。って話になる。今回のは形がシンプルだから分かると思うけど。

安:wasの主語もAsakuraです。


 うん。だからandはwentとwasを結んでるんだね。ここでポイントだけど、andやbutといった、等位接続詞が結ぶものは文の成分が一緒である必要があるんだ。

he and go みたいに名詞and動詞や、like and lovely 動詞and形容詞というような結ばれ方はしない。またhe and she like dogs と来た時は、andが結ぶのはhe(語)とshe like dogs(文)ではなく、heとsheの語同士でなければならない。

橘:そんなのあたりまえだと思うけれど。


 あはは。まあ、単語同士を結んでいるくらいならすぐわかるけど、andが結んでいるものが句になったり、節になったりした途端、前後の成分が等位であることを忘れてしまうんだよね。この意識は注意して持っておく必要がある。

 じゃあ本文に戻るけど、今回、went downしたのも朝倉選手だし、was unable to get upだったのも朝倉選手ということになり

『朝倉選手は再びダウンし、起き上がることが出来なかった』


今回はここまで!

文の構造をここに書いておくね。

https://kakuyomu.jp/users/GenArrow/news/16817330654834575147


安:座長さん! 質問です!


座:なんだい?


安:なんか、頭から訳すのにこだわっているようですけど、結局和訳するときに単語の順番を入れ替えるなら、最初から返り読みすればいいんじゃないですか?


座:ああ。そこが我々日本人が英語学習をするときに悩むところの一つなんだけど、結論から言うと、返り読みは絶対やめるべきだよ。和訳を書くときに語順を入れ替えるのは、日本語の構造が英語の構造と異なることに因る、避けられない作業ではあるけど、文章を読む段階で返り読みをすると、文が複雑になるほど、文の構造が把握しにくくなっちゃうんだ。ネイティブは当然返り読みなんてしないし、我々が英文を読むときも、頭から訳していった方が速く読める。

 よく日本人は結論を最後に持っていきたがる、という風に言われる。その真偽は定かじゃないけど、先にごてごてと副詞やら、形容詞やらで文章を修飾して最後にSVが来がちな日本語に対して、最初にSVを持ってきて、あとから補足説明を加えていくことが多い英語という構造の違いからして、日本語は文単位レベルで結論が後に来がちなのはありそうだね。英語ではまず大事なことを言って、あとから説明をつけ足していく、という頭の働かせ方をする。その頭の働かせ方をインストールするためにも、返り読みの癖がある人はすぐに直した方がいい。


昨日、私の友人が海で釣った魚を、今日私は食べる。

I will eat fish today which my friend caught in the sea yesterday.


日本語では魚を食べたという文の骨格が後ろに来るが、英語では前のほうに来ている。


~~~

座「さあ、どうだったかな。英字新聞抄読会は?」

橘「花丸くんもとても勉強になるので是非参加したいそうです」

花「おい、お前は何勝手に俺の気持ちを代弁してるんだ」

橘「あら、そうだったわね。花丸くんにしてみれば、何であろうと私と一緒に入れるなら大歓迎ということよね。ごめんなさい」

花「いや、そうじゃねえよ」

安「でもまるもんも一緒にやったら楽しいよ! ね!?」

花「……まあ、嫌とは言わないけど」

橘「ということなので、次回から三人で参加します」

花「……なんだかなぁ」


今回のポイント

その一 英文を読むときはまず、SとVを探す。

その二 等位接続詞が結ぶものは、語同士、句同士、節同士、同品詞同士の同等の要素。

その三 返り読みはしない。


引用文献

The Asahi Shimbun, BOXING/ Mayweather Jr. easily wins by knockout in Japan exhibition THE ASSOCIATED PRESS

https://www.asahi.com/ajw/articles/14727158

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