痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。/夕蜜柑
<防御特化とメンバー追加?>
今日も今日とて『NewWorld Online』を満喫しているメイプル。
ただ、今日は何やら考え事があるようで、普段はあまり見ない難しい表情をしてソファーでうーんうーんと唸っていた。
「メイプル、来てたんだ! ……どうかしたの?」
「あ、サリー! 実はちょっと考え事をしてて」
「珍しいね」
「もー、私がいつも何も考えてないみたいなー」
「ごめんごめん。で、考え事って?」
「ギルドメンバーのことなんだけどね。ちょっと前にフレデリカにあった時に【楓の木】はこれ以上増やさないのかって」
「なるほど」
【楓の木】ギルドホームは小規模ギルド用のものではあるが、それでも所属人数には余裕がある。ギルドメンバーは結成時にクロム達、少しして対人戦に合わせてマイとユイをスカウトしたっきりだ。ギルドメンバーの数が多ければ、取れる作戦も増え、戦略の幅も広がるだろう。
「対人戦もまたあるしね。【集う聖剣】なんかは上限いっぱいまでギルドメンバーがいるから、フレデリカからすると不思議なのかも」
「うんうん。マイとユイに入ってもらったのも対人戦の前だったから」
「今回もその前に……ってことだね?」
「そう! サリーはどう?」
人が増えれば戦闘での負担も減り、サリーもよりやりやすくなるのではないか。メイプルはそう思っているようだった。
「そうだなあ……私としては増えても構わないとは思うよ。有利を取りやすくなるし、できることも増える。あくまで個人的には、だけどね」
今の【楓の木】であればギルドメンバーを募集すればすぐにでも枠は埋まるだろうとサリーは言う。ここまでの成績を鑑みればそれも当然だ。
八人という限られたメンバーでありながら、各イベントで存在感を発揮する。得られるであろう報酬面だけをみても、誘いがあるなら断る理由などそうはない。
「他の皆にも聞いてみる? もう随分長く一緒にやってきたし、きっといい助言をくれるんじゃないかな」
「うん! そうしよう!」
後日。全員が集まったところでメイプルは新メンバー加入についての相談を切り出した。
「おおー、なるほど。新メンバーかあ」
「ふむ。そうなるとマイとユイの二人以来だな。とはいえ時期としては二人も最初からいたようなものだが……」
「確かにまだまだ枠はあるね」
「そうなるとアイテムももっと用意する必要があるかしら」
「メイプルさん、どんな方にするつもりですか?」
「気になります……!」
「誰とかっていうのはまだ全然決まってないんだー。皆はどうかなって」
メイプル自身がメンバーを募集するとそう決めたのであればそれに反対する理由はない。それに、人が増えればギルドとしてよりいい成績を残しやすくなるのは共通認識だ。
「ただ、どれくらい増やすのかっていうのは難しいなあ。上限いっぱいまで埋めるのも難しくないだけに」
「そうだな。マイとユイの時は二人で話をしたと聞いたが、今回はそうもいかないだろう」
希望者だけでも数十倍、いやそれ以上になることも容易に想定できる。全員とじっくり話し合って、というのはやはり現実的ではない。
「やっぱり人が増えるとギルドマスターとしては大変になるよね。今の僕達みたいにすぐに全員集まるのは難しいだろうし。作戦の共有とか、方針をどうするかとか」
【楓の木】はメイプルがギルドマスターではあるものの、そこまできっちりと指揮をとって作戦を決めているわけではない。それでも上手くいっているのは少人数であることがプラスに働いている部分があるからだ。サリーが言っていたように作戦の幅には限界があるものの、素早い作戦変更は少人数の方が簡単に行える。
「どこまで人を増やせるかはメイプルちゃんの頑張り次第ってところかしら? もちろんサポートはするわよ」
メイプルには今より遥かにギルドマスターとしての働きが求められるだろう。
「勧誘の時は言ってください!」
「私達も手伝いますっ!」
「うん! ありがとう! どうするか決まったらまた伝えるね!」
【楓の木】のメンバーは皆、メイプルの決断を尊重する方針でまとまったようで、あとはメイプル次第というわけだ。
急に集めてしまって申し訳ないとペコリと頭を下げるメイプルに、六人は気にしないでいいと返して、それぞれ今日やる予定だったことに移っていく。
そうしてメイプルとサリーが残ったところでさてどうしようかとメイプルは考える。
「最後はメイプルに任せるって感じだったね。どう?」
「うーん、たくさん人が増えたらどんな感じかなって」
メイプルは今よりずっと多くのプレイヤーがギルドホームの中にいる状況を想像する。
ただ、他のゲームを合わせてもギルドに所属するということがないため、思い描いたものはくっきりとはしていない。
メイプルが想像を巡らせる中、ギルドホームの扉が勢いよく開かれる。
「たのもー!」
「あ、フレデリカ。と、ミィも? 珍しいね」
「ああ、引っ張られてな。忙しいようだったならすまない」
「最近時々パーティー組んでやってるの。で、そう言えば今日はまだサリーと一戦してなかったなーって」
「そんなデイリークエストみたいに」
「じゃあサリーは行ってくる? ……あ、そうだ!」
「どうかしたメイプル?」
「二人にも聞いてみようと思って!」
「あー、ありだね。提案した張本人だし」
「「……?」」
フレデリカもミィもそれぞれ大規模ギルドに所属しており、ギルドメンバーもゲーム内でトップクラスだ。二人ならメイプルにはない視点をもたらしてくれるかもしれない。
メイプルは二人にも事情を説明する。
「おー、追加メンバーねー」
「なるほど。強くなる上で分かりやすい方法だと言えるだろうな」
「うんうん。味方がたくさんいるっていいよねー」
「でもやっぱり連携とか大変かな?」
「そーだねー。ペインもイベントの時は忙しそうにしてるし、ミィなんかまさにそうなんじゃない?」
「ああ。やはりギルドマスターとして、というところはある」
「なんなら【炎帝ノ国】は他のギルドよりもそういうところあるよね」
「それは否定できないな」
「逆に数を増やすことで弱くなるってこともあるかもよー? 上手く連携できなかったり、無理に助けようとしすぎたり。【楓の木】は今ちょうど一パーティー分ぴったりで足並みも合わせやすいけど」
「次の層に行く時も皆一緒だもんね!」
「確かに人が増えると全員一緒っていうのは難しくなるかな」
「……気の合う者と、というのが大事だと思う。幸い私はギルドの皆に支えられているが、誰とでも上手くやっていけるわけではないからな」
ミィは二人に気づかれないように、少し表情を和らげて、メイプルが一番楽しめるやり方を選べばいいと本心を伝える。
「んんっ……それに、少人数で連携をとり続けたからこその土壇場での強さというものはあるだろう。メイプルとサリーなどはまさにそうだと思っているが?」
「なるほど……」
「どっちでも私は大歓迎だけど。今度は勝っちゃうからねー。それと、今日の決闘も!」
「はいはい。こっちはいつでもいいよ」
「ありがとうフレデリカ!」
「あはは、【楓の木】のこれから、楽しみにしてるよー」
二人が決闘のためにギルドホームの奥へと消えていくと、ミィは辺りを見渡して誰もいないことを確認してから話しかけた。
「ふー、びっくりしたよー。メイプル、もう人を増やすとか考えてないのかと思ってた」
「対人戦も近いし、皆が楽できるといいなって思って!」
「なるほどね。じゃあいい所と大変な所、二人が戻ってくる前に改めて伝えておこうかな。ほとんど同じ話になっちゃうけどね」
「ほんと!? ありがとう!」
「いえいえ。私の話がメイプルの決断の材料の一つになったらいいなって」
ミィがメイプルに自分のギルドでの話を伝えているうち、ギルドホームの奥からボコボコにされたフレデリカが戻ってきた。
「はー、負け負けー!」
「今日もデイリークエストは達成ならず、か」
「いつでも挑戦待ってるからね」
「んー、メイプル! やっぱり増員はなしで! これ以上強くなられると困るしー!」
「あはは、さっきは助言してくれたのにー」
そうしてしばらく話をしてからフレデリカとミィはまた遊ぶ約束をしてギルドホームを出ていき、そこには再びメイプルとサリーの二人だけが残された。
「さてと、思わぬ来客があったけど。どうする、スカウトにでも出てみる?」
「それなんだけどね。やっぱり、やめておこっかなって」
「あれ? そう?」
「うん。今の皆と上手くやれてるし! 無理に増やさなくてもいいのかもって……ごめんね?」
「あはは、何で謝るの。いい決断だと思うよ」
「そう? ……あんまりいっぱい来てくれても皆と遊べないかもって」
「うん。固定で遊ぶなら八人は一番ちょうどいいかな」
ただ、これで当初の目的だった戦力強化はなくなった。
だがそれならそれでとサリーは提案する。
「じゃあもっとチームワークを強化しよう。それに、変に人を増やさなくても、もうすごい人ばっかりだからね」
「皆強いもんね!」
「まあ、一番変ですごいのは他でもないメイプルなんだけど」
「えー!?」
「ふふ。さ、人を増やさずにより強くなる方法。いくつか考えてみよう?」
「おー!」
メイプルが一番楽しめるような決断であるのなら、それがサリーにとっての一番なのだ。
メイプルがよりのびのびと、かつ楽しくあるために、サリーはその分考えればいいのである。【楓の木】のギルドマスターがメイプルで、ギルドメンバーが七人。これが最適解であると、迷いなく言い切れるような体験をメイプルにさせてあげたいと思うサリーなのだった。
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