カドカワBOOKS7周年記念・ショートストーリー集
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蜘蛛ですが、なにか?/馬場翁
<7>
私は真剣な面持ちでとあるものをテーブルの上に出した。
そのとあるものとは、トランプのカードだ。
「やっと出したわね! ご主人様が止めてんのはわかってたんだから!」
私の出したカードを見て、吸血っ子が嬉しさ半分、怒り半分みたいな、何とも複雑な感情を織り交ぜた言葉を吐く。
……カードゲームごときでそんな血を吐くような本気度合いを見せなくてもいいでしょうに。
吸血っ子が私の出したカードの横に、自分のカードを出して置く。
今、私たちが何をしているのかと言うと、七並べだ。
参加メンバーは、私、魔王、吸血っ子、鬼くん、メラ。
つまりいつメン。
どうして私たちは七並べなんて始めたのかと言うと、特に理由はない!
それぞれの活動報告会がてら、なんとなーく始まった。
ちなみに、この世界にはトランプは存在してなかったんだけど、魔王は私の記憶の一部を元体担当から受け継いでいるからルールはわかってる。
メラもこの集まりでちょいちょいトランプをすることがあるので、だいたいのゲームのルールは覚えた。
最初のうちは定石とかわかってなかったから負け続きだったけど、もともとメラって領主の補佐ができるくらい優秀だったわけだし、慣れてきた今となっては主人の吸血っ子よりもだいたいのゲームにおいて強い。
吸血っ子もなぁ、頭の回転自体は悪くないはずなんだけど、なんか脳筋なんだよなぁ。
ド直球で考えてることがわかりやすいっていうか。
だから最下位になりやすい。
まあ、トランプのゲームなんて多くは運がからむから、吸血っ子も負け続きってわけじゃないけどね。
今やってる七並べだって、戦略とかなんだとかよりも、最初に配られた手札で勝敗の大部分が決まるようなもんだし。
七並べなんていかに七に近い数字のカードが手札に多くあるかでしょ。
あとは一とか十三とかの端のカードがなければよし。
ちなみに現在すでに終盤戦。
この時点で私の残り手札はあと二枚。
しかも、吸血っ子が吼えていた通り、私はダイヤの六を止めていた。
しかもしかも、残り二枚のうちもう一枚はダイヤの八。
つまり、私は一人だけでダイヤの両方をせき止めていたってこと。
残りの三種はカードがかなり出そろってきている中、ダイヤのところだけスッカスカ。
私の出したダイヤの六のあと、吸血っ子がダイヤの五を出したけど、ダイヤのカードを持っている人たちはここからきついだろう。
勝ったな。風呂入ってくるわ。
っと、言いたいところなんだけど、そうは問屋が卸さない。
私の手札の残り一枚、それがクラブの十三なんだなー、これが。
そしてクラブの後半は十で止まっている。
クラブの十一と十二が出てくれないと、私の上がりはない。
クラブの八は私が出して、九と十も割とすぐ出たんだけど、十一が一向に出てこない。
誰かが十一を止めている。
そしてその止めている奴には心当たりがある。
ニコニコしてるそこのお前!
お前だ魔王!
毎回同じメンバーで遊んでると、だいたいの傾向がわかってくる。
どのゲームをやるにしても、プレイ傾向に性格がよく出るんだわ。
吸血っ子はバカ正直だし、鬼くんはストレートに勝ちを狙いに行くスタイル、とか。
その傾向で行くと、私は持てる手を尽くして全力で勝ちに行くスタイルだ。
もちろん、相手の足を引っ張るのも忘れない。
対して、魔王も私と似たタイプではあるんだけど、私みたいにあからさまな妨害みたいなことは一見しない。
一見、しない。
そう、魔王は一見ではわからないように、ものすごーく地味ーに相手の足を引っ張るんだよね。
今回で言うと、私は思いっきりダイヤの六と八を止めてたけど、これはもうあからさますぎて丸わかりの妨害。
対する魔王の妨害はクラブの十一というものすごく中途半端なところ。
そこを止めていても妨害されているとはわかりにくい。
なかなか出てこなくても、たまたま後回しにされてるだけだって思っちゃうような微妙なところだね。
私も最初はそう思ってた。
けど、違う!
この感じは魔王が意図的に止めている!
根拠はないけど魔王のプレイスタイルからして十中八九そう。
……まずいな。
これは、魔王には私がクラブの十三を持ってるってバレてると見たほうがいい。
私が初手でクラブの八を出したのを見て、私の手札にクラブの後半のカードがあると見破ったか。
チッ、ミスったかもしれない。
とは言え、クラブの十三を処理するためには早めにクラブの八を出しておかないといけなかったし、戦略的には間違っていなかったはず。
ただ、流れはあんまよくないな。
順番が回ってきたメラがダイヤのカードを出す。
私がこの局面までダイヤを両方止めていて、それを解除したってことは、こうやって出せなかったダイヤのカードが一気に出てくるということ。
そしてみんながダイヤに群がっている間、私の狙いであるクラブのカードは出てこない。
まあ、魔王があえて止めているのだからどっちにしろ出てこなかった可能性が高いけど。
案の定、再び私の番に回ってくるまでに、クラブの十一は出てこなかった。
ぐぬぬ。
仕方がない。
うちらが七並べをする際のルールとして、出せるカードがある時はパスしちゃいけないことになっている。
好きな時にパスをしていいのなら、あえてダイヤを止めたままパスしてクラブの十一が出るのを待つんだけど、それはルール上できないからねえ。
しょうがなく私は残った二枚のカードのうちのもう一枚、ダイヤの八を出す。
待ってましたとばかりに目を輝かせ、すぐさまダイヤの九を出す吸血っ子。
吸血っ子、ダイヤの五と九を持ってたのか。
そりゃ、六と八を止められてたらキレるよね。
そんな吸血っ子の手札は現在四枚。
私がダイヤをせき止めていたせいで、三回もパスをする羽目になってた、ということだ。
続いて鬼くんがスペードのエースのカードを出す。
これでスペードはすべて出そろった。
この時点で鬼くんの手札は三枚。
吸血っ子ほどじゃないにしろ、鬼くんも二回パスを行使しており、厳しい状況だ。
続いてメラ。
「パスです」
おっと、ここでメラがパスを宣言。
メラの手札は残り二枚。
つまりこれが初のパスとなる。
ここまで運がよかったのか、メラは順調に手札を減らしていた。
ぶっちゃけここでメラがパスしなければ、一番はメラになる可能性が高かっただけにちょっとホッとした。
そして最後の魔王の番。
ここが分水嶺!
魔王がスッとカードを出す。
クラブの十一!
よしよしよーし!
首の皮一枚つながったぞ!
「パス」
私はパスを宣言。
ここはどうあがいてもパスになってしまう。
順番がきついんよ。
クラブの十一を持っている魔王の次が私の番だからね。
たとえ魔王がクラブの十一を出しても、クラブの十三を持っている私はどうあがいてもあがることはできない。
誰かがクラブの十二を出してくれないと。
このターンでクラブの十二が出れば私は次のターンであがることができる。
このターンでクラブの十二が出なかった場合、みんなの残り枚数からしてかなり厳しくなってくる。
このターンであがれる可能性があるのは、残り一枚の魔王のみ。
魔王があがるか否か。
クラブの十二がこのターンで出るか否か。
それで私の運命が決まる。
分の悪い賭けじゃない。
魔王がこの局面で止めていたクラブの十一を出したということは、残ったもう一枚はたぶん出せなかったんだと思う。
あと残っているカードは、ダイヤがいっぱい、その他は端っこが少し。
ダイヤ以外だと私の持ってるクラブの十三、そしてクラブの一とハートの一と十三。
もし魔王が出せるカードを持っているとしたら、わざわざ止めているクラブの十一ではなく、それらの端っこのカードを出しているはず。
つまり、魔王が持っている残りのカードはダイヤだ。
魔王がダイヤの端のほうを持ってれば私の勝ち目は高い。
ダイヤはかなりつまっているし、クラブの十二を持っている人がダイヤを出せないとなったら、普通に出てくると思う。
さあ、来い!
「あー、やっぱビリかぁ……」
結果、一番は私、二番が順当に残り枚数が少なかったメラ、次に鬼くん、吸血っ子と続き、意外や意外にもビリが魔王だった。
「ダイヤが全然出てこなかった時点で察してたよ、うん……」
魔王の最後に一枚はダイヤのエースだった。
……そりゃ、ビリになっても仕方がない。
「どっかの誰かがダイヤを両方止めてたのが悪いと思いまーす」
じろりとにらんでくる吸血っ子から顔を逸らす。
ほら、勝負は本気でやらなければ相手にも失礼ってもんじゃん?
「白ちゃんってこういう害悪プレイ大好きだよねー」
「ほんとほんと」
ビリとその次の雑魚コンビが一致団結してる。
でも君ら敗者だから。敗北者じゃけえ。
「ぶーぶー!」
「ぶーぶー!」
はっはっは。
敗北者どもがさえずっておるわ。豚になっておるわ。
仮にも女の子が豚の物まねなんてするんじゃありません。
ほら、鬼くんとメラが苦笑してるじゃん。
「白ちゃんはあれだよね、ゲームで容赦なさ過ぎて友達なくすタイプ」
「あー、わかる」
「アリエルさん、本当のことでも言っていいことと悪いことが……」
鬼くんや?
それフォローしてるようでとどめ刺しに来てないかい?
「このような単純なゲームでも学べることがあって面白いですね。自分の勝ちを目指すだけでなく、相手の足を引っ張るというのも有効だと痛感しました」
話題を変えようと思ったのか、メラがそう言った。
「だからってまねしなくていいわよ? こういうのは無理にまねしてもうまくいかないもんなのよ。自分に合ったやり方で突き進むのが一番よ」
む。吸血っ子にしては割と真理をついたいいことを言っている。
こういうのは素の性格が結構影響するからね。
足を引っ張るのが苦手な人もいるし、メラは割とそのパターンだし。
「ソフィアちゃん、それってただ単にメラゾフィスくんが害悪プレイするの見たくないだけなんじゃない?」
「当たり前でしょうが! ていうかこれ以上害悪プレイヤーが増えたらこの卓はお終いよ!」
喚く吸血っ子を見てみんなが笑いだす。
「ほら! 次のゲーム始めるわよ! 次こそは勝ってやるんだから!」
吸血っ子がカードを集めてシャッフルし始める。
ふ、何度やろうとも私が一番に決まってるじゃないか!
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