第10話 どこかで半分失くしたら

帰宅途中、ワイヤレスイヤホンでYOASOBIの『三原色』を繰り返し聴いていた。


繰り返し聴いていた。

2度書くことはないが。


私の耳の形が悪いのか、ワイヤレスイヤホンが耳から抜けやすい。一度、バスの中で落として、座席の下の奥まで行ってしまい、


それを取るために降りるバス停を過ぎてしまったこともある。


その日も急に強い風が吹いたので、前髪を直そうと手で梳こうとすると、てのひらが軽く、耳にしてるイヤホンに触れてしまった。


本当に軽く。


なのにイヤホンは私の耳から抜け落ちてしまい、その様子が私にはコマ落としのように、一コマ一コマゆっくりと道路に落ちて行くように見えた。


すると、すぐ先には排水溝の穴が!


取り返しのつかないことをしてしまいました。


ゆっくりと落ちたイヤホンは、コロコロと転がり、

案の定、排水溝の穴の方へ。


ダメ、落ちちゃダメ!


松任谷由実さんの真珠のピアスという曲に、

♫どこかで半分失くしたら

 役には立たないものがある♫


その通りだ。

あのイヤホンの片方が無くなったら、役には立たなくなる。


私はありったけの念を込めて、

「止まれっ!」と叫んだ。


すると排水溝に向かってまっしぐらに転がっていたイヤホンが、小石に当たってその方向が変わり、


穴の手前で止まった。


やった。

私は念を放つ力を手に入れたのだった。


嘘なのであった。

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