掌編小説・『国際平和』
夢美瑠瑠
掌編小説・『国際平和』
(これは、9月23日の「国際平和の日」に因んで書かれたものです。)
掌編小説・『国際平和』
1 超情報国家
ワン国連事務総長は、次々と世界各地で勃発する国際紛争に手を焼いて、ほとほとうんざりしきっていた。
「世界の火薬庫」の中東はもとより、中央アジアや極東、南米、どこもかしこも戦争のドンパチ騒ぎが花盛りだった。
経済的、政治的な要因はもとよりだが、つまり人類には戦争という”蕩尽”を、日常という”澱”の堆積をご破算にする一種の祝祭空間を集団的無意識で欲求するという、倒錯的で破滅的な性向があるのかもしれない…
「ふーっ…」
ワン氏は深い憂わし気なため息をついた。
国連に所属している様々なシンクタンクや、スパコンで実験的に構築途上のモデルA.I、最終的に国連が世界の国家をすべて統括して「超国家」になるという、その場合のリーダー、そういうイメージでデザインされている「ゼウス」に、ワン氏はお伺いを立ててみたりした。
その結果、ひとつの興味深いアイディアが有力な案として候補に上った。
それは、「超情報国家」というものの秘かな試作という草案であった。
現代の世界はきわめてインテリジェントで、コンピューターネットワークや情報というものが、経済や軍事や科学技術や、諸々の社会の構成要素における中心的な核というか、死命を制する鍵となっている。ハッカーやスパイが日常的に世界中に暗躍していて、サイバーテロやその他の、最先端技術をめぐる「情報戦争」が、裏で社会を操り、実は現代の「歴史」をも作っている。「歴史は夜作られる」というが、現代においては「歴史はハッカーやスパイによって作られる」そういう断面も確かにあると言えよう。アメリカにはご存じのCIAがあるし、ロシアやイギリスにも諜報局はあって、まあ最も華やかでカッコいいイメージの部局である。007とか、スパイをテーマにした映画や物語には事欠かない。
が、国連にはこれまで、それに相当するスパイやハッカーの人材を集結して機能的に活動させるというような直属の機関は存在しなかった。
で、平和維持活動を第一義な任務とする国連直轄の「情報スパイ機関組織」を、新設して、世界中から超優秀な人材を密かに集めて、裏の「情報戦争」において完璧な勝利を収めることを目的に活動させる。そうして、それは存在形態において「部局」ではなくて「国家」なのである。
予算の規模も、携わる人間の数も、目的を遂行するための様々な設備も、ケタ外れに巨大なのだ。
国家予算規模のカネを動かしうる、ユニコーン企業並みの収入を情報技術で獲得できて、技術の研究や開発も独自に行えるのだ。
そうして、そういう巨大な「スパイ組織」、「超情報国家」が存在することは全くの極秘事項にしておくのである。その、裏で世界を自在に操るような潜在能力を秘めたいわば”超巨大なCIA国家”のビジョン。そういう人間で出来た超LSI、スパイの集積回路、日本の戦国時代に”忍者だけで出来た藩”が闇の領域に突然出現したというような、そうした国家を「捏造」して、その目的を「世界平和」に特化するわけである!
もちろん「戦争」もひとつのビジネスであって、「死の商人」も実在する。世界中には様々な思惑を秘めた様々な組織や勢力が暗躍拮抗していて、しかしそうした「カネカネカネ」が行動原理のすべてという裏勢力に地球や人類が牛耳られているという現状に革命を起こさなければ我々に未来はない。
そのためにこの「超情報国家」が、必要なのだ。”アノニマス”というのもあるが、発想は同じでもあまりに脆弱で、影響力も限定的でしかない。
もっと徹底的に「平和」のための革命を起こそうという積極的な意志と実行力が必要なのだ!
そのための切り札がこの”超情報国家構想”なのである…
<続く>
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