第29話

細川先生のご自宅にて、大変ゆっくりさせて頂いた。初対面なのに、こんなに気さくに優しくして下さるなんて、本当に素晴らしい。お子様達は既に眠ってしまった。


「へえ!東京に来たのは宝之華ちゃんの仕事のためなんだねー」


「はい。実は私もこちらで活動してみたいと以前から考えておりましたので」


「ふーん。書道家ってお金とかどうなの?」


「まだ駆け出しなものですから、書道以外の仕事もしようと思っております。母の知人がこちらにおりますので、紹介して頂く予定です」


「へー。以外の仕事って具体的になにー?」


「華道、茶道、武道、でしょうか」


「うわお。そんなに?」


「お前、すげーんだな」


細川先生も驚いたようだ。


「いえ、全く。細川先生にはおよびません」


「お前堅いし。いつもそんな話し方なのか?」


「そうです」


「零さんは、いつもこんなんですよ。まぁ、私と話すときはそうでもないけどー?」


「お前はもっとしっかり話せよ」


「なんで私だけ厳しいんですか?ひどくないですか?」


「お前頭悪そうだから」


「ひど!零さんなにか言ってやって下さいよ!」


そう言われても。明らかに細川先生は頭いいし。


「ええと、宝之華は、中学を留年しました」


「えー!何でその話!?」


「うわ、ないわそれ」

「そこまでなの?」


細川夫妻に宝之華はドン引きされた。あ、これは言ってはいけなかったのか。


「ち、違う!いや、違わないけど!家の事情があって!決してバカだからじゃないです!」


「全然説明できてねーし」


「う、零さんのせいだ!」


「すみません」


思いついたことを言ってしまった。細川先生方はとても話しやすくて。


「てゆーか、宝之華ちゃん若いよね?いくつ?」


「16ですよ?」


「お前、学校はどうした」


細川先生が微妙な表情に。


「仕事してるんですけど?」


「は?お前高校は行けよ。ったく。で?零くんは?いくつ?」


細川先生は零くんと呼んで下さるそうだ。


「19歳です」


「お前も若いんだな」


「じゃあさーでき婚とか?」


「いいえ。違います」


「なーんだ。つまんないのー」


「私〜子供欲しいですけど、まずは仕事しないと金ないんで!」


「そっか、偉いぞー。モデルは儲かるの?」


「てか、お前みたいなのでもモデルできんだな」


「は?それ失礼じゃないですか?お前みたいなのとか!」


「こらこら喧嘩しないでよ~」


「てゆーか、細川先生は杏さんのどこが好きなんですか?顔ですか?」


話が飛躍している。しかも失礼な方向に。


「は?そんなの、全部だし!言わせんな!」


あれ?細川先生が照れていらっしゃる。意外だ。


「つか、お前は顔だけなんだろ?それとも財産か?」


「はぁ?それひどくないですか?でも顔はまず誰でも見ますよねー?だけとか誰も言ってないし!」


ええと、どうすれば。


「あ、あの、私は性格です」


「は!お前、性格だけらしいよ?顔は違うってか」


「零さん!ひどい!」


「え?」


「もーー!わかってないし!」


宝之華にぺしっと肩を叩かれた。

どうしてこんなことになったのだろうか?


気が付いたときには、だいぶ長居してしまっていた。しかしながら、細川先生方と親睦を深められてよかった。


「またいつでもおいでよー」


「ありがとうございます」


優しい杏さんに見送られて、自宅へ帰った。帰った部屋はダンボールの山であった。これをどう片づけるべきか。


「さー零さん、片づけますよ」


「はい」


宝之華の指示の元、片づけを始めた。僕の担当するのは、自分の仕事道具、そして重い荷物。家電の配置を変えることも。

これを全て終わらせないと、ここで仕事ができない。なんとか終わらせなくては。


しかしながら、今日だけでは到底終わりそうになかった。

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