第15話 宴の準備

 聖教国からの使節団の訪問日が近づいてきたある日、ミツキは再び王城を訪れていた。


「やあ、ミツキ。また急に呼び出して申し訳ないね。早めに伝えておきたいことがあってね。」


「あら、ラウール、大丈夫よ。もうすぐ教皇様が来るんでしょ?責任者として準備も大変なんだよね。仕方ないよ。」


 聖教国の訪問予定日がいよいよ間近に迫ってきており、王国側も急ピッチで受け入れの準備を進めていた。王太子はその受け入れ責任者を任されている。


「聖教国側の使節団の概要がわかったよ。使節団の団長はポッタ枢機卿だそうだ。」


「あれ?教皇様じゃないの?来られなくなったのかなぁ。」


「いや、使節団に教皇が入ってるのは間違いないよ。たださすがに聖下を使節団の責任者にはできないからね。それでも同行者の格から見て責任者は枢機卿を据えざるを得なかったんだろう。」


 王太子は自分も似たような業務を任されることもあり、運営側の苦労がわかるといった顔で説明していた。


 今日もこの場には王太子以外にミツキを待っていた人物がいた。


「まったく、ミツキは相変わらずですわね。マナー教育は真面目に受けているのかしら。まるで成果が見えませんわ。」


「あぁ、私があれだけ苦労してるのに…何てこと…」


「あ!アンネマリー様、シャーリーもこんにちは!」


 騒動の影響をものともせず、変わらず王太子婚約者継続中であるアンネマリーと、今やミツキのマナー教育の責任者となりつつあるシャーリーもその場には控えていた。

 少しは改善した反応を期待していたのに、相変わらずのミツキの態度に実質責任者シャーリーは敗北感を覚えていた。


 王太子は苦笑しながら、話を続ける。


「まあ枢機卿が責任者になるのは予想通りだったんだけど、その人選が想定外なんだよね。」


「どういうこと?」


 ミツキがキョトンとした顔で聞き返す。一応、今は正式な会談の筈だが、鉄板の友人対応だ。シャーリーは更にがっくりと一層頭を落としたが、聖女に気づく気配はない。


「うん、これまで王国との親善担当だった大司教の上位の枢機卿が任命されるのならわかるんだよ。だけど、ポッタ枢機卿は全く違う派閥のトップなんだ。ほら王都支部教会はコンスタン司教が責任者でしょ。彼は教会内では中立派だから、その派閥の上位者が来るのが自然なんだけどね。」


「ラウール様。教皇聖下の訪問決定も急でしたから、担当である枢機卿猊下の調整がつかなかったからではないのですか?」


 アンネマリーも組織の運営については王太子妃教育の一環で理解している。大きな組織ほど柔軟な対応が難しいことを知っており、穏当な理由を提示してみた。


「それにしても、だよ。教皇聖下が随行する使節団のトップにわざわざ反教皇派を持ってくるものだろうか?」


「え?反教皇派なのですか?」


 シャーリーがビックリした顔で聞き返した。

 アンネマリーはそれほど驚いていない、聖教国の派閥関係はある程度理解しているようだった。

 ラウールは軽く頷いて、シャーリーの疑問を肯定していた。


「う〜ん、そのポッタさん?が王国うちに来たかったんじゃないのかな?たまには息抜きで外国旅行に出たかったんだよ。自分の上司だけ楽しい思いするのが羨ましかったのね。ラウールも部下の不満は貯めさせないようにしないとね!」


「ミツキ、何を言ってるのよ、まったく。そんな子供みたいな理由なわけないでしょ。」


 ここ最近の教育ですっかり遠慮が無くなってきたシャーリーが脱力したような雰囲気でミツキに突っ込んだ。


「えー、私の勘ではそうなんだけどなぁ。」


「あぁ、私も部下に無理を強いてないか、抱え込んでないかは気をつける事にするよ。」


 ラウールはチラと後方に控えている側近と護衛に目をやり、笑いながら返した。


「そうだね、もう少し聖教国側の動向は調べてみるよ。いずれにしても当初の予想より厄介な状況となりそうなんだ。最大の敬意と共に警戒を持って望まないといけないことは確かだ。ミツキもその心構えでよろしくね。」


「わかったわ!どーんと任せて。」


 ミツキの一見軽い返しに、ニコニコ、呆れ、諦めと三者三様で発言を聞いていた三人だったが、ミツキの指摘が一部の真実を突いていたのがわかるのはもっと後のことになるのだった。

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