第13話 聖女の教育、的指導
翌日、午前のお勤めを終えたミツキの元に豪奢な馬車が迎えに来ていた。本日より公爵家でマナーの教育を行うために迎えに来たのだった。
「おはようございます。司教様、アンネマリー様の命により公爵家より聖女様をお迎えに上がりました。」
馬車から執事の服装の若者が降りてきた。やや濃いグレーの髪で鋭い目つきであったが、表情を和らげて見せて教会の関係者に挨拶をしていた。
出迎えにはコンスタン司教自ら出て、挨拶を受けていた。
「これはこれはご丁寧に。聖女様は支度中で間もなくいらっしゃると思います。本日から公爵家にて直々にマナー教育を見て頂くとか、私共も大変有り難く。何しろ天真爛漫な方ですので、儀礼的なルールがいささか苦手でしてな。」
いささか、苦手、のレベルでは無いはずだが、司教の苦労も偲ばれる物言いだった。周りに控える教会関係者もホッとした表情だ。
「おまたせしました!あれ?執事さん?初めまして、ですか?」
「はい、お初にお目にかかります。私、アクロディア公爵家にて執事を務めさせて頂いております、セルヴァンと申します。本日は公爵家までのご案内をさせていただきます。よろしくお願い致します。」
「よろしくお願いします!」
セルヴァンはそのままミツキを馬車に誘導し、乗車をエスコートする。
「どうぞ、聖女様。足下お気を付けください。」
「あ、ありがとう。えっ?」
馬車に乗り込もうとするミツキを一旦、制止するようにセルヴァンが止めていた。
「聖女様。私の手を掴むのではなく、上から乗せるように置いて支えて下さい。また、乗り込む勢いももう少しお静かに。」
ミツキはキョトンとした顔でセルヴァンを見つめ返す。
「本日は公爵家にて淑女としてのマナーを学ばれると聞いております。アンネマリー様からもお迎えから勉強が始まっている、とのお仰です。」
「そうなんですね!わかりました、家を出てから帰るまでが勉強なんですね、頑張ります!」
セルヴァンは表情を変えなかったが、かなり不審な色を目に浮かべて、しかし聖女の言葉をスルーして乗車のやり直しを支援した。やり直してもミツキの動作は優雅さには程遠い所作だったが、仕方ない。
そして乗り込んだ馬車には先客が居た。
「聖女様、本日は公爵家まで私も同行させていただきますわ。よろしくお願い致します。」
「あ、えーっと、アンネマリー様の……取り巻きC?」
「ーーっ!コルソー伯爵家のシャーリーですわ。シャーリーと呼んでいただけますでしょうか。」
「はい!シャーリーさん、よろしくお願いします。でも、どうして迎えに来てくれたんですか?私、一人でも行けますよ。執事さんも居るし。」
「その執事と二人きりで馬車に乗るのを防ぐためでもありますわ。初対面の殿方と二人では淑女として懸念を感じられるかと思いまして。」
「?」
まるで理解しないミツキにシャーリーは頭を抱えるが、それ以上はこの件は追求しないことにした。賢明だ。
「聖女様、コルソー伯爵令嬢様、道中で本日の予定などお話させて頂きます。」
セルヴァンが何事もなく予定を進めていく。
「あ、執事さん、私は聖女じゃなくミツキと呼んでください!私もセルヴァンさんって呼んで良いですか?」
「はい、問題ありません、聖女様。」
セルヴァンは淡々と自分の呼称にのみ同意する。表情は冷めたままだ。
「えー!?」
「聖女様、そういうところですわよ。いつまでも平民としての振る舞いしか出来なければ、王国の聖女様として諸外国にもご挨拶できませんわ。今日はきちんと学んでいただきます。」
シャーリーは自分も転生者であるものの、こちらでの経験が長く貴族令嬢として弁えてはいる。おそらく同郷であろうミツキに、自分こそが理解者として指導しなければと使命感に燃えていた。
取り巻きA、Bは問題を起こす未来しか見えず、任せられない。
「そもそも教会では礼儀の教育は無かったんですの?それに従者としてのお供も付かないとは。」
「うーん、最初は司祭様やシスターに教わってましたよ。いつの間にかみんなにっこり笑って終了するんですよねー?あ、あと護衛のおじいちゃんがいたんだけど私が暴漢を返り討ちにしたときに巻き込まれて怪我しちゃって…。今はエルザさんが居ます!外に付いてくれてますよ。」
これまでの教会の苦労も想像でき、シャーリーは心中、更に頭を抱えた。またエルザ様程の方でないと護衛もできないのか、とは先日のパーティーや庭園での身のこなしを思い出せば納得するしかない。
「あ、そういえば本部から護衛の人が追加で来そうだって司教様が言ってました。楽しみです!」
一瞬、セルヴァンの目が光った気がするが、シャーリーには関係ない。スルーだ。
「それは心強いですわね。」
守秘義務とか勢力抗争的にどうなのか、とか色々とミツキに対して言いたいこともあったが、開始5分で既にお腹いっぱいのシャーリーにはこれもスルー案件だ。
「まだ、開始したばかりですわ、慌てる時間じゃありません、わよね?」
シャーリーは先程持った使命感が既にぐらついていたが、自分に言い聞かせるよう小声で呟いた。
「諦めたら試合しゅーりょーですもんね、頑張ります!」
自分の呟きが聞こえたとは思えないが、ミツキのこの返しにセルヴァンは怪訝そうな、シャーリーは驚愕の顔でミツキを見た。
本人は握りこぶしを作ってふんすっと言って気合をいれている。
(やっぱり転生者?偶然!?いや、でも自覚がない?、まさか。)
三人三様の思惑を抱えて、馬車は順調に公爵邸へと進んでいた。
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