第8話 巻き込まれる者たち 楽しむ取り巻き令嬢
それは私が12歳となった年、デビュタントで王宮を訪れたときの事だった。
「さあ、シャーリー。将来あなたの御学友になるアクロディア公爵令嬢に挨拶するのよ。」
両親に連れられて来た先には、天使が降臨したかと思える綺麗な令嬢がいた。
輝く銀糸のような髪に、薄いアイスブルーの瞳。背は高めで、全体的に華奢な印象だがその瞳の力が強い意志を感じさせた。流石、公爵令嬢だ。
と思いつつ、挨拶のために近寄って目を合わせた瞬間だった。
突然、色々な記憶が奔流の様に頭に流れてきて、唐突に自分が過去に日本に生きた転生者だと認識した。
私、過去の記憶がある!
そして目の前の令嬢に見覚えも!?いや、日本にこの容貌の少女はいない、じゃあどこで?
「シャーリー、どうしたの?ご挨拶なさい。」
お母様からの言葉で、はっと現実に引き戻された私は慌てて挨拶を始めた。
「アクロディア公爵令嬢にご挨拶させていただきます。コルソー伯爵家の次女、シャーリーと申します。」
「わたくしはアクロディア公爵家の長子、アンネマリーですわ。アンネマリーと呼んでください。」
ああ、名前呼びを許された。私が悪役令嬢の取り巻きに決定した瞬間だった。
あれから数年、無事に学園に入学すると私に友人、と言うか仲間ができた。
取り巻きその1、アニス・アルドワン伯爵令嬢。アクロディア公爵が領袖を務める貴族派閥の中でも歴史ある家柄の伯爵家だ。大きな力を有してるわけではないが、旧き良き貴族の有り様を信じ実践しており、貴族派閥の中核の一家でもある。
取り巻きその2、ベル・ベランジェ子爵令嬢。新興貴族ではあるが、貴族派閥の思想に共鳴して同じ派閥にいる家。また領内の商会が大きく発展して力を付けて来た、子爵とはいえ貴族派の金庫番とも言える有力貴族だ。
一方、我がコルソー家。一応、歴史は古く長く続いてはいるが、数年前に連続で不作が続いた影響から税収が落ち込み、家の借金も増え勢いは落ちている。
元々堅実な家だったからまだ保っているが、とても贅沢する余裕など持てない現状。伯爵令嬢である私が取り巻きその3と言われている理由だ。
学園に入学して周りの顔面偏差値の高さに驚いた。
我が家も悪くないと思ってた。お父様、お母様、お兄様、お姉様も皆、日本基準ではイケメン上位だ。
でも桁が違う。同学年にはアンネマリー様の婚約者で王太子殿下でもあるラウール殿下もいらっしゃる。当然、側近候補の皆様も。みんなタイプは違えど壮絶な美形揃い。
そして気付いた。うん、これ前世の乙女ゲームの世界だよね。
細かいストーリー全ては覚えてないけど、王太子と側近、そして臨時講師は攻略対象のはず。暗殺者もいたかな?
そして大事なのがアンネマリー様が悪役令嬢ってこと。その取り巻きのモブ(名前あったっけ?)が私。しかも、序列三番手。
私、大丈夫!?ざまぁで追放されない?取り巻きその3の行く末なんて覚えてない!
そして有効な対策も打てないまま今、卒業パーティーの中心に私居ます。うう、周りの視線が痛い。
最初は私もアンネマリー様の行動を止めようと思ったのよ。でもヒロイン?の
平民から急に立場が変わったことは理解できるけど、改善しようとする意志が見えない。他の平民生徒の子はもう少し出来てるわよ!?乙女ゲームの行動を貴族側から見るとこうなるんだっけ?
それにアンネマリー様に惹かれている私がいることも確か。貴族として誇りを持って厳しく行動を律して、貴族の筆頭として、また将来の王太子妃として、学園の秩序と誇りを守ろうとされる姿は本当に素晴らしい。
私も転生者とはいえ、貴族家で育った価値観がある。アンネマリー様に共感することも多いのよ。
ま、まあその手段がちょっと過激なのはどうかと思ったけど。プライドの高いアンネマリー様やその周りは無礼な平民には容赦ない!私如きの影響力ではその勢いは僅かしか減らせないのよ!
一方で、
簡単な嫌がらせは軽く回避するし、容赦ない仕打ちにも対応、何ならやり返すことも。私もついついムキになった事もあるかもないかも。タノシンデナイヨ。
この間の王宮庭園での反撃は本当にヤバかった。最強と名高い氷華の騎士エルザ様が全く相手にならないとは。ベルは巻き込まれて転倒しただけだったからまだしも、あれが直撃なら私達ごとき再起不能なのでは?コワい、コワすぎる。
そんな回想をしてる間も、王太子殿下の追求は進んでいる。アンネマリー様はこの雰囲気にものともせず、王太子殿下に反論している。
「申し訳ありませんが、殿下の仰る事にまったく心当たりがありません。私の行動を顧みても…何を指して言われているのか理解できませんわ。」
メンタル強っ。まあアンネマリー様は聖女様の無礼な行動が改められない限り、干渉もやめないでしょうね。手段には問題あるけど。
ああっ!聖女様がまたあんな庶民言葉で反論している。しかも謝れと。
私には懐かしい言い方だけど、
王太子殿下も盛り上がってきちゃったし、どこかで落とし所作らないと、と焦り始めたところで、それが聞こえた。
そう堪忍袋の緒が切れる音が。
そして怒涛の聖女シャウト。
『な・に・が正当な行為なのか、って言ってるのよ!!この縦巻きロール!!』
うん?これは聖女様も転生者疑惑あるかな。確かに色々チートっぽいもんね。私無いけど。(哀)
ん?ん?何か不穏な言葉が。
え?猛毒カリシアン?え?強酸性なの?汚水が?え?
あ、あなたね、ベル!それらを用意したのあなただし、唆したのね。アンネマリー様、良くも悪くも単純だから。
ん?いや、アニス、なぜ薄っすら微笑んでるの?まさか黒幕はこっち?
その後、隣国の皇太子(そういえばこの人も攻略対象だったような)も参戦して、カオスな状態に。
その隙にアンネマリー様はちゃっかり退場なされたので、私達も便乗して出ていくことに。
これ以上は無理だ。帰って寝よう。何も考えたくない。
結局、アンネマリー様の婚約破棄は有耶無耶に。
聖女様への酷い仕打ちはほぼ事実だった(!)らしいけど、実害はブローチの破損のみ。聖女様本人に被害なし、故にお咎めも難しい、と。結果論だよね、ことなかれ主義バンザイ。
数日後、取り巻きの三人で情報交換のお茶会を実施。反省会とも言う?
のっけからベルが全開で捲し立てている。
「アニスさん!カリシアンが即死毒だったなんて聞いてませんわ!
「あら〜ベル。勉強不足よ。カリシアンは確かに
確かに睡眠毒より即死毒の方が強力でしょうけど!そういうことじゃないから。
それにその酸性の薬品の配合、金をも溶かす最強の組み合わせなのでは?
私は恐る恐る聞いてみる。
「ア、アニス。あなた全部わかって言ってたの?」
「何のことかしら〜?私はアンネマリー様の最善になるように。その準備ができるよう、ベルが困っていたら助言するだけよ。ねぇ。」
顔を引きつらせる私とベル。
「アンネマリー様は至高、唯一無二、本当に素晴らしい、この国の令嬢の頂点になる方ですわ。あの方でなく誰が次期王妃になれると言うのでしょう〜。ね?」
アニスは夢見るように続ける。
「聖女様はご加護は素晴らしくとも、国政に関わる事には不向きですわ~。もちろん王太子妃としても。」
そう呟いた後、こちらを見るとニッコリと満面の笑みを向けてきた。
「そう思いませんこと?お二人とも。」
ベルは顔を赤くしたり青くしたり忙しく、反論は出てこないようだった。
私は、怖いわ!そのまま肯定できるか!と思いながら、反論を探す。
「アニス、アンネマリー様にご迷惑をかけてはいけないわ。現に今、微妙な立場になっているじゃない。」
「そうなんですよね~。エルザ様も期待外れでしたし、まさかカリシアンも丸ごと浄化出来るなんて、本当あの方出鱈目ですわね。せっかくアンネマリー様を説得して使えるようにしたのに嫌になっちゃう、どうしましょう。」
反省の方向性が違う!と叫びたいがどうせ通じないのだろう。
ベルを見るともう、諦めたような表情でアニスを見ている。
「とにかく直接死傷者を出すのはダメよ。アンネマリー様のためとは言え、きちんと
「わかったわ〜、
ん?何か違う響きに聞こえたが、しかもミラージュがなんだつて?
ベルを見ると完全に諦めた顔になっている。頑張って!
実家の領地経営も、私も多少は転生知識で手伝ったこともあって、ようやく盛り返して来た。それに伴いお父様の政治的な立場も強くなってきたと聞いている。
私もアンネマリー様のためにもう少しお役に立てるよう頑張りたい。
アニスの
せっかく転生したんだから楽しまないと!
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