真の悪役令嬢と天然ヒロインがガチで対決した結果

水巻

卒業パーティー編

第1話 卒業パーティーでの騒動

「アクロディア公爵令嬢!聖女に対するこれまでの無礼で非道な行動の数々、何度も諌め、改善申し入れてきたが、何の変化も見られない。将来を共にする婚約者とはとても考えられない!貴方との婚約は破棄させていただく!」


 本日は王立ウェストフラン学園高等部の卒業パーティーであり、本来であれば華やかなドレスや正装に身を包んだ初々しい紳士淑女が社会に旅立つ喜びを祝う場となる筈だった。

 しかし開始早々に響きわたる、祝い事とはかけ離れた厳しい声に、皆一斉に発生源へと注目する事となった。


 ホール中央、フロアより一段上がった本来ならば楽団などが上がるであろうステージの中央に、一際煌びやかな格好の男性が立ち、またそこに寄り添うよう小柄な女性が一人立っていた。

 その周りを中央の男性には一歩届かないまでも同様に見目麗しい男性三名が取り囲んでいた。


「ラウール様、これはどういった仕儀でありましょうか?わたくしこのような申し出を賜る謂れもなく、困惑でしかありませんわ。」


  一方、その四名に対峙する形のフロア側には、真っ直ぐ前を向き凛とした佇まいで、しかし厳しい目線をステージに向けて立つ令嬢が、こちらも取り巻き数名を連れて立っていた。


 ステージ中央の人物は、ここウェストフラン王国の第一王子である、ラウール・フランク王太子。対するフロア中央の令嬢は五年も前から婚約者として公表されていたアンネマリー・アクロディア公爵令嬢だ。


「聖女に対する、嫌がらせや迷惑行為、さらに直接的な身体への被害に及ぶ行動の数々!忘れたとは言わせぬぞ。ミツキが制止するので最終的な判断までは下してなかったが、遂に危害を加えるような事態に発展しているとなればもはや猶予はない!」


「申し訳ありませんが、殿下の仰る事にまったく心当たりがありません。私の行動を顧みても…何を指して言われているのか理解できませんわ。」


 婚約者同士の会話とは思えない殺伐とした雰囲気で、ほとんど意思疎通が出来ない状況のまま会話は進んでいた。

 その空気を読まず、王太子の横から新たな参戦者令嬢が加わる。


「アンネマリー様。大事な本を破かれたり、備品を壊されたりも酷かったですが、お茶会ではまさかの、真正面から紅茶をかけられて、それも顔に向かって…私の目の前で堂々とやられてましたよね。貴女の周りに立っている方々も使って。きちんと目撃者もいます。素直に認めてください。謝罪いただけるなら重罪に問おうとまでは思ってません。」


「あらあら、平民の方はマナーも言葉遣いも学んではいないようですわね。許可もなく上位者に話しかけてはならないと学んでいないのかしら。私、貴方に名前呼びも許しておりませんわよ。」


 ミツキは平民ながら聖魔法に目覚め、その後聖教会の保護の下、その素質を磨いて伸ばし、ついには先日教会からも聖女認定を受けた現在の聖女だ。その過程で王家が身分保証する形で学園に推薦入学しており、同学年に在籍していた王太子がそのサポートをする事となり大きなトラブルなく卒業を迎える事が出来ていた。

 更にこれまでの慣例としても聖女は王家に準ずる立場として公爵令嬢と比べて格下とは成らないのだが、それでも公爵令嬢アンネマリーとしてはまだまだマナー違反等も多く、貴族から見ると未熟な聖女平民上がりに対して、これまで自分が生きて来た貴族社会の最上位者として、また己の持つ矜持としても易々とは同格だと認め難いと思っている。

 そんな聖女ミツキが、たまらず反論しても、まったくアンネマリーには響くこともなく扇で口元を隠しながら、やや目を細めてやり返していた。


 今まで成り行きを見守って、ぼんやりとしか状況を理解していなかった、当事者でない周りの学生ギャラリーたちはこの事態に困惑していた。


 確かにミツキの周りでは嫌がらせと思われる出来事は起こっており、またアクロディア公爵令嬢の取り巻きが何かに付けて聖女に絡んでいたことも事実だ。

 ただそれが貴族としてのマナー指導なのか、嫌がらせなのか、単なる交流なのかは判断が難しく、仮にイジメがあったとしても公爵令嬢が指示していたかは更に不明である。


 果たしてこれは悪役令嬢に対する正しい断罪劇ざまぁなのか、はたまた調子に乗ったヒロインへの悪役令嬢からの逆転劇ざまぁなのか、周囲は困惑ワクワクしながら推移を見守っていた。


「いいかげんにするのだ!アンネマリー!これは元婚約者としての最後の諫言だ。正直に行為を認めミツキに謝罪するなら良し、厳しい処置とはしないが、あくまでも認めぬと言うのなら王家として正式に調査、明らかにした上で厳正な処置を取ることになるぞ!」


 王太子の本気の言葉で公爵令嬢の周りの取り巻き達は俄にざわめき出した。今までは公爵令嬢に言われるがまま、正しいと思って実行していたが、正式な調査となれば自分達の行いが悪と認められてしまうのか?そういえばやり過ぎていた気が、しないでもない。


 ギャラリーも王太子の言葉に影響を受け、やはり公爵令嬢は悪役で、聖女に対して不当な扱いをしていたのか、と聖女寄りの意見が大勢を占め始めていた。


 しかし悪役令嬢は強気だった。


「ラウール様、わたくしに謝罪すべきことは何一つありませんわ。確かにそこなる平民の特待生の方に、マナーや教育の行き届かなさ、身の程をわきまえない行為に対して、正当な指導や教育をしたことは認めますが、私の立場からすると何も逸脱した振る舞いはしてないと理解しております。どうぞ存分に調査してくださいませ。」


 これはいよいよどちらが正当なのか、判断がつかない。周囲の卒業生ギャラリーたちもこのままでは水掛け論で、結論は王家の影の調査待ちか!?と思い始めたとき、突然風向きが変わった。


『ブチッ』


 何かの袋を縛っていた紐が切れるような音が皆に聞こえた気がした。


「な・に・が 正当な行為よ。」


 その声は地を這うような響きで、最初誰が話しているのか皆わからなかった。

 王太子の側近もキョロキョロと周りを見渡し、やがてそれが王太子の真横から発せられていることに気づいた。

 信じられないといった顔で、王太子側近の宰相子息でもあるクロード侯爵子息が声をかけた。


「い、今なにか言ったかい?ミツキ。」


 ミツキはクロードを一瞥することもなく、アンネマリーを見据えていた。


「あら、急に慎み深い態度を取り繕っても無駄ですわよ。言いたいことがお有りなのかしら?」


「な・に・が正当な行為なのか、って言ってるのよ!!この縦巻きロール!!」


 急な大声と想像を超えた悪態の抗議に対して王太子とその側近はもとより、教会から出席していたミツキの保護者を自認しているコンスタン司教も慌ててミツキに駆け寄ろうとしていた。


「な、なんですの?急に大声を出して。やはり平民ごときは躾が行き届いてませんのね。」


「は?躾?そもそも指導と称した犯罪集団が何言ってるのよ!お貴族犯罪集団の頭目には言われたくないわ!そんなヤツらにまともな躾が語れるわけないでしょ!!縦巻き合金ロール!」


「ミツキ、待て!証拠もないのに犯罪と決めつけては…合金ロール?」


 急にヒートアップしたミツキに対して拙いと感じた、ラウール王太子が静止しようとした。が、公爵令嬢からもまさかの返しが。


「だ、誰が犯罪者集団頭目なんですの!?貴女こそ真正面から避けようもない角度と速度で浴びせた紅茶を紙一重で避けるなんて、聖女でなく獣人の間違いではなくて!?獣人聖女もどき!」


「「公爵令嬢が自白した!?」」


 ギャラリーもビックリの展開だった。


「避けられなかったわよ!お気に入りだった、せっかくラウールからもらったドレスに染みはできるし、綺麗に作ってもらったコサージュも一瞬でボロボロになったわ!何よあれ!?普通じゃない毒物仕込んでたでしょ。気化するとまずそうな気がしたんで、念入りに解毒したけど大量殺人事件でも起こすつもり!?」


「くっ、やはり解毒魔法まで展開していたのね。確実を期してカリシアンの毒を使ったのに全く効果が無いのはおかしいと思ってましたわ。」


 学生時代のお遊びだろうと断罪劇の当初は静観していた宰相周辺が急に慌て出した。

 警護担当責任者のブリューネ伯爵が宰相であるセヴラン侯爵に慌てて話しかける。ちなみにクロードの父親である。


「宰相!やはりあれはカリシアンの毒だったんですよ!いまだにヤツは昏睡状態で眠っておりますが、直ちに解毒して背後関係を質さないと!あの時なぜか聖女の代わりに紅茶を浴びてましたが、武装を隠して侵入し、聖女に近づいている時点で容疑は真っ黒ですから早急に処置を。」


 騒ぎ出した大人の事情は感知せず、令嬢たちの舌戦は続く。


「カリシアン?良く知らないけど酷い毒なのは確かなんでしょ!?なんて事してくれんのよ!おかげで近くに居たオジサンに少しかかっただけで倒れてたのよ!

 あれ?そう言えばあのオジサン大丈夫だったのかしら?なんで私の背後に居たんだろう?ちょっと近すぎてビックリしたんだけど。」


 話が脱線していることに気が付かずキョトンとした表情をしていたミツキに王太子が指摘する。


「ミ、ミツキ。カリシアンは猛毒中の猛毒で純度が高ければその蒸気を浴びただけで重篤な状態になって死に至るような薬だよ。紅茶で薄まっていたとは言え、大丈夫なのかい!?」


「私とラウール達の周りまではしっかりと解毒しといたから大丈夫よ。」


 無邪気にニッコリ笑って答えているが、王太子周辺はそれで安心できる心境ではなく真っ青になっていた。自分達はあわや死ぬところだったんだろうか?


「それより縦巻き合金ロール!良くわかんなかったけど、やっぱり殺しに来てるんじゃないの!どう言い訳するのよ!」


「あらあら衛生環境も育ちも悪い生活してきて、それに優秀な聖女様ならその程度の毒、単なる紅茶のスパイスと変わらないんじゃなくて。結果としてピンピンしているじゃないの、全く忌々しい。やっぱり不衛生獣人聖女だと毒程度、お砂糖と同じでしたのね。」


 衛生環境の慣れ程度で防げるものではないが。


 宰相の周辺では毒物の入手経路の調査、そもそも厳重に保管されていたので入手自体が困難なはずだったのだが、責任者への追及、また巻き込まれ倒れたというおじさん不審者への対処などで関係者が慌ただしく動き出していた。


 それに構わず、断罪劇はまだまだ続く。


「それに先日の庭園での襲撃事件はどう言い訳するつもりよ!」


 聖女から新たな事件の告発が為されていた。


「そ、そうだ、アンネマリー!先日は王宮の庭園にてミツキを花壇に向かって突き倒したそうじゃないか、その上、汚水まで掛けるといったイジメ行為があったと聞いているぞ。こちらも目撃者含め証拠は揃っている! あーそれと、ミツキ、襲撃事件とは大袈裟ではないか?」


 ラウールが名誉挽回(?)とばかりに告発内容を引き取る。ミツキに対しては話が大きくなりすぎないように訂正を入れつつ。ミツキは聞いてないが。


「合金ロール!自分の護衛騎士を取り巻きのフリまでさせて剣の鞘を使って突き倒そうとしたわよね。まともに当たったら骨折だけでは済まなかったわ。それにあの掛けて来た汚水?普通の水じゃ無いでしょ!花壇の土が泡立って、しかも花も少し溶けてたわよ!何入れてたのよ!」


「あなたこそ!上級騎士の本気の突きを躱すだけでなく、カウンター入れてましたわね!彼女、あれで負傷してしばらく現場に出られなくなったのよ、どう責任とってくれますの?しかも強酸性の汚水を用意してまで実行したのに、結局花壇と花の掃除にしかならなかったわ、全く!」

 

「花壇とお花は変色してたから私が浄化の魔法かけといたんで大丈夫よ!じゃなくて!何で後始末を私にさせてんのよ!あ、そう言えば浄化後の花が元とは少し変わってたけど、まあ綺麗な蒼だったから結果オーライね。」


 大袈裟でなく襲撃事件レベルの話だった。しかも高いレベルでの。

 今度は王妃周辺が騒ぎ出していた。


「あ、あの王妃様。筆頭護衛騎士であるエルザ様の負傷ってもしや?相当の手練れの仕業だと噂になっていましたが、原因を本人は頑なに話さず...お役目の辞退も口にされてたようですが?護衛の再編の話になり大変なことになっていると聞いておりますが。」


「そ、それよりも、王妃様。先ほど言っていたお花とは、先日王宮の庭園で偶然発見されたという新種のバラ、孤高の蒼プラウドブルーの事では?どの庭師に聞いても心当たりがなく繁殖の条件がわからない、と。色々な条件で試行錯誤していましたが再現できていない、あの奇跡のバラの。強酸の汚水?と浄化?それが条件?まさか」


「来月の各国を招いた式典でのお披露目に間に合うかもしれない!こうしては居られない。」


 王妃付きの文官、侍女、専門家を巻き込んで慌ただしい確認と動きが始まっていた。

 王妃付きの護衛トップが城内でいきなり負傷した状態で現れ、突然のお役目辞退騒動を起こしても頑なに理由を話そうとしなかった件、王家が管理している庭園にて突然変異的にこれまで誰もなし得なかったバラの品種改良が発見された件、今年に入っての王妃関連大騒動上位の2件が突然解決しそうな話が聞こえて来たのだ。

 詳細の確認と解決への行動を起こすのは最優先事項であった。

 

 一方で悪役vsヒロイン劇場は続いていた。


「それと!本を破いたのも許せないのよ!あれ私の私物じゃなくてオリヴァー館長から借りた大切な本だったのよ。古い貴重な文献だったのを私だからって信用して貸していただいたのに。綴じ紐切ってバラバラにするわ、ページは破損させるわ、ってなんて事してくれたのよ!破損したことを報告して謝罪したんだからね!本来なら合金ロールも一緒に土下座して謝るところよ!今からでも行ってきなさいよ!」


「平民如きが分不相応に貴重な文献を預かったりするから取り扱いを間違いますのよ。私達は扱いに気をつけるよう、ご指導しただけですわ。バラバラになったのも、結果的に破いたのも野蛮で乱暴な獣人もどきが触ったからではなくて。」


「無理やり取り上げたりしようとしたり、古い分、丁寧に扱うよう言ったのに乱暴に持ったのはアンタ達、合金ロールと三馬鹿令嬢でしょうが!修復や綴じ直しをラウール様達にも手伝ってもらってんだからね!

 ま、まあ素人がやり直したので順番が目茶苦茶になったかもしれないけど……問題ないよね。」


「なっ、なんて事を殿下に手伝わせてますの!?さすが獣人、あなたには常識がありませんのね。」


「合金ロールに常識でどうこう言われたくないわよ!」


 このやり取りを聞いて、文官の一団が騒ぎ出していた。王立図書館館長兼王立研究所所長のオリヴァーとそれぞれの副長、その補佐官の一団だ。


「オ、オリヴァー様。先日の前時代超文明遺跡オーバーテクノロジー文献の調査が一気に進んだ件、聖女様にお貸しして返して頂いたら急に新発見が相次いだと研究部門から話がありましたが、あれはもしや?」


「う、うむ。聖女が触れたから奇跡が起こったか、と言った眉唾な検証結果しか言われておらなんだったがの。り、理由があったのやもしれん。」


「同時代の文献で同様な装丁の文献は多数存在しておりますが、いずれも解析が進んでおりません。これは、もう一度聖女様にお貸しすべき案件では?」


「いやいや貴公、貸しただけではダメなんだろう。公爵令嬢にも、その、乱暴に取り扱ってトラブルを起こして頂かなければ?」


「何を馬鹿な事を言っておる。単純な破壊で何かが起こるものか。要は各ページの関係性を今の綴じた状態を前提にせず調査し、また未だ発見されておらん隠された記述が表紙や途中の意味ありげな厚めの頁などに隠されていないかを調査する事じゃろう。先人が本来の意味を隠す意味で、今の装丁の体をとっておるのかもしれんな。そもそもの発想を変えて一から調査じゃ。」


早速、とばかりに何人かの文官が足早にホールを出ていった。


これでもまだ、騒ぎは打ち止めでは無い。聖女は新たな火種をぶち込んで行く。


「あ!それと母さんの形見のブローチを壊した事、絶対にぜーったいに許さないからね!これはどんなに謝られても無理よ!代わりにあんたの大事な物壊してやる!のは、そう、その可哀想だから、あなたの合金ロールが一生取れない呪いをかけてやるわ!」


 もちろん、そんな呪いは無い。

 ミツキは壊されても、いまだ大事に持っているブローチを胸に掲げて糾弾していた。


「平民の母が、獣人の娘に渡したブローチが壊れたぐらいで何を騒いでいますの?そもそも貴重でもない石と壊れたケースに飾り布、どれだけの価値があるというのですの、くだらない。」


「価値をお金でしか換算できない曇った目と歪んだ価値観しかない、合金令嬢にはわからないでしょうね!」


「ついに身体まで合金…でなく、何ですって、わたくしの何処が…」


 アンネマリーが反論しようとしていた言葉を遮って横合いから声がかかる。


「ちょっとそのブローチを良く見せてくれないか?」


 声をかけたのはお隣の帝国から留学で来ていたクリスティアン皇太子だった。


「そのケースから少しはみ出ている布に描かれている意匠を近くで見せて頂いてもよろしいか?聖女どの。」


「あ、ええ、良いわよ。クリス。今まで興味なかったのに突然どうしたの?」


 クリス皇太子は聖女の問いかけには曖昧に頷きながら、丁寧に仕舞われていたであろう布を少し引っ張りながら確認していた。


「やはりそうだ。これはハインミュラー家の家紋、しかも当主のみ使える意匠もある。聖女殿、これはお母上の形見だと言っていたよな?」


「そうよ。これだけは大切に持ってるようにって。このブローチがいつか私を護ってくれるって言われていたの。ブローチよりお母さんの方が大切なのにね。」


 やや涙ぐみながらミツキは言っていた。が、クリス皇太子の態度が一変し驚くこととなった。


「アクロディア公爵令嬢!これまでの言動で聖女ミツキ殿への仕打ちが真であると私は判断している。また今現在、聖女殿への敵意を持った言動も確認した。よってただ今を持って我がサウスゲルン帝国への宣戦布告と受け取った!」


 会場中の騒めきが一瞬にして静まった。


「な、な、な、何故ですの?帝国の皇太子殿下に対して何ら敵対的な行動は取っておりませんわ。理由をご説明下さいまし!」


「聖女殿が持っているブローチは我が国のハインミュラー公爵家に連なる物の証拠。しかも当主筋。これを保持していた者は年代からしても現皇帝の妹姫であるユリアーナ殿下しかあり得ない。殿下は20年前から行方不明であり、噂ではこのウェストフラン王国に来たのではとも言われていた。今回の私の留学に際して、その情報の欠片でも良いのでわかったら報告することを陛下より厳に要請されていたのだ。」


「そ、それが、なぜ、宣戦布告になるのですか?」


「状況からして聖女殿は現在の上皇帝様の孫であることは間違いないだろう。皇帝陛下の姪、私の従姉妹だ。皇族の身内に対する攻撃に対して、反撃しないとはあり得ない!」


 遂には国王陛下の周辺まで事態が飛び火してきた。


「さ、宰相。今の話は本当だと思うか?そうだとしてもミツキは我が王国の国民、しかも教会が認めた聖女。クリスティアン皇太子の言う宣戦布告などとの話になるとは考えられんが、どうなのだ。」


「陛下、落ち着き下さい。仰る通り、聖女様は我が王国の民であることは間違いない事実。また皇太子の言い分も想像が多く、主張も稚拙。そのまま帝国でも通るとは思えません。しかしながら聖女様への攻撃が続きますと両国間での軋轢になるであろう事は確か。まずは聖女様の身の安全を我が国で補償し、聖女様自身に落ち着いて我が国で暮らせると思っていただく事が最善かと。」


「そ、そうだな。外務卿も呼び、早急に帝国対策を検討する必要がある。すぐに召集を。」


「いや、陛下。まずはこの場を何とかするべきかと。特にそこの合金ロー、オホン!公爵令嬢を。」


 ホール中央ではいまだに「えー?お母さんが皇女様だった?まさかぁ」などと能天気な声が聞こえてきているが、この数時間だけで王国全体を2、3回ひっくり返すような展開が進んでいる。更に聖女はまだ何か言い足りないような事も叫んでいる。


 途中までは頑張った王太子もミツキの剣幕と明らかになる数々の衝撃の事実でリタイア寸前だ。


 今現在、一番状況を把握できていると思っている宰相にしてみてもコントロール出来るはずもなく、これ以上、余計な火種を増やさないでくれ、と心から念じるばかりだった。


 既にこの断罪劇が始まった時点で公爵家は動き出しており、教会も何やら動いている。


 このあと穏便にパーティが終わるのか、否かはミツキ悪魔アンネマリーの機嫌次第。

 


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