呪われ少年魔法師、呪いを解除して無双する〜パーティを追放されたら、貴族の令嬢や王女と仲良くなりました〜

桜 偉村

第一章

出会いと別れ

 早坂はやさか沙希さき吐血とけつした。激しい頭痛と倦怠感けんたいかんが彼女を襲う。

 原因は明白。限界を超えた魔力使用の後遺症だ。


 動かすたびに走る激痛を無視して、沙希は頭を持ち上げた。

 真っ先に視界に飛び込んできたのは水色髪の少年、瀬川せがわ空也くうや

 沙希とその仲間を助け、沙希のせいで重傷を負ったその少年は今、全身をローブで包んだ男の近くでうつ伏せになって倒れていた。完全に気を失っているのだろう。


「気絶しちゃったかー」


 空也の身体を持ち上げながら、男は本当に残念そうにため息を吐いた。


「君とはもっとお話ししてみたかったけど……仕方ないねぇ。僕のペット・・・・・もいっぱい殺してくれたことだし、死んでもらおうかなぁ」

「や、めて……!」


 空也の首に剣を当てる男に対し、沙希は声を振りしぼった。その左手は首から下げているペンダントを握りしめている。

 それは、沙希が本気で何かを望むときの癖だった。


 しかし今回は——否、今回も、と言ったほうが正しいかもしれないが——、そのペンダントは何の効力も発揮しなかった。


 一陣の風が吹いた後、地面にゴトリというにぶい音が響いた。


「あ、ああ……っ」


 転がってきた生首に、沙希はうつろな瞳で手を伸ばした。

 彼女の手がそれに触れた瞬間、再び風が吹いた。


「さて、と……回収しますかねぇ」


 男が二つの生首に手を伸ばす。しかし、彼の両手がそれらに触れることはなかった。


 その直前、まばゆい光が世界を包んだからだ。




 ◇ ◇ ◇




「――、――き」


 柔らかい声が聞こえる。


「沙希?」

「……ん」


 クリアになった沙希の視界では、流麗りゅうれいな黒髪をなびかせた少女が、心配そうな表情を浮かべていた。


「ぼーっとしていたようだけど、大丈夫?」

皐月さつき……様?」


 おしとやか、という表現がぴったりなその少女は、ローブに身を包んだ男たちの襲撃の際に護衛とともに逃がしたはずの、沙希の主人だった。

 沙希は慌てて自分の首に手をやった。ちゃんと繋がっていることに安堵を覚える。


 しかし、その安心感は一瞬で消え去った。

 がいない——。


「沙希、本当に大丈夫?」


 皐月が沙希の瞳をのぞき込む。

 沙希は一見すると無表情だが、付き合いの長い皐月は、その心の中にある不安を感じ取ったのだ。


「はい……皐月様」


 あの水色髪の少年は、空也はどこに——。

 そう続けようとした沙希の口は、中途半端に開かれたまま固まった。

 視界の端に、が広がっていたからだ。


 沙希の脳裏に七年前の記憶がよみがってきた。

 魔物に殺されたと思ったらその数時間前に戻っていたという、今でも現実に起きたとは思えない摩訶不思議な出来事。


 もし、あのときと同じで世界がループしたなら——、


「まだ、彼は生きている……⁉︎」


 沙希の目に希望の光が宿った。


「沙希?」

「——何でもありません。大丈夫です」


 沙希は皐月を安心させるように頷いた。


 何かを感じ取ったのか、皐月もそれ以上は踏み込んでこなかった。

 無理しては駄目よ、と言い残してその場を去っていく。


 沙希は視線を前方に向けた。

 彼は私たちを助けてくれた。今度は、私が彼を救う番だ——。


 自分が柄にもなく熱くなっているのを自覚しながら、沙希は首から下げたペンダントを握りしめた。

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