『バス停』

やましん(テンパー)

『バス停』 上 (全3部)

 『これは、フィクションです。この世とは、むかんけいです。』



         🐌………


 なにかの間違いで、こんどは、『地獄街道』に落っこちました。


 赤穂のときには、助けが入りましたが、ここには、またまた、誰も居ないです。


 恐竜さんもいない。


 深い霧に包まれながらも、わりに、ぼんやりと明るいです。


 空は見えません。


 目の前に、ひとつだけの標識があり、『地獄街道』と、こちら側にも、反対側にも、書いてあります。


 右も左も、高いポプラの木が立ち込めていますが、その奥は、深い霧のなかです。


 ただ、じゃりを敷き詰めたような広い道は、どちらがわも、遥かな先まで、見通せます。


 でも、先の先まで、なにもありません。



 ぼくは、なぜ、ここに居るのか、分かりません。


 そう。布団にうつ向きで、何かを書いていました。


 そこまでしか、分からない。


 急に、眠たくなったような覚えがあったりするような。


 今日は、だから、なにも持ち合わせもありません。


 食べ物も、飲み物も、ないです。


 スマホだけは、まだ、握っておりました。


 『バス停』というお話を書きかけていました。


 それは、ちゃんと、画面に残っておりました。


 でも、やはり、ここでは、圏外になっております。


 やましんが、過って地獄落ちするお話です。


 つまり、書いた通りになっているみたいな。


 そりゃ、まずいなあ。


 このあと、バスがやって来て、その行く先は、『地獄センター』です。


 そこでは、並ばされて、各々に行き先が指定されます。


 その、先頭に、看板を持ってるなにかがいましたが、近眼で、老眼で、乱視で、というぼくには読めないことにしました。


 『ぶ、ぶ〰️〰️〰️〰️〰️〰️🎵』


 あやややや。


 もう、バスが来ました。


 すると、ふわっと、すぐ横に、バス停が浮かび上がってきました。


 『バス停』


 と、丸くなった文字がありまして、下側には、時刻表が張ってあります。


 内容は、『地獄センターゆき』


 時間は、『随時』


 随時、なんてバス停の時刻表は、かつて、見たことがありません。


 『まてまて。乗らなきゃいいのかな。書き直そうか。』


 そこで、急遽、その箇所を修正しました。


 『ぼくは、バスには乗らず、ただ、車掌さんに尋ねた。『現世に行くバスはどちら?』と。……』


 そこまで、書き直して、送信しました。


 すると、なぜか、送信できたのです。


 『わお、バス停があるからかな。続きも直そう。』


 が、タイムアップです。


 バスが、きききっ、と、停まりました。


 『お待たせしましたあ。』


 幸子さんみたいな車掌さんが、ドアを開けました。


 『あ、あの、あの、現世に行くバスはどちら。』


 『はああ? また、珍妙な質問。ここは、地獄街道。どっちに行っても地獄センターですよ。乗らないなら、次のバスは、10 年後です。歩いてください。発車オーライ。』


 ぼくは、慌てて、ようやく。一言書き足しました。


 『車掌さんは、親切に答えました。』 

 

 すると、車掌さんは、こう言いました。


 『現世行きのバスは、1000年に一度だけ来ると聴いてます。じゃ、お身体大切にね。』


 🚌💨💨 ぷぷ〰️〰️〰️〰️〰️。


 確かに、親切に答えてくれましたが、ちょっと足りなかったな。


 地獄センターとかに、行ったほうがよかったか?


 いやいや、それは、気が滅入るだけ。


 その先は、さらに、深刻になります。


 えい。バス停があるうちに、書き直してしまえ。


 と、思うそばから、あわれ、バス停は露と消えてしまいました。


 『あやまあ!』


 ぼくは、いささか、呆然となりました。


 『これは、話が通じなくなったよな。つまり、バスには乗らないが、地獄に行くストーリーは、残ったままか。』


 書き直して、次の機会を待つしかないな。


 ぼくは、そう、思いました。


 当面は、ここから、動かないほうが、良いのではないか?


 ところが、な、なんと、スマホさんには、僕が書きもしないのに、つらつら、と、新しい文書が書かれてゆくではありませんか。


 『そのとき、ぼくの、後ろ側に、恐ろしい死神さんが現れた。ベックリンの死神のような。』


 『わ、わ、わ。消そう。なんだよな。』


 でも、なぜだか、その不気味な文章は、送信されてしまい、取り消しが入りません。


 『冗談ではありません。くそ、消えろ。ちちんぷいぷい。だめか。南無阿弥陀仏〰️〰️。だめ。なむ………… 』


 その瞬間、後ろ側に、あたかも、永遠の冷たさを感じました。


 きらり、と、輝く太い刃の先が、ぼくの首の真横にくっついたのです。


        

           つづく……


 


 


 


 


 


 

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