第31話『呪いの勇者、パパになる!』


 「パパ〜。ここ広いよ!」


 「そうだねーララちゃん。広いですねー」


 「カケルパパ、いい加減慣れて下さいよ。テキトーにあしらうんだから」


 「うるせーマリエル! 俺はパパじゃないんだー!」


 ダンジョンの最深部付近まで進んだ俺達は、荒れた広場のような場所に辿り着いていた。広いだけで何も無い、殺風景な場所だけど、人の気配は微かにしている。ララのママが居てくれていると信じたい。


 まだ少し先に、誰かの話し声がしているとエリィが教えてくれた事で、この奥に誘拐犯が潜伏していると俺は確信した。直ぐにでも駆けつけて、ママの生存を確かめたいが相手側次第だな。

 

 戦闘になった時、俺は奴らを殺さずに居られるだろうか。こんな外道の奴らだ。死んで詫びて貰った方が楽だけど、ララにとってはどうなんだろう。その、もしもが俺の脳裏によぎってしまって判断を間違えそうだ。


 声のする場所まで辿り着いた俺達は、五人組の男共の会話を盗み聞くことにしたが、その内容がクソ過ぎて吐き気がする。


 「早く、この女をドラゴンに差し出しましょうぜ親分」


 「まぁ待て。ガキをわざわざ放置したんだぞ? すぐにギルドの捜索隊が来るだろう。そいつらを皆殺しにして、金を奪ってからでも遅くねぇよ」


 「流石、親分! 一石二鳥ですね!」


 あれは、ララのママ何だろうか。とりあえずは、生存していてくれたみたいで安心した。

 

 助けに来るのを見越してそいつらを殺し、身ぐるみを剥ぐのがコイツらの手口らしい。ふざけたやろうだよな。こんな小さな女の子を悲しませて、悪事に悪事を重ねる悪党ぶりに、心底苛立ちを覚える。


 コイツらの発言から、俺は眼前の敵を殺す事しか考えていなかった。今思えば、相当酷い顔をしていたんだろうと思う。それを見たララは、俺を優しく抱きしめて言葉をかけてくれた。


 「パパ〜、怖い顔してるよ? 駄目だよ、パパにはそんな顔似合わないもん」


 恐怖するのでは無く、俺をララなりに慰めてくれていた。そんな顔似合わないって言われたのは初めてかもな。


 誰の差金か分からんが、変な世界に魔王を倒す為に召喚されて、挙げ句の果てには無能だと蔑まれて追放される。エリクシアやマリエル、アリアドネだって似たようなもんだ。虐げられ続けて、でもそれを糧にして集まったパーティだからな。


 誰かが虐げられるなんて、耐えられないんだよ。でも少しだけ、ララのおかげかもな。出来るだけ殺さずに、事を治めたいと思えてしまったんだから。


 「ありがとうララ。少しだけ俺は勇気を貰えた気がするよ」


 「うん! パパ大好き!」


 |(チョロいじゃねーか、変な成長しないといいけど)


 流石にこんな大人数で隠れていたら、監視の目に触れてしまったようで俺らの存在がバレてしまったようだ。騒ぎになり渋々奴らの前に現れる他ない。


 派手にやってやろうじゃねぇか。こんなふざけた連中には、しっかりとした報復が相応しい。俺達が護りたいと思う志、しかと通させて頂くぜ。


 「誰だ貴様ら!」


 「なんだ? 誰でもいいじゃねぇかよ。俺達は護りたい者を護りに来ただけさ」

 

 「はは。女が四人に男が一人だろ? 一体何者か知らねーが無理だよそんなのはな! 全員皆殺しにしてやるからよ!」


 「やれるもんならやってみな。こっから先は、誰も死なねぇさ。娘のララに感謝しろよ、パパの俺が貴様らを生かしてやるよ!」

 

 仮初だが、それでもいいだろう。今はララのパパとして、しっかりとララのママを助けよう。二度と選択を間違えないように、俺自身が立てた誓いの為に。


 諸刃の剣を地面に突き刺し、奴ら悪党の前に俺は立ち塞がった。

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