第30話『呪いの勇者は、ドラゴンの巣に潜入する』


 「シスターさんにエルフちゃん。そして貧乳さん!」


 「誰ですか! そんな不名誉な呼び方を教えたのは!」


 「パパが教えてくれたの〜」


 マリエルに胸ぐらを掴まれて、ガンを飛ばされています。ザマァみやがれ。可哀想なパパですね〜、何て言って俺を煽るからいけないんだ。 


 やってやった達成感から、顔のニヤつきが止まらない。子供って嫌いだったけど、こういう時は素直だしなんか好きになっちまいそうだ。


 そんな冗談をマリエルやララ達と楽しみながら話していると、目的地である竜の巣のふもと付近に到着していた。この山の山頂に、例の生贄を欲するボスドラゴンが潜んでいるとの情報だ。気を引き締めて行かねばならない。


 登山のようなイメージをしてたけど、そういう訳でも無いようだ。山の中腹まで行くには、そこまで繋がっているダンジョンのような洞窟を通らなければいけないようで、中々骨が折れるだろうな。


 この道中で、雑魚に囲まれると厄介だからな。正直言って、俺のパーティは雑魚戦が苦手だから、あまり相手をしたくないってのもある。


 マリエルは、大技を一発しか出せないから俺の諸刃の剣でしか倒す手段がない。そうあっては、俺ばかり消耗してドラゴン討伐どころでは無くなってしまう。考えてダンジョンを攻略したい。


 今日だけは、魔物のヘイトを集めないで欲しいと祈るばかりです。最善の注意を払い、俺達はダンジョンへ突入するが辺り一面、荒廃した砂漠に近い風景が広がる。立派な大樹だったであろう木は、腐り果てていて触ると粉々に砕けそうだ。


 ダンジョンに大樹ってのも珍しいなと思っていると、俺にだけ分かる違和感と呼べる何かを感じてしまう。生き物の気配はするんだけどな。


 ーーこのダンジョンには、魔物がいないんだ。


 魔物の気配では無い、何かの気配の正体は分かりきっていた事なんだけど、エリクシア以外は分からないだろうから念のために情報を共有する事にした。


 「このダンジョン、魔物がいないんだ」


 「そうなんですか? カケルさんの気配読みは凄いですね。では、一体何が居るんでしょう」


 「カケル様は、恐らく魔物以外の気配を感じ取ったのではないでしょうか。例えば……。誘拐犯の気配とかでしょうか」


 「お! アリア鋭いな。多分その線が濃厚だと思う。エリィ、何か聞こえるか?」


 「うん。女性が一人、男が五人。このダンジョンの最深部に居るよ。女性だけは喋ってないっぽいけどね」


 「流石、エリィは耳がいいな! 大方、口でも塞がれているんだろう」


 とりあえず、このダンジョンの最新部まで行かないと、状況までは分からないからな。恐らく、最深部に居るってことは誘拐犯で間違いないだろう。ドラゴンへ、生贄として差し出す前に何とか阻止しないといけない。


 敵もいないし進みやすそうだとは思ってたけど、全然そんなこと無かった。何なら死にそうなんだけど、子供抱えて歩きながらトラップを避けるなんて正気じゃねぇよ。


 体力の消耗が激しいので、ララの世話をマリエルに任せるが、結構乗り気で安心したよ。何ならずっと任せてもいいだろうか。俺の事だけで精一杯なので、ララのことまで構ってやれん。


 マリエルとララは、二人で歌いながら手を繋ぎはしゃいでいた。マリエルは、子供のあやし方を熟知してやがる。こんな一面があるなんて、知らなかったな。流石、貧乳だけある。


 「パパ〜。ママはここにいるの〜?」


 「だからパパって呼ぶな! まだ俺は青春出来てねぇーんだよ! まぁ、ママは居るんじゃないか。居てくれないと困るんだけどな」


 居ないとなると、既にドラゴンの生贄になっている可能性が高まってしまう。それだけが、一番最悪のシナリオである。


 ーー絶対に助けてみせる。


 あの日誓った約束だけは、決して曲げちゃいけねぇよな。


 不安に駆り立てながらも、俺達は前に進むしかないんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る