第11話『呪いの勇者の激昂』


 「あ、カケルさんそれ頂きますね!」

 「おいふざけんな! どんだけ食うんだよ!」

 「えー。カケルさんの食事が遅いだけでは?」

 「やかましいわ! 返せ!」


 俺達は、たまにはギルドに顔でも出そうと夜のギルド酒場まで出向き食事を取っていた。いつもの様にマリエルとおかずの取り合いをしており、エリクシアとアリアドネが優しく微笑んでくれる、当たり前の日常になる筈だったんです。


 ーーアイツらがやって来るまでは。


 四人の若者がギルド酒場にやって来て、乱暴な態度で冒険者達を威圧していた。たまに居るんだよな。生きがって、俺が一番偉いんだと、周囲にアピールしたくて堪らない糞野郎がな。


 「俺様は勇者だぞ? 料理に金払っててのか?」


 「勇者様でしたか。大変失礼致しました。ですが、ギルドで乱暴な態度はしないで頂きたい。」

 

 「うるせー! ありったけの料理と酒を出せ」

 

 「生憎ですが、この街も余り余裕がありません。タダでは料理を運ぶ事は出来ないのですよ」


 「あ? 文句があるってんだな」


 勇者と名乗る連中の糞っぷりにイライラが募り、俺は殴られそうになる料理長を庇い殴られてやった。


 「何だそのヘナちょこパンチはよ。マリエルのパンチの方が良く効くな」


 「お前、カケルか!?」


 「お前、智治(ともはる)か!」


 会いたくない奴に出会ってしまった。俺を勇者パーティから追放した張本人。勇者、智治とその御一行だった。


 俺が殴られて只事では無くなった、エリクシアとマリエル、そしてアリアドネは、俺の元まで駆け寄り戦闘態勢に入る。互いに睨み合いにある覚悟をしていたが、俺は拍子抜けする。


 「久しぶりじゃないかカケル! 元気にしてたんだね。おや? そこに並んでるのは君の仲間かい? 女性だらけだし随分弱そうだけど」


 「何だ今更。お前に関係ないだろ」


 「関係ならあるさ。俺はカケルをパーティにまた入れてやろうと思っててね。そんな無能な雑魚達なんか捨てて俺達と魔王を倒しに行こう」


 「断る。帰れ」


 「何だ? 魔王幹部クラスのイフリートを倒したことで調子に乗ってるんだよね? 僕らですらまだ魔王幹部を倒して無いのに凄いよ。無能なりに良く頑張ったね、偉い偉い」


 「……は?」


 口だけなら何とでも言ってくれて構わない。みんなを悪く言うのだけは流石にムカつくが、俺が無能であることは変わりないのだから。


 俺と智治が睨み合いをしていると、槍の勇者、一樹がエリクシア達に近づき何かを企む様な顔つきになっていた。


 「揃いも揃ってクズみたいなメンツだな。カケルは腐っても勇者だ。もうパーティは解散。大人しくお家帰んな」


 「帰る訳ないでしょ。勇者として恥ずかしく無いんですか! お前達の方ががよっぽどクズです。人を見下して楽しいんですか?」


 「文句あんのかクソアマ!」


 腕を掴み取り、持ち上げて弄ぶ槍の勇者にエリクシアとアリアドネが猛抗議するが、聞く耳持たずにそのままマリエルを地面に投げつけようとしている。


 その状況を見た俺は、完全に思考が止まってしまった。仲間を傷つけるクソ勇者共に激しく激昂し、絶対に殺すと人間を辞めたような感情から来る、明確な殺意であった事だけが記憶に残っていた。


 「痛いです! 離して!」


 「俺様に歯向かうからだよ。体で分からせて……」


 「ーーおい、俺の仲間に何してんだよ」


 背後から声を掛けて、一樹にありったけの殺意をぶつける。


 俺は、仲間を傷つける奴を絶対に許さない。俺が護るってみんなに誓ったんだから。


 「ーーか、カケル!? なんだその殺気!」


 「マリエル、詠唱開始!」


 「は、はい! スロー・ギアクル!」


 「何だそれ。ただの遅延魔法じゃないか。マイティガードが張られた俺ら勇者に効く訳が……」


 ーーブン!!


 まるで、悪魔や魔獣の類いだったらしい。悪鬼が如く、相手の後方に回り、俺の諸刃の剣の一閃が槍の勇者に直撃してギルド酒場から盛大に弾き飛ばす。


 ここで、俺は理性が戻り自分でも事の凄さに唖然とするが、まぁ知ったことじゃないな。大切な仲間達を護る為なら、人であろうと神であろうと殺してみせる覚悟があるんだから。


 「あ〜、ごめんごめん。手が滑っちゃた〜」


 「な、なんてことしてくれたんだカケル。俺達を敵に回してタダで済むと思ってんのか?」


 「タダで済むんだろ? 勇者なら。飯代だってタダにしようとしてたんだから」


 「無能の癖に減らず口だな。せっかくパーティに戻してやろうと思ってたのに」


 「俺は戻らねぇよ。大切な、本物の仲間がいるからな」


 テキトーに智治をあしらい、マリエルの元まで心配になり倒れる身体を抱えて上げた。怪我とかが無くて、本当によかった。もし、怪我でもしていれば、確実に殺していただろうから。


 「無事そうだな。マリエル、みんなと屋敷に帰ろう」

 「はい、カケルさん。格好よかったです」

 「茶化すんじゃねぇー! 元気で本当によかった」


 騒動の中、みんなとギルド酒場から出て行こうとする俺を、智治は見逃してはくれそうに無かった。文句が有り余ってんだろうな、仕方がない。盛大に言い返してやろう。


 「お前らのせいで、魔王が倒せなくなったらどう責任取るつもりなんだよ」


 「責任? 知ったこっちゃないね。智治達に俺は追放されているんだからもう赤の他人よ。構わねぇさ、魔王が世界滅ぼそうが勇者が全滅しようがな。これからも、俺が護りたい者は何一つ変わらねぇんだからよ」


 ぐうの音も出なくなった、智治の肩に手を置いて去り際にポツリと俺は耳打ちをする。


 「ーー今度、仲間に手ェ出したら殺すから」


 最後にそう言ってやった。俺は仲間と共に屋敷へと帰る為に帰路に着く。今日は散々な目にあった。かつての仲間にあんなにボロクソ言われるんだからな。


 あれでは、根が真面目のヒーラー、桜子がかわいそうだけど上手くやれてんだろうか。若干の不安を抱いてみたりする。


 「カケル様、あんなに凛々しかったのですね!」

 

 「凛々しいと言うより、あれは化け物でしたね。私には死神に見えました」


 「マリエル、一言多いぞ! 俺は剣を一太刀入れるだけで死にかけるんだからな。多少は労わりやがれ!」


 「仲間の為に命を懸ける。カケルは強いね」


 「全くエリィまで……。からかわないでくれよ……」



 本当は、殺すつもりだったんです。仲間がいるから踏みとどまっただけ。俺が人を殺す時、みんなは俺から離れてしまうだろうか。人生、二度目の殺人をしなくて良かったと今なら思うのです。

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