私立 御伽学園
藤田吾郎
プロローグ
それは幼き日。
俺は死にかけた。
なんだか全身が凄い痛い。
口からは鉄の味がするし、気持ち悪いくらいに吐き気がする。
そして姉ちゃんは俺を抱きしめながら俺の名前を呼びながら泣いている。
小さい子供の俺でも分かる『死』の実感。
そして、俺の隣にただ呆然と立ち尽くす1匹の灰色の獣が涙を流して、こう言う。
「済まない。本当に済まない!私のせいで……私のせいで!将来、優秀な退魔師を死なせてしまうなんて!」
その獣は、きっと何か事情があって誰かに追われていたのだろう。そこをたまたま通り掛かった俺と姉ちゃん。そして運悪く俺が何かの攻撃に当たってしまって今、死に掛けているのが現状なんだろう。
運が悪かっただけ。そう、俺は運が悪かっただけで幼くして、呆気なく死んでしまうんだ。
俺は血反吐を吐きながらも姉ちゃんに言いたい事がある。だけど、上手に声が出せない。声が出せないくらいに俺は弱っているんだ。
姉ちゃん。俺は不思議と何処も痛くないんだ。だから泣かないで。そして、ごめんね。姉ちゃんの大事な服を血で汚しちゃって。今は眠いから寝かせて。
それだけを言いたかった。その言葉が上手く伝えられない。口に出して言おうとしても声がどもって声にならない。でも、今は物凄く眠くて寝たいんだ。また起きたら、ちゃんと言うから泣かないで?
「私のせいで、この子が死ぬなら私の命……いや私の魂で、この子を生きらせる。私は魂だけになるが、どんな時でも私は君を見守り続ける。これだけは謝らせてくれ。退魔師としての才能を潰してしまう事。私という化け物の魂を君に定着させてしまう事を……」
そして灰色の獣は光となり、俺の体内に入っていくかのように吸収されると消えてなくなり俺はそのまんま姉ちゃんに抱かれながら気を失う。
ブーブーブーと俺のスマホことスマートフォンの目覚ましアラームで眼が覚める。
久し振りに見たな、あの夢。もう、10年以上前の出来事なんだけどさ。あの、夢は俺の過去に起きた嘘偽りのない事実無根の出来事であり、その出来事が原因で今でも俺に苦悩と孤独を煩わせてる。
「眠い。」
俺はスマホのアラームをスヌーズにして一旦、二度寝する事を決めてベッドの中に再び横になり、寝ようとするが、ソレを許そうとしないのが俺の姉。
「カズ君!ほら、二度寝はしないの!早く起きて朝ご飯食べて学校に行く準備をするの!」
きっと何処の家でも必ず起きるであろう現象。二度寝しようとすると必ず人のプライベートルームにズカズカと入り込み布団を無理矢理に剥がしては叩き起こされるという、この光景。
だいたいはオカンと言われる人がそれをするが俺ん家は違う。オカンではなく姉ちゃんだ。年が離れているせいか、姉ちゃんではなく、ほぼオカンに近い。
ちなみに姉ちゃんは独身で恋人なし。近所では美人と有名。ただ恋人を作るのは俺が大人になってかららしい。俺が大人になるのは何年先になるのやら。
そんなんだと行き遅れになるぞって口に出しては言えない。行き遅れなんて言ったあかつきには半殺しにされるから障らぬ神に祟りなし。クワバラ、クワバラ。
「ほら、起きなさい。カズ君!学校に遅れちゃうわよ。」
「眠い。」
「もう!朝ご飯にはカズ君の大好きな鯵の干物と出汁巻き卵と長ネギたっぷりの納豆と豆腐とネギの味噌汁と白米をどんぶり特盛りで用意したから。」
「今すぐに台所に行くから待ってて姉ちゃん。」
俺の好物を朝飯に用意してくれるなんてさすが姉ちゃん。俺の眠気をすぐに吹き飛ばす言葉を聞いてベッドから勢いよく飛び起きて、すぐに台所へ向かい椅子に座ると目の前には姉ちゃんの言った通り、俺の好物のオカズが用意してあり、どんぶりにはまさに山盛りと言う言葉に相応しい白米が盛られている。
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