第3話 あたしだけでも!

 帰り道。あたしはリス美に宣言した。


「ええ、一匹で犯人を探すつもりなの⁉」


 肩の上で大声を出すリス美。

 耳に近いせいでキーン、ってなった。


「ああんもう! そんなところで大声出したら耳が痒くなるじゃない!」

「あ、ごめん……でもコンちゃん、本気なの?」

「あたりまえでしょ! だってこのままじゃあたし、気が済まないもん!」

「で、でも……フク爺やヴォルフさんに怒られちゃうんじゃ……」

「いいの! いつものことだから!」

「それはそれで問題あるよコンちゃん……」


 リス美のいうことはもっともだけど、だからといってこのままなかったことにするなんて許せない。

 だって現にタヌ男は死にかけているんだもん。


「ねえリス美。あんたはあの時、どこでなにをしてたの?」

「もしかして、わたしを疑ってるの……?」

「そうじゃないよ。でももしかしたらリス美が犯人とあってるかもしれないじゃない」


 リス美は少しだけ戸惑った様子だったが、やがて口を開いた。


「……わたしは、メェくんから羊毛をもらってたの」

「羊毛? なんで?」

「ほら、今年は特に寒いでしょ? だから羊毛を毛皮の上に着て暖まろうと思って」

「そっか……。リス美があったのはメェくんだけ?」

「うん」


 リス美が頷いて少しだけほっとした。

 とはいえ、最初から彼女やメェくんは疑っていない。

 タヌ男は首を切り裂かれてた。あの傷はたぶん肉食動物。傷そのものはあまり大きくなかったからたぶん小型から中型の肉食動物だと思う。


「オッケー。じゃああたし、他のみんなにも聞いてくる!」


 あたしが駆けだすとリス美は肩から飛び降りた。


「あ、コンちゃん! まだ犯人がうろついてるかもしれないから気をつけてね!」


 とりあえず思いついた相手を尋ねてみる。

 まず最初に向かったのはシベリアトラの虎次郎さん。


「俺は家から一歩もでてないぜ」


 大きな木の洞の中で、虎次郎さんはブスっとした顔で岩のテーブルに頬杖をつきながらいった。


「そうなの?」

「そりゃそうさ。だれかさんが俺の毛皮をもってっちまったからな。寒くてとてもじゃないが外になんかでらんねーよ」

「あはは……なるほど」


 次に聞き込みしたのは崖の下の洞窟に住んでいるコウモリのモリさん。


「あらぁ……コンちゃんどうしたのぉ……?」

「あのねモリさん。今日はなにかしてた?」

「なにかってぇ?」

「ええと、外に飛びにいったとか」

「しないわよぉ、そんなことぉ。わたしたちはこの時期眠くて眠くてしかたないんだものぉ。ふぁーあ」

「だよね……起こしてごめんね」

「いいえぇ……おやすみなさぁい……」


 次に尋ねたのは雪に掘った穴の中で暮らしている柴犬のシバタだ。


「よおコン! どうしたんだよ?」

「あんたが今日一日なにしてたか知りたくてきたの」


 あたしがそういうとシバタは「ええ⁉」と叫んだ。


「な、ななな、なんでコンが俺のこと……い、いや別にどーでもいいけどな。そんなこと!」


 ぷいっとそっぽを向くシバタ。

 あいかわらずつんつんしちゃって嫌な奴。


「あんたにとってはどうでもよくても、あたしにとってはどうでもよくないの。いっとくけどこれタヌ男の犯人探しだからね」

「は、はぁ⁉ なんでコンがあいつのために⁉」

「別に理由なんてないけど?」

「まさか好きなのか⁉」

「はあ? なにいってんのあんた。いいから教えてよ」


 シバタはぎりぎりと歯噛みして、その後なぜかしょぼんとうなだれて、それからぽつぽつと話し始めた。


「今日は……久しぶりに雪が積もったからずっと走ってたよ」

「ずっと? 朝から?」

「うん」

「暇なの?」

「う、うるせえなあ! もういいだろ! はやくどっかいけよ!」

「怒んないでよ。あーあ、やな感じ」


 あたしが出ていこうとすると、シバタは「ちょっと待て!」と叫んだ。


「出てけっていったり、引き止めたりなんなの?」

「いや、なんていうか……気をつけろよ? お前」

「これでもあたしだって肉食なんだから大丈夫よ」


 っていっても、爪や牙なんてめったに使わないし、普段は魚さんや虫さんしか食べないけど。


「いや、そうじゃなくて……だってお前、第一発見者だろ? 一番最初に疑われるのって普通に考えたら……」

「まさかあたし⁉ ええ、ちょっとまってよ……嘘でしょ……」


 正直かなりショックだった。

 だってあたしは本当にタヌ男のために犯人を捜していたから。


 でもシバタのいうことは正しい。

 こうやって犯人捜しをしているのだって、もしかしたら他の動物に罪をなすりつけようとしていると思われちゃうかも……。でも……だったらなおさら……。


「いやいやいや、俺はお前が犯人じゃないって知ってるから!」

「なんで知ってるの?」

「そ、それは……お、お前みたいなドジにやれるわけねーじゃん! ってこと!」

「なにそれ。馬鹿にしてんの?」

「う……そういうわけじゃないけど……」


 シバタはそれきり黙ってしまった。


「はぁ……あたし、もう行くね」

「……うん」

「あ、でも」

「え?」

「心配してくれて、ありがとね」

「~~~~~~~~~!」


 あたしがウィンクすると、シバタの顔がタコさんみたいに真っ赤になって千切れそうなくらい尻尾を振っていた。


 家を出て数秒後、どこかから「わおおおおおおおん!」という遠吠えが聞こえた。


「近いなぁ……誰だろ?」

 

 そんなことより、今一番疑われるのはあたしだってわかった。

 

 ならそれを晴らすためにも真犯人を見つけないと。


 俄然、やる気がでてきたぞぉ!

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