ここは楽しいケモケモランド!~血まみれ狸と銀世界の謎~

超新星 小石

第1話 白銀世界の赤い花

 ここは楽しいケモケモランド!

 肉食獣も草食獣もみんなみんな手を取り合って生きている夢の国!


 そしてあたしは狐のコンちゃん!

 さっき虎次郎のおじさんから毛皮を借りてきた、虎のを借る狐のコンちゃんだ!


 こいつでみんなを驚かせてやるんだ!

 

 そんな感じであたしは真っ白な息を吐きながら雪化粧に包まれたケモケモランドを走っていた。

 茂みに隠れて辺りの様子を伺うと、いたいた最初の獲物。


 エゾリスのリス美と羊のメェくんが楽しそうにおしゃべりしているぞ。

 ゆっくりゆっくり近づいて……、


「がおおおおおおおおおお!」

「きゃあああ⁉」

「うわあああ⁉」


 二匹ともびっくりして飛び上がった。


「あはは! ドッキリ、成功ー!」

「んもー、コンちゃんったら!」


 牛さんみたいに唸るリス美。


「そんな服まで着て酷いよコンちゃん!」


 メェくんもほっぺを真っ赤にしながらぷりぷり怒ってる。


「へへへーんだ! 驚かされるほうが悪いんだもーん!」


 あたしはあっかんべーしながら次の獲物を探しにいった。




 今度は木の下で話している狼のヴォルフさんとフクロウのフク爺を見つけた。

 あたしは木の後ろにまわりこんでするすると登っていく。

 二匹のちょうど真上までくると、にしし、と笑って飛び降りた。


「がおおおおおおおおお!」

「今年もなんとか食料の備蓄がたりそうで――――おっと」

「ぎゃん!」


 ヴォルフさんに尻尾を掴まれ逆さづりにされるあたし。


「おやおや、コンじゃないか。どうしたんだい上から降ってきたりなんかして」


 フク爺は眼鏡を押し上げながらしょぼしょぼした瞳であたしを見下ろしていた。


「あ、あはは……気分、かな……」

「おいコン。お前その毛皮あの虎野郎のものだろう。まさかそいつを着て俺たちを驚かそうとしてたんじゃないだろうな?」

「いやいやいや、とんでもごぜーませんよ旦那ぁ! ケモケモランドの守護者さまにそーんな大それたことするわけないじゃないっすか、なははは……はは……」


 笑ってごまかそうとするも、ヴォルフさんはぎろりと睨みつけてきた。

 くるくると尻尾がお尻の内側に丸まっていく。


「……ごめんなさい」

「もうするなよ」

「はぁい」


 ようやく解放してもらえてとぼとぼ肩を落として歩くあたし。

 二匹が見えなくなったところでにししと笑って再び走り出す。


「せっかくおねだりして借りたんだもん! もう少しくらい遊ばなきゃ!」





 

 次で最後。そう決めて獲物を探す。


 雪がちらつき始めたころ、丘の上の枯れ木を背に狸のタヌ男がうたたねしているのを見かけた。


 ありゃりゃ、あんなところで寝てたら風邪ひくぞぉ。しょうがない、心優しいコンちゃんが起こしてやろう。


 後ろからゆっくりゆっくり近づいていく。

 雪の上だから全然足音が鳴らない。

 すぐ後ろまでにじり寄ると、あたしは一気に飛び出した。


「がおおおおおおおおおおおおおお…………お?」


 タヌ男の肩をどん、と突き飛ばすと、彼はぐらりと傾いて雪の上に横たわった。

 タヌ男の首からはどくどくと真っ赤な血が流れ、純白の雪を緋色に染め上げる。


「タヌ男……? ねえ、冗談でしょ? 起きてよ、ねえ。ねえってば! タヌ男!」


 ゆすってみるが少しも反応がない。


「死ん……でる……?」


 雪に沈んだタヌ男の体は、まだ暖かかった。

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