ヒーローの秘密物語⑨




「やっと案内してくれる気になったか」


男たちはなかなか動こうとしなかったが、懐に忍ばせていた妙な機械や身分証明書のようなものを奪い取ると渋々言うことを聞き始めた。 


「まさか人間が黒幕だったなんてね」

「まだそうとは限らないけどな。 だけどアメーバとコイツらが繋がっているのは確かなようだ」


男たちが逃げないよう両腕を制服のネクタイで縛り死ぬこともできないようハンカチで猿ぐつわをしてある。


「・・・どこまで行く気だ?」


男たちはずっと歩いているだけ。 そして人通りが少ない場所へ来ると男たちは目配せをした。 そして栄輝に向かって何かを言っている。


―――何だ?


猿ぐつわを解くことを躊躇ったが何かの情報だと思い一人の男の口元からハンカチを外した。


「さっき奪った箱はどこにある?」

「箱って、このリモコンみたいなヤツか?」

「・・・そうだ」

「これは何なんだ?」

「我々の研究所にワープできる装置さ。 お前らみたいな一般人には理解の届かないテクノロジー。 別にどこでも使えるが、使えるところを見られると我々も命がないんでな」


ヒーローに変身できてしまうアイテムを使っていたため、ワープができるアイテムがあっても驚くことはなかった。 そもそも栄輝は一般人かもしれないが、奨は現在進行形でヒーローなのだ。

おそらく誰がヒーローであるか、末端である彼らは把握していないのだろう。


「本当なんだろうな? 抵抗も何もせず俺たちを簡単に招き入れていいのか?」

「お前らの目的は我々の研究所なんだろう? じゃあこれが罠だとして、千載一遇のチャンスを逃していいのか?」

「・・・罠だと知って飛び込めと」

「元々こんなことになるとは想定していなかった。 罠なんてあるはずがないだろ。 ただ研究所には我々の仲間がたくさんいる。 お前らのような部外者をのさばらせるわけがない」

「・・・そういうことか」


―――もう自分たちでは何もできないから仲間に頼るんだな。

―――確かにそれだとマズい。

―――折角ここまで来たのに向かった先で俺たちの記憶を消されてしまえば元も子もない。


奨は不安そうにこちらを見ている。 だが栄輝も最初から男たちの研究所を狙っていたのだ。 何も策を考えずに奨に提案したわけではなかった。


「この箱はどうやって使うんだ?」

「底にある小さなボタンを押せばワープできる」

「じゃあ使わせてもらうぞ」


男に再びハンカチを噛ませた。 男たちは無言で栄輝を見つめていたが躊躇わずにボタンを押す。 すると光が包み込み4人はワープした。 場所は見知らぬ大きな建物の前だった。


「ここか・・・。 見覚えのない場所だな」


見事に自然に囲まれていて人工物は目の前の施設のみ。 だから余計に違和感が凄い。


「栄輝、これからどうするの?」

「どうするってここにいる悪人を全員懲らしめるんだよ」

「全員!? どのくらいいるのか分からないけどそれは絶対に無理でしょ!!」

「どうしてそんなに弱気なんだ?」

「だって僕たち一般人が勝てるわけないじゃん!! 人間だけなら勝てる可能性もあるかもしれないけど、もしこの中にアメーバもいたらどうするのさ!?」

「その時はその時だ」


そういうことで堂々と入り口から入った。 すると早速とばかりに見張りの人に部外者だと気付かれ、銃のようなものを突き付けられる。


「栄輝!!」


咄嗟に奨が反応し栄輝との距離を取ってくれた。


―――ナイスだ、奨!!


見張りは二手に分かれた栄輝と奨のどちらに銃を向けたらいいのか迷っている様子。 おそらくこのようなことは初めてなのだ。 その一瞬の隙に背後から攻撃し銃を奪い取って無力化した。


「栄輝! 研究者のカードが必要だって!!」


先に入り口の様子を見に行っていた奨にそう言われた。 連れてきた男たちも無力化しカードを奪い彼らを置いて栄輝と奨は研究所へと乗り込む。


「これからどうする気?」

「とりあえずあるモノを探したいんだ」

「あるモノって?」

「一番大事なものはどこに隠すと思う?」

「んー・・・。 鍵付きの厳重な場所?」


幸い奪ったカードの裏には簡易的な研究所のマップが書かれていた。 それを頼りにそれらしきところへと向かう。 カードをかざすと簡単に認証された。 厳重な雰囲気のわりにセキュリティーは緩そうだ。

外界から隔離された空間ということで、安心してしまっているのかもしれない。


「行くぞ」

「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だ。 とりあえず入ったら攻撃を受けないように逃げまくれ」


そう言って扉を開いた。 栄輝たちの存在に気付いた多くの研究者が騒ぎ出す。


「部外者が侵入したぞ!!」


慌ただしくなる研究所内。 研究所全体に緊急放送している者もいれば武器を調達しようと取りにいっている者。 既に攻撃を開始している者や逃げまどっている者もいた。


「栄輝! どうするのさ!!」

「付いてこい!」


向かってくる人間の攻撃を何とかかわしながら問いかけてくる。 イレギュラーに慣れていないのか研究所内は騒然としていて、それは二人にとって都合がよかった。

栄輝はいくつかの部屋を探し、目的のものを発見した。


「あった!!」


靴を脱ぐと踵部分を使ってガラスを割り目的であった腕時計を手に取る。 腕時計が大量に保管されているのを見て、作戦が上手くいったことを確信した。


「奨! お前もヒーローになるんだ!! 変身!!」


そう言って腕時計を奨に向かって放った。



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