ヒーローの秘密物語⑤




恐らくその可能性は高いと思っていたが、現実に目の当たりにした喪失感は凄まじかった。 表情一つ取っても前の咲良とは違うと分かり涙が出そうになる。

また寝ようとする咲良の方を揺すると露骨に嫌そうな顔をされた。


「おい、咲良!! 朝まであんなに夢を追いかけていたのにどうして急にやる気がなくなってんだよ!?」

「朝は朝、今は今。 疲れたから寝させてよぉ・・・」

「幼稚園の頃から歌が大好きで小学生の頃から夢見ていたんだぞ!? そんな大事な夢をこんな簡単に・・・」

「よしなよ、栄輝。 ここは保健室なんだから」


奨に止められた。 被害者は咲良だけだが、アメーバが出たことにより不安で気分が悪くなったのか保健室へ来ている人が何人かいた。


「どうして・・・。 どうしてよりによって咲良が活力を吸い取られるんだよ・・・ッ!!」


―――まだ夢がない俺の活力を吸い取ればよかったのに!!

―――・・・こんなにも近くにいて咲良を守れなかったのはヒーローの俺のせいだ。


咲良はそのまま何のやる気も起きないのかベッドで寝てしまった。


「・・・俺、行ってくる」

「ちょっと!!」


栄輝が保健室を出ると奨が追いかけてきて行く手を阻まれた。


「行くってどこへ!?」

「分からない。 ただこのままだと俺の気が済まないんだ」

「そんなの僕だって同じだよ! だけど警察や自衛隊でもどうにもできないんだ。 仕方のないことだった」

「仕方がなくなんてない! とにかく俺はアメーバを許せない」

「近付いたら駄目だって! 栄輝まで活力を吸い取られる!!」

「俺の活力が吸い取られてでも、活力を取り戻す方法がないか探さないと」

「栄輝が探して見つけられるならとっくに政府が発表してるって!」

「とりあえず動いていた方がマシだ。 行ってくる」


そう言って押し退けようとすると奨が力尽くで食い止めようとした。


「栄輝はアメーバのことを全ッ然分かってない!! アメーバがどれだけ危険なのか身内が活力を吸い取られたらどれだけ悲しいことなのか!!」

「咲良の活力が吸い取られた時点で分かってるよ」

「いいや、分かってないね! 俺の気持ちは!? 栄輝まで活力を吸い取られたら俺はどうしたらいいの!? 俺だけ倍悲しめっていう気!?」


その言葉に手に力を込め栄輝も言い返した。


「奨だって全ッ然分かっていねぇだろ!!」

「ッ・・・」

「ヒーローがどれだけ頑張って日本を守っているのか分かってんのか!? 身内の活力が吸い取られようが悲しむ暇なんてない。

 アメーバが現れたら状況なんて関係なくすぐさま戦わないといけねぇんだよ!!」

「・・・」

「ヒーローだけが特別じゃないんだ。 ヒーローだって同じ人間だ。 俺たちと同じ感情を持っている。 その状況で一般人だけが甘えるわけにはいかねぇだろ!!」


―――・・・何を言ってんだ、俺。

―――一般人がアメーバに立ち向かっても絶対に勝てないっていうのに。

―――寧ろ目の前に一般人がいたら“邪魔だ、早く逃げろ”とか思っちまうのに。


奨は涙を浮かべながら押し黙っていた。


―――奨を責めるつもりなんてなかったのに。

―――・・・こんなの八つ当たりだよな。


そう思っていても言葉が飛び出てくるのは、これまで溜まった不満もあったからなのだろう。


「一般人が想像できないくらいの責任をヒーローは背負ってんだ! だけどヒーローは身を隠して生活を送らないといけないから誰も頑張りを褒めてはくれない!! ヒーローの大変さも分かれよ!

 寧ろヒーローを救うために一般人が頑張れよ!!」


そう言って立ち去ろうとする栄輝を奨はもう止めようとはしなかった。


―――でも本当にここからどうしよう。

―――アメーバに聞いても答えてくれるわけがない。

―――自力で活力を戻す方法を探した方がいいのか?

―――でもどうやって・・・。


考えながら街を歩いていると丁度アメーバを発見した。 日中ということもあり人々はあまりいなく被害は出ていないようだ。


―――・・・丁度よかった。

―――このムシャクシャする思いを晴らすことができる。


怒りをアメーバにぶつけようと変身のために物陰に隠れる。 腕時計型デバイスを操作しスイッチに触れた。


『変身』


だがそう唱えても変身できなかった。


「え・・・? どうしたんだ? 変身! 変身!!」


何度唱えても変身できない。 アメーバを見ると人間である栄輝に気付いたのかこちらへ近付いてきていた。


―――マズいッ・・・!

―――どうして変身できねぇんだよ!!


「・・・え?」


腕時計を触りながら試行錯誤していると、突然フラッシュバックのように過去の記憶が蘇った。



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