第29話 DAY23

 午前8時。俺がモーニングコーヒーを飲んでいる時のこと。


ピンポーン


インターホンが鳴る。こんな朝早くに誰だろうか?きいはたしか昨日の晩に帰ってきていたはず。てことはまさか…


「おはよ!ひい君!今日暇?」

「朝から何の用だ?きい。」

「とりあえずお土産ね。それで、今日1日好きなように過ごしていいってママに言われたから、とりあえずひい君暇かな〜って。」

「暇だけどよ。何するんだ?」

「やった!じゃあ、おじゃましまーす!」


ズカズカと家に入ってくるきい。掃除していないから、今日ダメだぞ。


「おお!やっぱり片付いているね!こうでなくっちゃ!」


何故だ?この短時間で何があった?少し物音がしたのでキッチンの方を見ると、桜が起きていた。


「おはよ、2人とも。」

「起きてたのか?まぁありがとな。」

「桜!久しぶり!」

「元気にしてた?」

「うん!」


テレビの前で何を見るか探しているきいに隠れて、俺は桜に耳打ちする。


(なんで、きいが来るって分かったんだ?)

(インターホンが鳴って目が覚めたんだけど、下から聞こえる話で何となく家に入ってくるかな?って思って、一応掃除しといた。)

(なるほど。ありがとよ。)


そんなにうるさくしていたのか。近所の皆さん、すみません。とりあえず、桜の朝ご飯を作ることにした。


 昼からと言うものの、ゲームしたり、トランプしたり、ドンジャラしたり。ここで外に行かないのは、長い間陰キャだったからだろう。


「きい、晩ご飯はどうするんだ?」

「ちょっと待ってね。えっと…うち来ないかだってさ。ひい君とも久しぶりに会ってみたいって。あとは桜も見てみたかったみたい。」

「じゃあ行くか!」


俺たちはきいの家で晩ご飯を食べることとなった。


 俺の家からきいの家までは徒歩2分。坂を下って、その道沿いにある。この道は何回も通ったから、目を瞑ってでも辿り着ける自信がある。そんなことを考えていたら、もう着いていた。


「ただいまぁ!」

「「お邪魔します。」」


リビングの方からパタパタと嬉しそうな足音が聞こえてくる。


「いらっしゃい!ひい君、桜ちゃん!」

「お久しぶりです。」

「あらぁ、久しぶりねぇ。4年ぶりくらいかしら。大きくなって…。ここで話すのも、足疲れるだろうから、入って。」


きいのお母さんは感嘆の表情を浮かべている。


 きいのお母さんの名前は、橋本千夜。年齢は知らないが、出身はこの近くらしい。とてもフランクに接してくれるので、『友達のお母さん』ではなく『お姉さん』に近い感じだ。


「ママ!今日の晩ご飯は?」

「カレーよ。生卵もチーズもあるから安心しなさい。」

「やったあぁぁぁ!」


そういえばきいは辛いもの苦手だったな。今も変わってないようだし、懐かしいな。ものの20分くらいで出来上がって、食卓には皿が並べられていた。


「自分で好きな量取ってきてね。あと、卵とチーズは冷蔵庫の中にあるから、それも自分で取ってきてね。」

『はーい!』


3人揃ってキッチンに向かう。炊飯器を開けると、そこには綺麗な光沢の白米が!いつもよりも少し少なめについで桜にしゃもじを渡す。次はルー。少しシャバシャバに出来上がったカレールーは、夏野菜が沢山入っていて、匂いだけでヨダレが出てきそうだ。これはご飯に見合った量をかけて、リビングに移動して、2人を待つ。次いで桜が俺とほぼ変わらない量を持ってきた。そしてきい。手にはチーズと生卵を持っていて、やっぱりまだ苦手なんだなと改めて思う。


『いただきます!』


手を合わせたあと1口目を口に運ぶ。口に入れた瞬間にスパイスの香りが口いっぱいに広がって、刺激がやってくる。確かに辛いがいい辛さだ。具材のナスやピーマンは1度焼かれていて、これまた香ばしい。ヤングコーンのカリッとした食感もいいアクセントになっていて、どこまで食べても飽きない味。これが主婦の力か…


「2人ともおいしい?」

「めちゃくちゃ美味しいです。このナスとか特に。」

「私もそれ思った!」

「そう、よかったわ。」


楽しい時間が過ぎていく。


 気づけば、外は真っ暗になっていた。晩ご飯のあとは、学校でのきいの様子や、友達のことなど、色々きいのお母さんに報告した。基本的にずっと笑顔だったが、成績の話になると少し曇った気がした。


「「お邪魔しました!」」

「2人ともまた来てね。桜ちゃんも泊まりに来たい時は基本的にはいつでもいいからね。」

「はい!また来ます!」

「じゃあ2人とも気をつけてね。」


軽く手を振るきいのお母さんに手を振り返す。少しノスタルジーを感じた。

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